鍛錬の日々の果て
この一ヶ月、ひたすら鍛錬と勉強に励んだ日々だった。
何しろ、この世界、娯楽というものが一切無かったからね。
自らを鍛えて、自らを磨くこと、そして一日、また一日と確実に強くなっていく自分の強さを楽しむしかなかった。
後は、サラやレインやノエル達と話したり、一緒にいたりする事。
やっぱり、可愛い女の子と話したり、一緒に学んだり修行する日々は楽しかった。
そして、そんな可愛い女の子の前だから、カッコイイところを見せたいと更に頑張れたというのもあると思う。
最初の頃は、とてもレインに適わないと思っていたけど、今では純粋な身体能力と技術だけで勝てるぐらいに成長した。
村を出る前の、レインとの最後の勝負。
レインには手加減するなと言われていたけれど、結局は手加減してしまった。
レインは負けず嫌いの性格だから、木剣でいくら有効打を与えても怯まずにこっちに向かってくる。
練習中はいつもそうで、有効打を当てても、俺が勝利宣言しても構わず反撃してきてた。
だから、完璧に勝ったと見せ付けるためには、レインの動きを止めて、急所に木剣を指し示さなきゃいけない。
だから、レインの後ろから蹴りを入れてうつ伏せに倒してから、首筋に剣を当てて勝利宣言した。
最後の蹴りも本気で蹴ったわけじゃなく、レインが怪我をしないように優しく足を当てて、その後に強く押す感じの蹴りで押し倒したんだしね。
剣術に体術を挟む戦い方はギルバードさんと実践で学んだ。
綺麗でスマートな戦い方ばかりじゃ生き残れないということ。
俺は逆に相手を殺したり傷付けないようにする為に、体術を挟む戦い方は気に入ったのでよく練習した。
それでも、未だに女の子に暴力を振るう感じには抵抗があるけど、レインとの戦いは仕方ないので割り切ってやるようにしてる。
できるだけ短時間で終わらせるようなやりかたに、なっちゃった節はあるけども。
レインと俺の最後の餞の戦いだから、本当ならもっと手加減して剣のやり取りを他の人に見せるべきだったんだろうけど、レインを一方的に叩き続けるのは嫌だったので、さっさと終わらせてしまった。
俺がうつ伏せに倒したレインが起き上がりこちらを見上げながら話しかけてくる。
「完敗だわ、セイヤ。
ねぇ、覚えてる?
私達が初めて会った時の事」
俺はレインに手を差し出して、レインの手を取り立ち上がらせた。
「もちろん、覚えてるよ。
レインの手加減された一撃をいなせず、何回も吹っ飛ばされたよね。
あれからここまで強くなれるとは自分でも思わなかった。
サラ、レイン、ギルバードさん、ノエル、協力してくれたみんなのおかげだよ」
レインは目を伏せて横に首を振る。
「いいえ、セイヤには元から素質があったのよ。
私達凡人には見抜けないほどの才能が。
セイヤには負けたくないと頑張ってきたけれど、本当は気付いてたの。
とても適わないって、これが本当に才能のある人間なんだって。
結局、一ヶ月足らずで完全に追い越されちゃったわ。
いえ、実際は数週間で、もう既に追い抜かれちゃってた」
レインの女の子らしい顔を見ながら、返す言葉を見失いかける。
そういえば、なんかしんみりした二人だけの空間みたいな感じになってるけど……。
周りを見渡すと、大勢の人間が、俺とレインのやり取りを黙って聞いている。
みんなの視線が、俺とレインに集まって、更に聞き耳まで立てられているこの状況。
意識したら、何か急に恥ずかしくなって来てしまった。
「俺が強くなれたのも、レインやギルバードさんが鍛えてくれたからだよ!
さ、みんなも見てるし、早く行こう!」
特に『みんなも見てるし』という所を強調しながら、レインを促し、みんなの所へ挨拶へ行った。
レインも皆に見られている状況を忘れていたのか、意識していなかったのか、俺に言われると周囲を見渡し、皆の注目が自分に集まっているのを感じると顔を少し赤くして下を向きながら、俺の後を無言で付いてきた。
お世話になった村の人々とお別れの挨拶を交わす俺とレインとサラ。
村の入り口には、業者の馬車が来ており、この馬車に乗って俺とサラとレインの三人は今日、他の町に旅立つ予定だ。




