過去
「オマエがそう思うのは、騙されているから。
先程も言った通り、あの女は取り繕った笑顔で男を騙し、本心では別の事を考えている腹黒い女」
しかし、サラは口が悪いなー。
レインも俺の事をアンタ呼ばわりだし、冒険者だとこんな感じの女の子が多いのかな。
確かに荒くれ者達の中でやっていくには、丁寧口調とかだと舐められるのかもしれないな。
特に女の子だとよく絡まれたりしそうな感じだし。
それで自然と舐められない様に口調がきつくなっていったのかもしれない。
これだけ可愛い女の子なんだ、前に男関係で色々あってから、この口調になったり、人前で容姿を隠すようにフードを被ったりするようになったのかもしれないな。
「サラはねー、超優秀で、頭の切れも抜群だからね。
一般的な女の子でしかないノエルちゃんに求めすぎちゃってると思うんだよね。
誰しもサラみたく強く生きれるわけじゃないし……。
ノエルちゃんの考えも、生き方も、女の子らしいといえば女の子らしい生き方とも言えるし、理解してあげろとまでは言わなくても、容認してあげてもいいと思うんだけどね」
レインの口ぶりからすると、レインもサラとノエルに何かあったのを知ってるぽいな。
まずいな、何か俺だけ部外者というか、何も知らないのに口だけだす無知な馬鹿みたいな役割を演じるハメになってるような気がしてきたぞ。
昨日知り合っただけの女の子の表面だけを見て分かった気になって判断してるとか、どうみても俺の方がアホな感じに思えてきた。
「んー。
その口ぶりだと、二人は何か知ってるみたいだけど。
良かったら詳しく教えてくれないかな?
俺には普通に良い子にしか思えなかったんだけど」
とりあえず無知な馬鹿な男を演じるしか無いか。
乗りかかった船だし、それが俺に課せられた役割なんだろう。
サラはため息をつき、仕方ないといった感じで話し始めた。
「セイヤ、お前はセイの村に近い、転生の教会の転生の間に転生した。
そこでギルバードとノエルに会った。
ギルバードとノエルは名目上墓参りという理由で、あそこを良く訪れている。
この地に転生してして間もないお前は、建物のある教会の中で人が来るのを待つだろう。
なぜなら、教会の中には人が訪れている形跡もあるし、あの辺りは魔物も出る、建物の中なら外よりは安全だし、雨風も凌げる。
そうして教会に滞在していたら、ギルバードとノエルに会う筈だ、あの二人は定期的にあそこに通っているのだから。
腹黒女はお前に会って小躍りしたに違いない。
あの女の夢が叶ったのだから。
その時のあの女の様子が目に浮かぶ。
お前に会った時に見せた笑顔は取り繕った笑顔ではなく、久しぶりの心からの笑顔だっただろう。
なんせ、長年待ち続けて、通い続けて、やっと出会えた転生人のマスターなのだから」
俺は素直に驚いた。
サラの言うことが、当たっていたというのもある。
けど、一番驚いたのは、殆ど話したことも無いのに、そこまで的確に状況を判断して分析して考察している事についてだ。
状況から察するに、ギルバードさんやノエルに話を聞いたわけではないだろう、ギルバードさんと俺がいた時のやり取りだけの断片的な情報からここまでの推察に至っているのだ。
「セイヤ、あの腹黒女は何故ギルバードに付いて転生の教会に通っていたと思う?」
ノエルからは両親の墓を見舞う為、ギルバードさんが墓参りをしてる間に雑用をこなす為と聞いていたけど、サラの話を聞く限り他の理由があったみたいだな。
長年待ち続けて、通い続けて、やっと出会えたマスター、か……。
「俺はギルバードさんの雑用を手伝う為というのと、教会の祭壇で両親への祈りを捧げる為と聞いた」
そう、俺はそう聞いた。
そしてそれは、嘘では無いのだろう。
ただ、本当に語るべき理由を語っていないだけの事で。
「それは表向きの理由。
教会の祭壇で両親への祈りを捧げる為と言ったが、あの女の両親が死んだ理由は知っているか?
ギルバードの恋人と親友が死んだ理由は知っているか?
お前のその表情だと、二人から理由までは聞いていないみたいだな。
この国の、ギルザバードの歴史は知っているか?
別に誕生から今までの歴史でなくてもいい、ここ10年の歴史だ。
知らないみたいだな。
ギルザバードの隣国との関係を知っているか?
セイの村がギルザバードのどの辺りに位置しているか知っているか?
このセイの村の位置も知らないみたいだな。
ここはギルザバードの国境に近い場所に位置している。
セイの村の状況を見たか?
老人ばかりだっただろう?
戦争で死んだからだ、若い者、特に戦える若い男や女が。
ギルバードの大切な人も、ノエルの大切な人も、その戦争で皆死んだ。
ここまで言えば分かるか?
あの腹黒女が何故あの場所に通い続けていたのかを。
あの女の両親の遺体はあの場所には無い。
遺体も無いあの場所に通い続けた理由、それは……」
俺はただ黙ってサラの話を聞き続けるしか無かった。




