馬車の中で⑩
レインはあまり考えて動くタイプじゃなくて、頭で考えるよりまず身体が動くタイプ。
だから、純粋に思ったことを、そのまま俺に言った感じだったのだろう。
サラは逆に色々と考えて物を言うタイプで、俺と似通っている所がある。
サラの言うとおり、格下の盗賊や夜盗、一般人に毛の生えた程度の強さの人間なら、純粋な戦闘力のスペックの差で何とかなるだろう。
問題は、戦闘力のある人間との戦いだ。
自分より格上の相手なら勿論の事、自分より格下の実力でも不意を突かれたり、罠に嵌められたり、絡み手を使われたり、策を弄されたり、魔物の戦いと違って一筋縄ではいかないのが対人戦であり、人と人との戦いであり殺し合いなのだ。
そう、殺し合い。
生き残るために、相手を殺すためなら人はどんな事だってする。
魔物も生き残る為には死にものぐるいでこちらに向かってくる。
しかし、人間は魔物とは違う。
相手を騙し、罠に嵌め、それが実力差を覆す結果を生み出す力に成り得るのだ。
人を殺す覚悟。
罠に嵌らず、策に弄されず、一つのものに捕らわれず、感情に流されず物事を客観的に見て判断し、冷静に対処していく。
相手が先手を打つなら、あえてそれを許して見逃し、対抗策を考えて実行するか。
後手の対応策を打つ場合が悪手なら、こちらから先手を打って仕掛けなければいけない時もあるだろう。
なんだか、カードゲームみたいだよな。
そういえば、カードゲームも対人戦だった。
相手の手札を読みあい、相手の思考を読み、相手の戦術を看破して場の状況を判断する。
自分の持てる手札から最適と思われるものを出し、場の状況の推移に応じて適宜対応する。
一時の不利が終局の勝利に貢献するものではない。
勝つ為に、未来を見越して一時の負けさえ選択する事が重要な時もある。
最終的な勝利を収めるために。
俺はカードゲームが好きだった。
相手の思考を読み、乗るか反るかの博打すら手に汗握って楽しんでいた。
自分の予想通りに事が進むと楽しかった。
相手の行動を、相手の手札と場の推移から読む。
こちらからあえて相手に有利な状況を見せることで、相手の思考や行動を縛ったり誘導したりもする。
俺の手の平で踊る相手を倒すことで得られる面白さもあれば、実力伯仲で運武天武に賭ける戦いの面白さもあれば、全身全霊知力の限りを尽くして戦う知能戦の面白さもあった。
けど、所詮、ゲームはゲームだ。
自分や相手や他人の命が掛かっていたわけじゃない。
安全な所で、娯楽として楽しんでいただけのゲーム。
魔法カードを使った魔法を駆使するのだから、俺にとっての戦いは、この世界でもカードゲームと呼べるものなのかもしれない。
ただ、日本で遊んでいた時とは決定的に違うことがある。
一度でも負ければ、手を誤れば、俺や仲間の命が一瞬で消し飛ぶ。
自分や仲間の命が掛かっている戦いだからだ。
日本で、ただ遊んでいたいたものとは背負っているものが違いすぎる。
そう、この世界での戦いは、俺の命を賭けたカードゲームとなるだろう。




