魔の森②
「道沿いに魔物の気配は無かった。
ただ、道の近くの周辺にいた魔物が移動して、道に出てくる可能性はあると思う。
周辺にいる魔物は、魔力の感じからするとEかDってトコだと思うけど、あっちの方角にBランクぐらいはありそうな強い魔力を感じた」
俺はBランクはありそうな強い魔力を感じた方角を指差して、皆にアピールする。
俺の両隣にいるサラとレインの二人に伝わればいいように話したつもりだったけど、俺の言葉に反応したのは黒髪の顔に傷がある男だった。
「魔韻を使った高速詠唱に、広範囲を即座に索敵できる魔法。
嬢ちゃん達が見初めた男だから只者じゃないとは思っていたが、予想以上に期待できそうだな」
黒髪の男が喋るのに触発されたのか、白髪の男も口を開く。
「私は、異国から来ている商人のご子息と聞いていたんですけどもね。
先ほどの魔法、とても素晴らしかったです。
魔法力の生成から魔法の展開に至るまでの過程に淀みが無かった」
魔韻
それは、この世界における魔法技術の一つだ。
音に魔力を乗せる技術の一種で、自分の声に自分の魔力を乗せて使う事が多い。
詠唱魔法を発動する為には、自分の口から声として発する呪文と魔法発動の為のプロセスを関連付けて、何度も繰り返し反復練習しなければいけない。
魔法を発動する為のプロセスは多いから、呪文とプロセスを関連付けて覚える関係上、複雑な魔法や工程の多い魔法ほど詠唱も長くなってしまう。
その為、詠唱を短くする為の技術や、詠唱による魔法発動の確率を上げる事が出来る技術が数多く開発された。
魔韻も、その中の一つである。
音が振動を伝える波紋であるなら、魔韻は魔力を伝える波紋である。
音と併用して使用する事で、そこに込める事の出来る情報量は音の比で無いほどに上昇する。
一つの音に魔韻を乗せる事により、膨大な情報をその一つの音に乗せることすら可能なのだ。
その性質を利用して、詠唱魔法の発動確率を上げ、詠唱呪文を短縮して高速詠唱を行っている。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったな。
名前は……そうだな、答えたくなければ答えなくてもいい。
俺はお前の事を何て呼べばいいか教えてくれ」
俺が魔法を使ったのがトリガーになったのか、急に黒髪の男の人と、白髪の男の人が喋りだしたな。
サラは俺の左隣でフードを深く被ったまま座っていて、関わろうとする気配が全く無い。
俺の右に座っているレインも、俺が喋ったときは俺の方を見ていたけど、男二人が俺に絡みだしてからは我関せずといった感じで目を閉じて、瞑想してるとも、くつろいでいるとも取れる格好で座っている。
別に偽名を使う必要も無いし、隠す必要も無いよな。
両隣のツレが反応しない所から判断するに、俺の好きなようにやれって事だろう。




