馬車の中で⑦
ガタンゴトン。
この馬車は、セイの村から一番近い、少し大きめの町に向かって走っている。
途中に何件か依頼をこなしながら、補給と休息を兼ねて途中にある村や町に滞在しながら、最終的には国境から少し離れた大都市を目指している。
国境から少し離れた所に位置する大都市、ラトン。
兵の駐屯地を兼ねた軍事都市であり、前線に配備される軍の総司令部が設置されている場所でもある。
こっち方面の各前線に配備される兵士は、まず軍事都市ラトンを経由して配備される事になるぐらい、地形的にも便利な場所に位置しており、物流や防衛などの観点においてもギルザバード国において重要な都市の一つである。
人が集まる所には物が集まる。
人と物が集まる所には金も集まり、人と物と金が集まる所では経済もまわる。
多くの兵が駐屯する軍事都市ラトンには、軍以外にも大勢の人が住み着き、商売人や冒険者達で賑っているらしい。
古くなった武器や防具、軍事物資などが安く流通し、活発な取引が行われているらしい。
また、数多くの人が存在することから、飲食業や歓楽業も盛んとのこと。
ちなみに歓楽業というのは、一応日本語に翻訳した直訳ではあるんだけど、違う言葉に置き換えていうなら、ようは風俗業という言葉が一番近い言葉。
一番近い言葉は風俗業ではあるんだけど、広義的な意味で風俗業以外の言葉も含んで使われているので歓楽業という言葉を使っている。
大道芸とか、楽器や玩具とか、人を楽しませたり遊ばせたりするもの全般も含んでいる言葉でもある。
そして、ラトンにはその歓楽業に含まれるものの一つとして、奴隷商というものが存在するらしい。
この国の奴隷というものは、国によって厳しく管理運営されているらしく、奴隷を買うのも売るものも国の許可が無ければ行うことが出来ない。
また、奴隷を買う為にはそれ相応の資格が必要で、一定以上の税金を国に納めている者や、一定ランク以上の冒険者、一定階級以上の軍人、貴族など、基本的に社会ステータスがあってお金もあり、奴隷を養い管理出来、そして奴隷が必要な人間じゃないと奴隷を買うことは許されていないらしい。
そして、勿論、奴隷の売買には多額の税金がかかっているので、奴隷を買うのは余程お金に余裕がある人間じゃないとダメらしい。
奴隷という言葉にもちょっと身を引かれる思いがあるというか、かなり興味もあるんだけど、今の俺じゃ分不相応だろうな。
俺の今の第一の目標はお金を稼ぐことと、冒険者登録をして、冒険者ランクをあげることだ。
お金を稼ぐ事は説明するまでも無いことだけど、生活費や装備品、生きていく為にはお金がいくらあっても困ることは無い。
この世界に来た時には、家や奴隷とかを買ってハーレムを作りたいとか、まずそんな不純であり、純粋でもある欲望が俺のやる気を出させてくれていたけど、今はそれ以上にやりたい事が出来た。
魔法学校に通うこと。
家を買うのも、奴隷を買うのも魅力的だけど、今は純粋に魔法学校というものに通ってみたい。
この世界に来て、魔法というものを知り、そして、魔法というものの奥深さを知った。
物知りなサラでさえも、人類の天才達が膨大な時間と労力をかけて研究してきた魔法というものの知識のほんのわずかの一端しか触れておらず、その一端の知識しか身に付けていない。
この国の魔法学校に通えば、過去の天才達が残した叡智の結晶とでも呼ぶべき書物や本、魔導具に触れる事が出来るし、それらを日々研究している魔法学校の先生から教えを請う事も出来る。
そして、更に上を目指すのならば、大陸中央に位置する超巨大国家ルーブルがあり、更に西に行けば魔法使いの聖地と呼ばれるアステアがある。
ルーブルにも、アステアにも興味は尽きないけど、今の第一目標はギルザバードの首都にある魔法学校に通う事だ。
小学校に通うことなく、中学や高校や大学や大学院を目指しても意味が無いように、まずは簡単なものや基礎的なものから順序立てて学んでいかなければいけない。
そして、この国の魔法学校に通う為のお金と身分を手に入れるために、俺はまず冒険者になろうと思っている。




