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馬車の中で⑥

 ガタンゴトン。


 馬車の揺れる音と、上下に揺さぶられるような振動で、俺の意識は過去への回想から現実へと引き戻される。

 馬車の中には魔術師風のフードを深く被ったサラが顔を伏せて座っており。

 レインはいつもの冒険者風の佇まいで、軽鎧を着込んだまま目を瞑って座っている。


 俺達の他には、馬車の業者の男が二人。

 歳は良く分からないが、顔に入った皺や佇まいや雰囲気は老練の男を思わせる。

 少なくとも三十は超えているだろう。

 

 一人は黒髪で、顔にいくつもの傷がある体格のいい男。

 もう一人は、更に年上なのだろうか、それとも種族的なものなのだろうか、真っ白な髪に初老を感じさせる皺の入った顔、しかしその男から放たれている魔力や気配は熟練者のそれであり、それだけでその男が只者ではないという事を感じさせる。


 そして、今は馬車の荷車に当たる部分にはいないが、敷居を隔てた前側に馬車を操作している男が一人。

 合計六人が馬車で移動しているという事になる。


 馬車に乗る時から今に至るまで、俺達の間で殆ど会話はかわされていない。

 目的地や荷物の有無、事務的な事や仕事の事以外は一切会話を交わす事は無く、今も誰が話す事も無く、馬車の中には無言の空間が出来上がっている。


 馬車の中で話すと舌を噛むというのもあるが、ここまで無言の状態が続くというのは、集まっている人達の性格故だろう。

 

 サラとレインは基本的に男が苦手みたいだった。

 ギルバードさんや、俺の前では普通に話して、普通に振舞ってたから、最初のうちは知る機会が無かっただけだった。

 知らない男や、親しい人以外の前では、サラは途端に無口になるし、レインは途端にキツイ口調と態度になった。

 

 そんな男嫌い気味のサラとレインは、必要以上に馴れ馴れしく話しかけてくる男が一番嫌いらしく、馬車の業者などはそんな軽口を叩いてこない無口だが仕事の出来る、職人気質の業者を好んで良く使っているらしい。

 

 サラやレインと初めて会った時から、俺はかなり馴れ馴れしい感じだったと思うんだけど、と二人に尋ねた所、俺は別に大丈夫だったらしい。

 サラは男が嫌いというより、野蛮で粗暴で、性別としての男を強調してくるような男が嫌いだということで、嘘を吐き誠実で無い人間は男女問わず大嫌いらしい。

 だから、ノエルの事は女でも大嫌いだと言っていた。


 魔力の流れで、その人が嘘を吐いてるか吐いて無いかある程度把握出来るサラは、それで更に男嫌いになってしまったとか。

 俺の事は、男だから女だから、と性別で判断するというより、嘘を吐かず誠実な所が気に入ったと言ってくれていた。


 レインも性別としての男を強調してくる男が大嫌いだということだ。

 いつぞやの食事会で聞いたような気がするけど、女だとみて馴れ馴れしく絡んでくるようなナンパ男が大嫌いらしい。

 俺の事は、男よりも女らしい所が気に入ったと言っていた。

 褒められてるのか、男として貶されているのか、微妙な気持ちになったけど、フォローされたのかされてないのか、子供っぽい所も気に入ったと追加で言われた。

 俺がさらに微妙な表情を浮かべたの見たのか、子供っぽいって悪い意味じゃなくて、性別が関係ない子供の純粋さとか、善悪や大人の汚さなどですれてない意味でって、追加でフォローしてくれてはいたけど。


 ようは、レインもサラも俺を男として意識してないから、俺の事を受け入れてくれたって事なんだろう。

 この世界の男の人って、男性ホルモンが色濃く出てるような、ザ男っていう感じの男気溢れた男の人が多いから。

 俺は女みたいな顔と体付きで、性格も肉食系というより草食系に近いから、そういう意味でサラやレインが接しているこの世界の男の人達と違った意味で新鮮だったというか、俺という草食系の日本の男を見てカルチャーショックを受けたのかもしれない。


 休んでいるような、眠っているような、そんな女の子二人を見て、そんな事を考えながら俺も目を瞑った。


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