魔の森⑥
特に何事も無く、無事に目的地に着いた。
馬車の中で何かあったらすぐ動けるように、と身構えていたし、馬車周辺の魔物の気配や魔力にも注意を払っていたんだけど、魔物に襲われたりする事も無く無事に最初の村に着いた。
初めての馬車の旅ということもあり、少し気を張りすぎていたのかもしれない。
異世界だから、魔の森だから、危ない所だと勝手にイメージを膨らませすぎていたせいか、何事も無かったのが肩透かしの感じで、逆に村で何かあるんじゃないのかと不安感と不信感が増大してきてしまっている。
普通は村に着いたら、魔物に襲われる心配が減るわけだから、心も身体も休まるし、休めなくちゃいけないものだと思うんだけどさ。
しかし、今回は村に問題があるような気がして、気が抜けない。
馬車の中で、ブゼンと少し小話をしたせいかもしれない。
キシンの村。
ブゼン曰く、怪しげな人間ばかりが住んでいる怪しげな村らしい。
村全体が薄気味悪い感じで、村人も全員がどんよりとした感じで陽気な感じの人は見たこと無いとか。
全員が変な宗教みたいなのを信じてて、宗教活動みたいなワケの分からない儀式をしてるとか。
村のことのついでに、マゼンと一緒に馬車の前方の席に座って馬を操っている人の名前も聞いておいた。
ジザールというらしい。
普段は無口だが、戦闘や仕事などになると熱くなる男で、頼れるオッサンとか。
この世界、ギルザバード国だけなのかもしれないけれど、この国は短い名前の人間が多い。
地球のようにセカンドネームやミドルネームといった名前は、貴族や豪族など、国に認められたりして有名になったりしてから名付けるのが一般的なのだとか。
セイの村にもサラっていう小さな女の子は何人もいたしな。
レインって名前の子はいなかったけど。
サラがその事で、ノエルにイジラれてて、サラが魔韻の話を持ち出してノエルに反論してたな。
目を瞑っただけで、セイの村で過ごした日々の事がすぐ浮かんでくる。
サラとノエルが言い争ってたのが日常茶飯事で、色々と困ったりした事もあったけど今ではいい思い出だな。
馬車の中で、サラとレインは殆ど口を開かなかった。
サラとレインが男嫌い気味であるというのもそうだろうし、セイの村を出てナーバス気味になっているというのもあるだろう。
もちろん、いつ戦闘に入ってもおかしく無い準戦闘状態だったからというのもある。
けど、彼女達の性格的なものもあると思う。
サラは基本無口だ。
ただ、機嫌がいい時や、自分の好きなものについて話す時は饒舌になる。
レインは逆に普段から結構話すし、サラに比べたら社交性はある方だ。
ただ、機嫌が悪い時や、戦闘などの緊迫した状況だと無口になる。
だから、馬車の中で二人が何も喋らなかったのは、今まで通りの二人だということ。
そんな感じの二人だから、魔の森を抜けて村に着いて、安全な場所に着くまで向こうから口を開いてくる事は無いかなって思ってたけど、予想は外れた。
魔の森を抜けてキシンの村に着いたということで、馬車から降りる準備を始めた時。
レインが立ち上がろうとする俺に近寄ったかと思うと、耳元でこう話しかけてきた。
「ねぇ、セイヤ。
馬車の中で、ずっとノエルの事について考えてたでしょ?」




