セイの村にて④
「おう、よく来たな。
こっちに着て座ってくれ」
ギルバードさんが、店の入り口まで聞こえるぐらい比較的大きな声で、こっちに向かって話しかけてくる。
肺活量半端無いな。
全然本気で叫んでるのでわけでもないのに、比較的距離があるここまでちゃんと声が届いてくる。
レインを先頭にギルバードさんがいる机の近くまで近付く俺達三人。
するとノエルが立ち上がって、白のスカートのふちを両手で持ち、両手でスカートを少し広げる仕草をしてお辞儀をした。
よく分からないけど、こっちの世界の挨拶みたいなものなのかもしれない。
こっちの世界でも作法とかあったりするのかな。
ノエルは上下を白を基調とした控え目な感じの服装をしている。
フリルの付いた上に、下は白いスカート。
サラと同じ白みがかった銀髪だけど、服装は対照的だ。
ド派手とまでは言わないまでも、肩を露出したドレスで人目を引く格好のサラ。
肌の露出は控えめで、目立たない感じながら清楚な感じがするノエル。
まるで二人の性格を反映してるかのような服装だ。
ギルバードさんとノエルが座っている机は六人用なのか、椅子が六個設置されている。
俺から見て向こう側に三つのうち二つに、左からギルバードさんとノエルが座り、一番右が空席。
こっち側の椅子は三つ空いているので、俺達三人がギルバードさんに向かい合う感じで座れば丁度いいかな。
そんな事を考えてたら、挨拶を終えたノエルが、自分の左側にある空席の椅子を引いて言った。
「ここが空いてますので、セイヤさんこちらにどうぞ」
ピクッ。
実際に聞こえるわけではないが、俺には聞こえた。
サラさんの神経に触る時の効果音が確かに聞こえた。
ズカズカとノエルの前に歩み出るサラ。
ノエルが引いた空席の椅子の前に立ち、自分の左側の椅子を引いて俺に言った。
「セイヤ、ここが空いている。
ここに座るといい」
嫌な予感は的中した。
しかも、前哨戦で何故か俺まで巻き込まれている。
どうしたらいいんだ、どうするのが正解なんだ。
俺には答えが分からない。
答えを求めてレインに視線を送ると、レインも普通に机の前まで歩いていって、サラが引いた椅子の左側に座った。
「セイヤ、何してるの?
はやくここに座ったら?」
レインはサラが引いた椅子の場所を指し示す。
これで二対一か。
しかし、レインまでノエルに喧嘩を売った様にも見えなくも無い。
普通にサラの援護に回っただけなのか、サラとノエルの争いから俺を救うために敢えてノエルからの反感を買うのを覚悟の上で言ったのか、俺には分からなかった。
「二人もこう言ってるし、こっちに座らせて貰うね」
俺は一応ノエルに断りを入れてから、サラの引いた椅子に座る。
これでノエルとは対面で座る感じになった。
レインの対面はギルバードさん。
サラの対面はノエルがさっき引いた椅子で、今は空席。
全員が席に付いたので、今回の食事会の財布こと主催者のギルバードさんから、食事会開催の言葉を頂く。
「レイン、サラ、そしてセイヤ。
今日は疲れただろう、俺の奢りだ!
しっかり食べて英気を養ってくれ」
ギルバードさんがハギールさんに声を掛けた後、料理が机へと運ばれて来た。
料理を運んでくるのはノエルより一回りも二回りも小さい子供達。
年でいうとサラと同じか、それより小さいくらいだろうか。
本当にこの村って、老人と子供しかいないのかもしれないな。
俺の前に運ばれてきた暖かいスープ。
薄すぎず濃すぎない何の出汁かは分からないが、俺のやせ細っている胃袋に染み渡る優しく美味しい味。
全員の前に出されたボールに入っている新鮮な野菜。
それを各人に配られた小皿に取り分けて食べる。
新鮮な野菜のシャキシャキ感が溜まらない。
目の前に出された肉のステーキ。
これはポークラビットの肉だろうか?
俺が昨日食べた肉とは比べ物にならないぐらい美味い。
いくらでも食べれそうなほど美味しい肉を食べながら、新鮮な野菜をアクセントとして頂く。
ああ、美味しい、幸せだ。
食べることがこんなに嬉しい事だなんて。
日本にいた時は食べ物に困るという事なんて無かったからな。
この世界に来て初めてのマトモな食事。
日本にいた時にはこれより美味しいものが一杯あったけど、今はこの料理が最高に美味しく感じる。
やっぱり一番の調味料が空腹だっていうのは本当だったんだな。
それを改めて感じながら、自分の胃袋を必死で満たす俺。
しかし、そんな食事に夢中の俺を余所目に、女達の戦いは既に始まっていたのだった。
 




