魔の森③
「セイヤです。
セイヤって呼んで下さい」
俺は素直に自分の名前を明かす事にした。
この世界では割と変わった名前ではあるが、短い名前なので名前から素性を探られる可能性は低いだろう。
分かる人、それこそ日本から転生してきたような人が聞けば、名前から転生者だと分かるかも知れないけど、逆に日本から転生して来てる人が俺以外にもいるなら、会ってみたいというのもあるし、あえて日本からの転生者かも?と思わせる名前を使うのも悪くないアイデアだと思うしね。
これから冒険者として活動していくことになるわけだから、名前から転生者だと推察される可能性はあるけれど、美味しい仕事や依頼を引き受けていく為には実力もそうだけど、実績と信頼、そして自分の名が売れていかなければいけないわけだし。
転生直後は弱すぎたので、転生者だとバレるのは色々と不味かったけど、十分な実力を付けた今なら、逆に転生者かもしれない名前で強さをアピールしていくのは、これから冒険者としてやっていく為にも、名前を売って行く為にも必要なものでもあるだろう。
それに、強い人達は変わり者が多いらしいから、変わった名前や、変わった通り名の人も多いみたいだしね。
「俺はゼンだ。
ゼンと呼んでくれ。
と、言いたいところなんだが、そこの爺さんの名前もゼンなんでな。
俺のことはブゼンとでも呼んでくれ」
黒髪で顔に傷のある男が、そう口を開いた。
ライトアーマーとでも呼ぶべきか、レインの装備しているものよりも金属部分が多く、いかにも男向けといった感じの軽鎧を着込んでいる黒髪男、改めブゼン。
筋肉質の身体の上から着込んでいる鎧とか装備を見るからに、物理系、肉弾系、武器を使って自らの身体で戦うのを得意としてそうな感じだ。
だから、ゼンの前にそれと分かる冠詞を名前に付けたんだろうな。
武のゼン、ブゼンと俺は訳したけど。
「私の事はマゼンとお呼びください。
その名の通り、武術より魔術を得意としております」
鎧を着込んだブゼンとは対照的に、マゼンは年寄りらしい?と言ったら失礼かも知れないけれど、年相応に感じる服を着こなしている。
見た目は布のように見えるけど、布製の服ではないだろう。
サラのローブと同じように、魔力の伝導率を上げてくれる作用のある材質かもしれない。
魔の森に入ったということで、魔物に対応するため、マゼンが馬車の運転席?とでもいうべきか、馬の操舵を行うための席、馬車の荷車の前に位置する座席の方へ移動した。
馬車の足を止めないためにも、魔物の迎撃には弓などの遠距離か、魔法で対応するのが望ましい。
魔避けの魔法を使えるというマゼンが、魔除けの魔香を使って魔除けの魔法を施していた。
一種の知覚魔法の一種だろうか。
簡単に説明するなら、気配と魔力を魔物に悟らせにくくする、簡単なステルスを馬車に施す魔法といった所だろうか。




