連携魔法の為に
稲妻系の魔法の仕様が分かった事で、これからの予定を若干軌道修正する。
俺のトレーディングカード好きの血が騒ぎ出した気がする。
初めて自力で、携帯端末を使用せずにアイアンカードの攻撃魔法を発動させたという事実が、高揚感と満足感を促進し、それと共にもっと魔法を練習して威力と精度を向上させたいという欲求を生じさせ始めていた為だ。
土の稲妻を自力で発動できたのはいいけど、魔力の関係か携帯端末で発動させた時との威力の落差が大きすぎる。
稲妻系の魔法のメリットとデメリットが分かった為、それによる運用の仕方を考えていた。
まず、稲妻系の魔法のメリット、それは相手の頭上から魔法が発動する性質上、相手に魔法の発動を気付かれにくいという事。
相手に気付かれなかったら対応されにくくなるし、命中力も上がる。
それと推察でしかないが、頭上から重力で速度が加算される分だけアロー系よりも威力が上がるんじゃないだろうか。
岩石を具現化して攻撃する土の稲妻が特殊なのかもしれないが、水平に発射する土の矢より、垂直に落下する土の稲妻の方が威力が高い気がする。
土の矢が鋭利な先の尖った岩の矢を具現化して攻撃するものなら土の矢の方が攻撃力が高いかもしれないし、今はまだ推測の域を出ないけど。
稲妻系の魔法のデメリット、これはメリットと相反するように聞こえるかもしれないが、命中率の悪さだ。
相手の頭上から落下させるということは、相手の平面の移動に対して点で命中させるということになる。
矢の魔法が平行移動の攻撃なら、相手の平面移動により左右の移動で回避されるかもしれないが、接近と後退に対する距離の変動では威力の上下はあるにしろ、命中率という点では稲妻系より勝る。
矢の魔法なら稲妻の魔法と違い、相手の平面の移動に対して線で命中させるということになるからだ。
とはいえ、矢の魔法も稲妻の魔法より劣るデメリットがある。
それは矢の魔法が魔法使用者から放たれるだろうということだ。
戦闘中、一番凝視して警戒しているのは敵であり、相手の一挙手一投足を細かに観察しているはずであり、相手付近から発動する魔法は相手の視界内にあるのだから、矢の魔法はその相手の警戒網を突破して命中させなければいけないという枷がある。
逆に稲妻の魔法は相手の頭上から攻撃するという変則的な攻撃で、相手の警戒網を突破しやすい攻撃となる、とはいえ平面に対して点の攻撃なので、相手の足を止めるなど命中させるには一工夫必要になるだろう。
この矢と、稲妻の魔法のメリットとデメリットを考えると、矢を牽制に使って稲妻を当てるという戦術がまず思い浮かぶ。
矢を当てて仕留めれば良し、回避されたり耐えられたりしたら、追撃で稲妻の魔法を当てる、出来れば端末による発動で重い致命傷の一撃を与えるのが最良かな。
自力発動による矢なら隙も少ないし、相手の警戒もこっちの手元から発動される矢に注意が向けられる。
そこに予想外の頭上からの致命的な一撃、戦術としては理に適ってはいると思うんだけど。
どっちにしても、稲妻より矢の魔法がメインになる事は間違いなさそうだ。
明らかに矢方が汎用制が高いし、使い勝手が良い。
だから出来れば矢の魔法は温存しておきたかったんだけど、自力発動の稲妻の使い勝手が悪かったのもあり、魔法の練習意欲がかなり高まってる事もあり、矢の魔法を自力発動させる練習をしておく事にした。
練習せずにいきなり実践投入とかぶっつけ本番すぎるし、そのせいで温存した矢の魔法の在庫を抱えたまま死亡とか笑えない。
取り出したのは風の矢のアイアンカード。
火の矢は三枚あるが、周辺に木々が多い茂ってるので燃え移って火事になったら困るのでここでは火系統の魔法は使い辛い。
携帯端末には火の球のアイアンカードが刺さっていて、いつでも発動可能状態だけど、これを急いで使うときは緊急時の命がかかってる時だろうから火系統は使いにくいとか言ってる場合じゃないから仕方ない、というか今持ってる魔法で範囲攻撃なのが火の球しか無いのだから二重の意味で仕方ない。
ということで、風の矢を手に持ち、自力発動の練習をする。
狙うは50Mほど離れた木だ、あれのど真ん中に命中させたい。
戦闘中は移動中の敵に命中させないといけないのだ、止まってる的にぐらい当てれるようにならないと。
土の稲妻を発動させた時の要領でイメージを膨らませる。
風の矢を作り、それを飛ばすイメージ。
水平に、重力を考慮して山なりに矢を飛ばすイメージ。
風の矢だから、見えない風の矢のイメージ。
風を、空気を凝縮して矢の形に変えて、相手を攻撃する。
弓矢を引き絞り、弓で放つイメージ。
矢の先を鋭く、矢の先で相手を切り裂き、突き刺す。
目一杯溜めて、引き絞る、限界まで溜めて放つ。
風の矢発動!!
不可視の見えない風の矢が空気を切り裂き、水平に発射される。
重力を考慮して少し上を狙ったつもりだったけど、狙いより下に着弾。
不可視の見えない風の矢が、木を少し抉り風の矢が着弾した痕跡を残す。
うん、これなら十分実用可能な範囲内だな。
発動までの時間と威力がこれからの課題だろうか。
威力は魔力と使用MP依存って表示されてたけど、使用MPはカードに込められてるから実質、俺の魔力依存だな。
現在の俺の魔力は22。
携帯端末の魔法の威力から察するに、携帯端末の魔力はかなり高いんだろう。
けど、俺はこれからの鍛錬次第で魔力がどんどん上がっていくだろうから、魔法の威力も右肩上がりのはず。
威力はこれから解消されていくだろうから、後は魔法の発動技術を磨いていかないとな。
発動速度、命中精度がこれからの課題だ。
初めて発動させた風の矢の成果に満足しつつ、高揚した気分のまま歩き始める。
10分ほど道なりに歩いて、村らしきものが見えてきた。
村への道沿いにある周辺の畑では、お爺さんとお婆さんが農作業に精を出してる。
真っ直ぐ村を目指し、村の中へと足を進める。
近代的な日本の風景に慣れてるせいか、かなりの違和感を感じるな。
時代錯誤的な建物、作り、風景。
感情を廃し、黙々と村の中を見渡し、移動する。
村の中は静まりかえっていて、誰もいない。
人の気配を感じないので、更に村を探索する。
すると、何かがぶつかり合うような、カンカンという変な音がかすかに聞こえ始めた。
音のする方に足を向けると、段々と音が強くなってくる。
何かと何かがぶつかる様な、そんな音。
音の方に向かってみると、木剣を持って剣の打ち合いをしているギルバードさんがいた。
少しゴテゴテした感じの軽服のギルバードさんが、片手で木剣を持ち、打ち合っている相手。
軽鎧だろうか、急所だけを守るように装備されたプレートに、動きやすい軽装に身を包んだ人。
それは女の人であり、冒険者風の装いを感じさせる女性だった。




