馬車の中で③
目を瞑ると思い起こされる、セイの村での日々。
人間って、辛い思い出や悲しい思い出は、すぐに忘れてしまうように出来ているらしいけど、確かに思い出すのは辛く苦しい出来事よりも、楽しかった事や嬉しかった事ばかりだ。
サラに魔法に関する基礎的な知識を一通り教えて貰い、基礎的な修行方法を教えてもらった後、自分からサラに申し出て、一番力を入れて優先的に修行した魔法は、回復魔法だった。
俺の魔法カードのパックを引く能力。
一番の弱点というか、欠点というか、弱いところだと思っていたのは、好きな魔法カードを引けない、という事だ。
ランダムで魔法カードを引く仕様である以上、必要頻度の高い魔法カードが不足してしまう事にもなる。
となると、どうしても回復に不安が出てくる。
あれだけ魔法カードを引いたのに、攻撃系の魔法カードに対し、回復系の魔法カードは僅かだった事から、少なくともvol.1の魔法カードのパックは回復よりも攻撃に重点が置かれている配分だと思っていたし、もしこの世界の魔法を覚えるとしたら、まずは回復魔法だと考えていたというのもあった。
回復魔法。
属性で表すなら、聖属性が一番有名で王道の回復魔法。
水属性が次いで多く、取得難易度的にも使い手が一番多いと言われている一般的な回復魔法。
土属性でも回復魔法があるが、かなり特殊で使い手も少ない。
俺は聖属性に魔力の性質を変化できなかったので、まずは水属性の回復魔法を取得しようとした。
アクアヒール。
回復魔法は、主に二つのアプローチから回復を試みる事になる。
一つは、対象者の生命エネルギーを回復させること。
もう一つが、対象者の傷を回復させること。
一つ目の生命エネルギーを回復させる方法は色々とあって、魔力の性質変化や魔力操作だけでも可能だ。
自分の生命力を分け与えるのとかでもいいけど、魔力を擬似生命エネルギーに変えて対象者に付与する方法が一般的だ。
二つ目の対象者の傷を回復させる方法も、大きく分けると二つある。
一つは対象者の新陳代謝を加速させて傷を塞ぐ方法。
これは簡単かつ燃費もよく、回復も早いが、対象者の体力を奪うし、大きな傷は塞ぎにくいという欠点もある。
二つ目は対象者の傷を塞ぐための対象者の血肉を具現化して回復させる方法。
これは工程が複雑かつ燃費が悪いが、極めれば欠損した肉体すら復元させる事が可能だという。
アクアキュア。
状態異常を回復させる魔法。
状態異常を回復させる方法も大きく分けて二つある。
一つは、対象者の体内の血流を操作して、不純物、毒素や魔素を取り除く方法。
もう一つは、魔力を操作して、対象者をブラッシュアップする方法。
前者は後者に比べて簡単かつ燃費がいいけど、血流操作で直しにくいものには効果が無い。
後者は、対象者を強化する事で状態異常を回復させる、または無効化する方法で前者に比べて難易度が高く、また燃費も悪い。
俺はサラに教わりながら、かなり苦労して何とか回復魔法を会得する事に成功した。
そして、自らの身体を実験台としながら、アクアヒールとアクアキュアの錬度を高めた。
特にアクアキュアで様々な状態異常の回復を練習する度に、俺自体にその状態異常に対する耐性Lvが上昇し、そのLvに応じてステータスボーナスも付いてステータスも上がるという、まさに一石二鳥ならぬ一石三鳥とでも呼ぶべき、三つが連鎖反応する修行方法だった。
ルーの店で、アクアキュアの練習用に、下剤とか麻痺薬とか毒草を買占めして、ルーさんやノエルに不審な目で見られたのも今ではいい思い出だ。




