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間引き

「こんな所で一人で寝るなんて迂闊にもほどがある!

 ここは人里から離れていて、魔物も多い、襲われてたら死んでいたかもしれない」


「はい、すいません、返す言葉もございません」


 俺はサラさんに先ほどから説教されていた。

 建物の見張りの人も、興味深そうに、こっちを見ている。

 そういえば、二人は俺の事を役人の人に何て説明したのだろうか。

 見習い冒険者でも連れてきたとでも言ったのだろうか。


「まぁまぁ、セイヤも悪気があって寝たわけじゃないし。

 セイヤも昨日転生してきたばかりで疲れてるのに、無理やり連れ出して、ここで一人きりにしちゃった私達にも責任があるしさ」


「私はセイヤのためを思って言っている!

 レインもセイヤの為を思うなら、甘やかすのは良くない」

 

 あー、なんで寝ちゃったんだろ、罪悪感と後悔が半端無い。

 サラの言っていた通り、一歩間違えたら死んでいたかもしれない。

 座って待ってたのが良くなかったのかな、ちゃんと立って待ってたら良かった。


 その後もサラさんの小言は続き、俺はひたすら謝って何とか許して貰えました。



 そんなこんなで、やっと二人の依頼という名の狩りを見せて貰う事になったのだった。


「セイヤ、これから魔物との戦い方を見せてあげるから、私の剣の使い方を良く見ておきなさい」


 レインが魔物に向かって行き、剣を振るう。


「セイヤ、これから私が魔法を使う。

 私の魔法を良く見たほうがいい」


 サラが呪文を詠唱し、魔法を使う。


 二人は言葉上は言い争いながらも、攻撃のコンビネーションはぴったりで、俺が何かする間も無く軽々と魔物を狩っていった。

 大きな猪みたいな魔物、熊みたいなのや、蜘蛛みたいな魔物、ゼリー状の魔物や、人型の豚みたいな魔物、俺一人じゃ苦戦しそうな魔物を次々と屠っていく二人。

 俺はただただアイテムボックスで二人が倒した魔物を回収するだけだった。

 戦いに参加しようにも、参加する隙すらないよ。

 無理やり参加しても邪魔になるヴィジョンしか湧かない。 


「ここら辺に出る魔物はD級や、C級が多いわね。

 このエリアは問題無さそうね」 


 二人が依頼で、この辺りの魔物を狩っている理由。

 それは、魔物の分布を調べる事にある。

 この辺りのエリアには基本的にDランクからCランクの弱い魔物しかいない。

 よって、配備されている人員もそれ相応の人員しか配備されていない。 

 もしもBランク以上の魔物が移動してきていたり、発生していたら、周辺に配備している人員に被害が出かねない。

 それで、定期的に調査を兼ねて魔物を間引くついでに調査をしているとの事。

 また、適正なランクの人間に適正な魔物を狩らせる事で、国全体の戦力の質を上げるという目的もあるらしい。


「サラのおかげで、こういう美味しい依頼も回ってきやすいのよね」


 どうやら、サラは魔法学校に通うときも学費やら生活費やらを国に援助して貰ってたみたいだけど、卒業してからも色々と国に便宜を図って貰ってるみたいだな。

 優秀な人間に先行投資するのは国として当たり前の事なのかもしれない。

 普通の人間ならそれ相応の恩を感じるものだし、与えられたものの分だけは報いて返そうと思うのが人情というものだろう。


「セイヤはレインと違って物分りがいいから助かる」

 二人の依頼について、サラが俺に説明してくれた時に言ってくれた言葉だ。

 うん、レインは物覚え悪そうだし、サラも苦労してそうだな。


 サラがこの任務について教えてくれて分かったのだが。

 この任務にはもう一つの側面がある。

 それは、この隣国であるガラドス帝国の動向を探ること。

 相手の斥候や工作部隊の人間が侵入していないか見回るという役目もあるが、一番重要なのは魔物の種類と数を調査する事だ。

 戦争で一番重要なものは何か、それは兵站である。

 いかに食料を確保するか、それは戦争における永久の課題だ。

 つまり、相手の国の兵站になるかもしれない国境近くの食料となる類の魔物の数のを把握しておく事は、ガラドス帝国の動向を探ることにおいて重要な役割を果たす。

 逆に言えば、食料となる魔物を減らしておくことで相手の兵站を潰すことにもなるのだ。


 とは言っても、三人で狩る分にはそう減るものじゃないと思うけど。

 日ごろから調査しているのなら、食料となる魔物の類が激増すれば怪しいってのは分かるだろうけど。


「しかし、C級の魔物も安定して狩れるようになったわね。

 そろそろB級の魔物を狩ってB級に上がってもいい頃合かもね」


「問題ない。

 私の魔法ならB級の魔物でも倒せる。

 問題は、レインがB級相手に私が魔法を撃つまでの時間を稼げるかどうか」


「なら問題ないでしょ。

 一人でB級を倒しきるならまだしも、時間稼ぎだけならどうって事無いわよ。

 時間稼ぎだけならA級の魔物にだって……」


 ああ、そんなフラグを立てるのは辞めて下さいレインさん。

 ただでさえ、俺にとっては各上の敵ばっかりなんです。

 本当にもっと強い敵が出てきそうな気配があるから、マジで怖いんだけど。


「サラ、魔法力は残ってる?」


「問題ない。

まだ半分以上は残っている」


だいぶ魔法を使ってた気がするんだけど、

サラのMPの総量は半端無いな。

 

「オオオオオオッ!」


 なんだ!?

 魔物の雄叫びのような、この声は。

 なんか嫌な予感がするな。


 まだ姿も見えない魔物の雄叫びで空気が震えている。

 この気配、今までの魔物の比じゃない。


「何かヤバい気配がする、逃げよう!」


 俺がそう言って、レインに目を向けた瞬間。

 それは襲ってきた。

 目にも止まらぬ速さで、レインに襲い掛かる魔物。

 咄嗟に構えた剣で直撃は避けたみたいだが、衝撃でレインが吹っ飛ぶ。

 

 俺は剣を抜いて構える。

 サラは右手にショートロッドを持ち、目を閉じ、高速詠唱を行っている。


「万物を司りし魔素を、火の元素に。

 火の元素よ、より増大し、膨れ上がれ。

 火の元素よ、収縮し」


 次の瞬間、サラが吹っ飛んだ。

 剣を構えた俺の横を一瞬で過ぎ去り、サラの元へ一撃を加えた魔物。


 移動と攻撃が早すぎる。

 俺が目視する事も敵わない速さ、レベルが違いすぎる。

 どんな姿形の魔物か未だ視認すら出来ていない。


 俺がサラが吹っ飛ぶ音を聞いて振り返った瞬間、レインが魔物に切りかかっていた。

 レインが叫ぶ。


「私が時間を稼ぐから、セイヤはサラを連れて逃げて!」



   

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