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芽吹き

「『マスター』という言葉には、幾つかの意味がある。

 一つは、その道を極めしものという意味。

 剣や槍や弓や斧といった、各種武器を極めて頂点に達した人物のことを指したり、生産や製造など各種の特別な分野で歴史に残るような偉業を成した者、魔法の分野でも研究者や国単位で抱えるような人類で稀有な才能を持つものが多大な努力を払って成し遂げた結果を持って、この言葉が送られる。

 これが従来あった言葉の意味。

 もう一つが、異世界からやってきた者を指す言葉。

 異世界からやって来たものは、特別な能力や力や才能を持っている者が多く、人類の歴史に名を刻むような功績を残した者も多い。

 人類の危機などから、多くの人々を助けた功績などから、その道を極めしものという[マスター]という言葉を使って賞賛され、美化された歴史がある」


 魔法使い風の女の子が、マスターという言葉について説明してくれた。


「コイツがマスタークラスの才能の持ち主ねぇ……」


 レインが値踏みする様な目で俺を見詰めてくる。


「本当なら、どんな能力があるのか見せてみなさいよ」

 

 可愛い女の子の頼みなら、大概の男はホイホイ調子に乗って従ってしまうだろう。

 俺も女の子の耐性が無いので、色仕掛けには弱いだろうし、ホイホイ調子に乗って話してしまいそうだ。

 というか、能力があるって口を滑らせてしまったし。


「お断りします」

 

 だが断る。

 NOと言える日本人、それが俺だ。


「剣の才能も無い、弱い俺が自分の切り札をホイホイ話すわけが無いじゃないですか」


「ま、そりゃそうだな。

 初対面の人間にペラペラ自分の秘密について話してたら逆に先が思いやられる。

 特に生死に関わるものなら尚更な」


 明らかに不満そうな女二人組。


「セイヤの才能を見極めたいのなら、しばらく三人で行動してみたらどうだ?

 お前ら今日は、例の依頼をこなしにいくつもりなんだろ?」 


「そりゃ興味はありますけど、足手まといを連れて行く余裕は無いというか何と言うか」


「肉壁として使えば問題なし。

 危ないときはこの男を囮にして逃げればいい。

 そして命がかかった状況ならこの男も出し惜しみをしない、本当に[マスター]クラスの才能があるのかどうか見極められる」


 いや、なに三人で勝手に話を進めてるの。

 俺がこの二人に付いて行くメリットが無い気がするんだけど。

 てか、鉄の剣を研がないといけないし、行くわけねー。


「いや、行きませんよ、俺は剣を研がないといけませんし」


 そう言って、歯毀れした剣を見せる。


「ああ、それなら大丈夫だ。

 さっき見せて貰ったが、10分ぐらいあれば研ぎなおせるぞ。

 俺が研いでやってもいいが、毎回俺が研いでやるわけにもいかんし。

 研ぎ石を買うか、店で研いで貰うか、どっちにしろルーの店に行って考えるといい」


「ルーの店?」


「この村にある雑貨屋みたいな、なんでも屋の事よ!

 ノエルちゃんっていう、ギルバードさんの養女もそこで働いているわ!」


 ノエルってギルバードさんの養女だったのか。

 姿が見当たらないと思ってたら、ルーの店って所で働いてたのね。


「分かりました、ありがとうございます。

 それじゃ、ルーの店って所に行ってみます」


 そう言って立ち去ろうとしたら、ギルバードさんに止められた。

 何か大事な事を言うかのような真剣な目つきと気迫に押されて、俺は立ち止まりギルバードさんの話を聞くことになった。


「さっきのレインとの打ち合いで分かっただろう。

 セイヤ、お前は弱い。

 剣を見たから分かる、昨日は一人で頑張ったみたいだな。

 頑張った結果はどうだ?

 頑張った結果が今日の結果だぞ?

 もしもレインが魔物だったら、お前は今日ここで死んでいた。

 低級の狩場なら大丈夫だと思うか?

 何があるのか分からないのがこの世界だ、強い魔物が沸く事もあれば、悪意ある人間に襲われることもある、盗賊もいれば夜盗もいる。

 運悪くそんなのに襲われれば死亡だ。

 俺はな、勿体無いと思うんだよ。

 俺を超えるかもしれない才能が、運悪く強くなる前に芽を摘まれて芽吹かないまま消えていくのがな。

 人の本当の強さはな、個々の戦闘力だけじゃないんだ。

 人の本当の強さは、人との絆であり、繋がりだ。

 俺もな、昔は一匹狼を気取ってた時もあったのさ、結果はこの(ザマ)だ」


 ギルバードさんは、隻腕になった腕をアピールする。

 ゆっくりであり、それでも強く気持ちの篭った言葉で俺を説得し続ける。


「お前はまずこの世界の人との関わり方を覚えたほうがいい。

 それでこそ見えてくるものもあるし、学ぶことも多いはずだ」


 確かに、この世界の人から学びたいことは数多くある。

 特にこの世界の魔法には興味がある。

 魔法使い風の女の子なら、この世界の魔法が使えそうだし、それだけで付いて行くメリットはあるかもな。


「分かりました、なら剣を研いだ後に、お二人の依頼とやらにご一緒させてみて貰っても宜しいでしょうか?」


「いいけど、報酬は分けないわよ!」


「構いません、一回だけ試しにご一緒させて頂くだけですから」


「おうおう、やっぱり若いっていいもんだな。

 後は若いもんに任せて、年寄りは退散するとするわ」


 ギルバードさんは言いたいことだけ言って、最後は笑いながら退散していった。

 嵐のような人だな。


「じゃあ、準備が出来次第さっさと出発するわよ!」


「えっと、剣を研ぎにルーの店って所に行きたいんだけど」


「はやく行けばいい」 


「いや、場所が分からないんだけど」 


 嫌そうなレインに渋々場所案内をしてもらう俺なのであった。



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