旅立ち
「それじゃ、いくよ」
開始の合図と共に、俺は軽くステップを踏んでレインまでの距離を詰めると、小手調べを兼ねた牽制の一撃を振るう。
ビュンと、風を切り裂く音が、一筋の横殴りの一撃と重なり、レインの構えている木剣を目掛けて走る。
カンッ。
不適な笑みを浮かべながら、剣を斜めに構えた構えで俺の一撃を受け流すレイン。
レインは剣を受け止めた時の衝撃と反動を利用しながら、曲線を描くように軌道を変えながら、剣を振るって空きだらけになっている逆側から、俺への反撃を繰り出してきた。
サイドステップで、右側からの攻撃に対する距離と角度を調整し、弾かれた剣を強く握り締めながら迫ってくる攻撃へ対抗するべく二撃目を繰り出した。
カンカンカン。
俺とレインの木剣が交わり、ぶつかる音がする。
強めの一撃を放ち、レインの剣を吹っ飛ばすように大きく仰け反らせると、俺は追撃をいれずにレインから離れて距離を取った。
「レインは女の子だから俺に比べて、膂力が足りないんじゃないかな?
やっぱり闘気ありでいいと思うよ」
距離を開けて話す時間を作り出した俺は、レインにそう話しかける。
「そう、じゃあお言葉に甘えてそうさせて貰うとするわ」
闘気を身体と剣に纏い、本気モードになったレイン。
「はっ!!」
レインの気合を入れる声が聞こえたかと思うと、一瞬で合間を詰められ、加速の乗った一撃が横殴りに繰り出された。
思い出すな、この一撃、初めてレインと会って受けた、最初の攻撃と同じものだ。
ダッシュからの横殴りの一撃。
最初は手加減されたレインのこの一撃もいなすことが出来なかったっけ。
今は闘気をフルに利用して加速された速度に加えて、全力の振りを闘気で覆われ強化された木剣の一撃だ。
初めてレインと会った時の俺なら、この一撃をいなすことなんてとても出来なかっただろう。
けど、今なら捌ける。
俺は身を捻り、半身を回転させるようにしながら、振るう剣に半身回転の力と腕の振るう力を合わせて、向かってくるレインの横殴りの一撃に合わせて、渾身の力を込めて奮ってぶち当てた。
バキッ。
闘気で覆われていない俺の木剣が割れる音がした。
同時に、闘気で覆われているレインの木剣も当たった刃の部分が欠けた。
衝撃で耐性を崩したレインの後ろに回り、後ろから蹴りを入れて、レインをうつ伏せに倒すと、レインの首筋に木剣を当てた。
真ん中の部分が大きく破損しているが、かろうじて剣としての体裁を保っている木剣でレインの首筋をチョンチョンと突く。
「俺の勝ち、だね」
俺の勝利宣言を聞いて、レインはうつ伏せの状態から、ガバっと立ち上がると、少し涙目になっていた顔を俺から背けた。
「うっ、私の負けだわ」
パチパチパチパチ。
拍手の音が聞こえる。
遠巻きに多くの人達が、俺とレインの模擬戦に拍手を送ってくれていた。
サラ、ノエル、ギルバードさん、村長、ルーさん、ハギールさん、他にも村の人々が多く。
この村に来てから一ヶ月。
色んな事を教わり、学び、修行して強くなったと思う。
そして、今日はこの村を旅立つ日。




