キシンの村②
意味が分からない。
『神に遣われし魔界の勇者』とは一体何を意味するのだろうか。
俺の異世界語の理解の範疇を超えていて、理解に齟齬が生じているのだろうか。
それにしては、レインとブゼンの訝しげな表情を浮かべているように見える。
宗教的な衣装を見に纏っている若い女性。
その女性の目を見つめると俺と目が合う。
女性の視線は明らかに俺に向いているし、俺の後ろに人がいる気配も無い。
明らかに俺に対して話しかけている。
ブゼンとレインをスルーして、わざわざ俺に話しかけた理由。
言葉の意味の理解は置いておいても、俺をわざわざターゲットに選んだ理由はあるはずだ。
魔力の量か、外見か、現時点で判断して選んだのか、それとも先に下調べしてから選んだのか。
それに、言葉にも引っ掛かりがある。
『神』という言葉。
キシンの村が帰神という、神に関する宗教的なものを信じている人たちが住んでいる村という事から考えて、『神』というワードを使うのは、特段おかしい事ではないのかもしれない。
ただ、転生者として、神に近い存在に触れた身としては、わざわざ俺に話しかけて来たということに偶然ではない何かの意図を感じてしまう。
魔界というのは一体何なのだろうか。
魔法を使える世界だから、この世界の事をさしているのか。
それとも、魔族などがいる世界、よくゲームなどで目にする魔界をさしているのか。
「長がお待ちです。
着いてきて下さい、お連れの方もどうぞ」
戸惑っている俺ら三人を余所に、顔に模様を書いている若い女性は踵を返して、俺達を先導するかのように歩き始めた。
「ちょっと、意味が分からないんだけど」
「セイヤ、あの女、お前の知り合いか?」
憮然としながら、呟くレイン。
ブゼンは俺が女性と面識があると判断したのか、俺に質問を投げかけてきた。
当然、初対面である事を伝えると、ブゼンは顔に皺を作るように顔をしかめて訝しげな表情を浮かべた。
三者三様の面持ちで、女性の後を着いていく。
もちろん、これが罠という可能性もあるので警戒は怠らない。
罠である可能性もあるが、罠を張るにしてもこんなおかしい事を言う必要があるだろうか?
警戒心を強めさせるような言葉を投げかけて来たという事から察するに、それが逆に罠では無いという事を意味しているのではないのかと思わせる。
言葉自体は意味があり本当の事でも、こちらを拘束したり危害を加えたりする意図がある可能性もあるし、そう考えさせる事自体が罠である可能性もあるし、考え出したらきりがなくはあるんだけども。
「ここが長の屋敷です」
女性に案内されて連れられた場所は、禍々しい装飾と塗装が施された、他の家と比べて少し豪華で大きな作りになっている家だった。




