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冒険者風の女の子

「はぁっ!!」

 

 掛け声と共に踏み込み、素早い剣捌きで攻撃を仕掛ける冒険者風の金髪女。

 対するギルバードさんは足を止めて、余裕を感じる剣の振り方で女の攻撃を全部流していく。


 右から切りかかった攻撃を、剣で弾き軌道を変えて防ぐ。

 女も防がれ弾かれた剣の動作慣性に逆らわず、流れるような剣捌きで次の攻撃に切り替えていく。

 

 剣と剣がぶつかり合い、カンカンカンという音が聞こえるのを余所目に、俺は周囲の状況を再確認する。

 隻腕隻眼のギルバードさんと、剣で打ち合っている冒険者風の金髪の女の子。

 周辺には、魔法使い風の女の子っぽい人が一人いるだけ。

 フードを被ってるので顔の全体像ははっきりしないけど、どうみてもノエルには見えない。

 身長も低めでかなり幼い感じの印象を受ける。

 服装はゲームでいう魔術師と占い師の中間のようなゴテゴテした感じ。

 フードが魔法使いというより、占い師を連想させる佇まいなんだよな、水晶球とかが似合いそうな服装だ。


 女冒険者風の女の子の知り合いなんだろうか。

 近付いて行って話をしたい、というか、どうみても魔法使い風な感じだし、この世界の魔法について知るまたとないチャンスじゃないか。

 そう思って魔法使い風の女の子の傍に近付いていく俺。

 ある程度の距離まで近付いて、ふと気付く、知らない女の子に話しかけるなんてまるでナンパみたいじゃないか!!


 考えてみて欲しい。

 日本ではまともに女の子と話しすら出来なかった俺である。

 幼い感じの、そこそこ可愛いかもしれない、魔法使い風のコスプレに見える女の子が一人で佇んでいる。

 そんなところに、どうして声を掛けていく事が出来るだろうか?

 そんなナンパみたいな事が出来るなら、日本で「ぼっち」になんてなっていない。


 魔法使い風の女の子のいる場所から、そこそこ離れた場所まで近付いて、そこからギルバードさんと冒険者風の女の子の模擬戦みたいなのを見学する事にした。

 魔法使い風の女の子は、俺が近付いて行った時から俺の存在に気付いたそぶりを見せてたけど、まるで関心が無さそうに俺を一瞥した後に二人の戦いに目を移していた。

 俺が彼女の傍に近付いても、彼女は場所を変えるわけでもなく、元いた位置のままから二人の戦いを見守っている。


 向こうから話かけてくるでもなし、俺から話しかけるでもなし、無言の空間に包まれたまま俺達二人はギルバートさんと冒険者風の女の子の戦いの行く末を見守っていた。


 暇なので二人の闘いをよく観察してたんだけど、冒険者風の女の子はやっぱり運動してるだけあってか、身体つきがいい。

 変な意味で言っているわけじゃなくて、筋肉の付き方とか、身体の作りとか的な意味でさ。

 日本人とは明らかに身体の作りが違う感じだ。

 例えるなら西洋風の足が長くて、手が長くて胴が短い感じかな。

 それでいて、一流スポーツ選手のような無駄の無い肉、脂肪分を落として動くための筋肉を最適化して付けたような、そんな感じの体付き。

 なんか洗練された美、みたいな感じの印象だ。


 対するギルバードさんも、ゴテゴテした服なので分かり辛いが、かなり筋肉があるように見える。

 剣の振りや威力もその筋力に依存してるのか、どうみても女の子の一撃より重い感じがするし。

 左腕が無く、右手一本で戦ってるから、冒険者風の女の子の攻撃に比べて動きがシャープに見える。

 左腕の振りで身体のバランスを取ったりしてるから、その予備動作や左腕の動きで重心の移動などから次の攻撃に向かうための予備動作の一環になってるんだけど、ギルバードさんは左腕が無いのでその予備動作が無い。


 というか、そもそも女の子は動き回って攻撃してるけど、ギルバードさんはその場から殆ど動かずに基本受身の姿勢だから、重心移動の予備動作があまりいらないというのもあるのかもしれないけどさ。

 

 ギルバードさんに比べたら未熟とはいえ、俺と比べたら断然の差だな。

 昨日初めて本物の剣を振った俺と比べること自体、女の子に対して失礼かもしれないけど。


「よし、今日の朝の訓練はここまでにしておくか」


 ギルバードさんの言葉がこっちまで聞こえてくる。

 というか、この村、全然人の気配が無いというか、人の生活音とか音とかが全くしないし、鳥とか動物の音とかが聞こえてくるだけだから、ギルバードさんの声がよく聞こえるな。

 木の剣のぶつかる音が聞こえるぐらいの静寂具合だったし、この村に人って殆どいないんじゃないのか?


「はい、ありがとうございました」

 

 冒険者風の女の子の言葉を初めて聞いた。

 掛け声とかなら聞こえてたけど、意味のある文字列的な意味で。

 声を聴く限り、やっぱり女の子だよなぁ。

 女の子の体付きをした男とか、美少年が女の子風に見えたとかいうのでも無さそうだ。

 

 ノエル以外の女の子は初めて見たけど、やっぱり異世界は髪の毛がカラフルだな。

 ノエルは白に近い銀髪、冒険者風の女の子は金髪、魔法使い風の女の子はフード被ってるから見えなかったけど、ギルバードさんの髪の色とかは黒なんだけどな。

 そういえば、俺の髪の色って何色なんだろ。

 鏡とか見てないから分からないぞ、黒じゃなくなってたりするのかな。


 そんなどうでもいい事を考えてたら、ギルバードさんが俺に近付いてきて話しかけてくれた。


「やることとやらは終わったみたいだな」


「途中から見に来てたみたいですけど、その男、ギルバードさんの知り合いですか?」


 なんか、ギルバードさんと一緒に冒険者風の女の子までこっちに来てしまった。


「ええ、昨日は一人で狩りもしてみたりしました」 


「ほう……」


 ギルバードさんは俺の腰にある剣に目をやり、「ちょっと見せてみろ」と言って俺の剣を鞘から抜いて剣の状態を確認し始めた。

 そして。こう言った。


「おい、レイン! こいつをちょっと揉んでやれ」

 

 ほぇ、揉んでやれって肩でも揉んでくれるのかな?

 というか、この冒険者風の女の子の名前はレインっていうのか。


「はい、ちょっとそこの男、はやくこっちに来なさい」


 レインは木剣の切っ先を俺に向けて、俺に向けて話しかけているというアピールしている。

 ああ、揉むってそういう意味ね、当たり前か。


 なんかいきなり変な展開になってきたぞ。

 俺、剣初心者というか、昨日初めて剣を握ったばっかりの超初心者なんですけど。 


 

 

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