セイの村にて③
「それじゃ、いこうか」
俺がそう言うと、お姫様みたいな優雅な歩きで近付いて来るサラ。
なんなの?
全然足元がおぼついた感じじゃないんですけど。
どうみても普通に歩けてますよね、というか、この歩き、この仕草、どうみても子供の歩きとは思えない洗練された動き。
一歩一歩踏み出すその様が映画のワンシーンのように、華麗であり重厚の様に感じられる。
日本にいた時は芸能人とかアイドルとかを間近で見たことがなかったんだけど、現場に居合わせたらこんな感じなんだろうなと、ふと想像してしまう。
それほどに一般人とは何か違うオーラを感じる。
というか、本当になんなんだ。
さっきまでずっと一緒にいたのにこんなオーラなんか感じなかったんだけど。
優雅に近付いてきたサラが俺の傍に来て言う。
「セイヤ、さっきみたいに、おぶって連れて行って欲しい」
俺は絶句するしか無かった。
「いやいや、サラ、どうみても普通に歩けてるよね?」
「実は、まだ貧血気味で本調子ではない。
今もかなり無理をしている」
「かなり無理してるの?
それじゃ、サラを置いて二人だけで行きましょうか、セイヤ」
サラは少しゴネたが、最初からゴネが通じると思っていなかったのか、俺とレインの説得に応じて自分の足で歩いて行くことになった。
「大丈夫よ、サラが歩けないようなら、セイヤの代わりに私がおぶってあげるから」
レインが不適な笑みを浮かべて、サラの顔を見つめながら言っていた。
サラが重症を負った時に自分が血だらけになるにもかかわらず、サラを抱き締めていたレインだ。
治療も俺がして、村に戻ってくるまでもずっと俺がサラを背負ってたし、自分で何も出来ずに全部俺任せにしてた自分が許せなかったというのもあったのかもしれないな。
セイの村に帰ってきて、戦闘面での心配がなくなった今、俺の代わりにサラの為になる事をしたい、サラを俺の代わりに背負って連れて行ってあげたいって気持ちがあるのかもしれない。
少し嬉しそうな表情でサラに話しかけてるレインを見て、俺はそう思った。
サラもドレスを着ながらレインに背負われて酒場に行くのは恥ずかしかったのか、レインに背負われて行くのは断固拒否の姿勢で、俺達三人は普通に歩いて行く事になった。
ギルバードさんに誘われた食事会みたいなもんだもんな。
もしかしたら、ギルバードさんの養女のノエルが来てる可能性もある。
目の敵にしてるノエルの前で、レインに背負われて行くというのはサラのプライドが許せないのかもしれない。
というか、もしノエルが来てたら、またサラとノエルの言い争いが始まるのか?
ギルバードさんがいる前なら、流石にサラも大人しくするんだろうか。
何か嫌な予感がしてきたぞ。
レインを先頭に、俺とサラが並んで歩く。
自然と狩りに行っていた時のフォーメーションでセイの酒場に向かう俺達三人。
セイの酒場の場所は知らないし、サラかレインに先導して貰えればと思ってたんだけど、言うまでも無かった事のようだ。
レインも流石に病み上がりのサラを先頭にして歩くのは気が引けたのか、フードを被っていない美少女お姫様風のサラを先頭にして晒すのに気が引けたのか、どう思ったのかは分からないけど、何を言う事も無く自然とレインが先頭を歩いたので、俺とサラがそれに続いて歩く感じで今に至る。
お、あれかな。
デカイ看板が掲げられている、周囲とは違い一際大きな建物。
看板にはデカデカと『セイの酒場』と書かれている。
レインを先頭に、俺達三人はセイの酒場の店内の中に入る。
木造作りの建物で、店の中も木で出来た作りになっている。
酒場というだけあって、日本にあるバーのような作りになっている印象だ。
カウンターの奥の棚には様々な種類のお酒のようなものが並べられており、長机のようなカウンターの前には個別の椅子が並んでいる。
店内は少し薄暗く、壁に設置されているランタンのようなものが店内を静かに照らしている。
カウンター以外にもテーブルや椅子が設置されていて、もう既に何人か人もいるようだ。
「いらっしゃい」
店の中に入ると、カウンターにいる恰幅の良い女性に声を掛けられた。
歳は30~40ぐらいだろうか。
肥満体とは言わないまでも、ぽっちゃりとした恰幅のいいおばちゃんというのが第一印象。
「こんばんは、ハギールさん。
今日はギルバードさんにご馳走になりに来ました」
レインが恰幅のいいおばちゃんこと、ハギールさんに話しかける。
当たり前の事かも知れないけど、レインとは既に顔見知りだったっぽいな。
「聞いてるよ、ギルバードさんの奢りだそうだし、遠慮せずにガンガン注文して頂戴な。
ギルバードさんならもうあっちにいるから。
ノエルちゃんも来てるよ」
ハギールさんが顔を向けたその先に、ギルバードさんとノエルが並んで座っていた。




