強くなるということ
レインは魔法を発動できた事と、誤爆して俺達を狙ってしまった事とが重なって、嬉しいやら、申し訳ないやら、どんな顔をしていいのか分からないといった感じで複雑な心境の面持ちのようだった。
レインの謝罪、兼弁明によると、魔法を発動するイメージをしていた時に、チラっと俺とサラの事が頭の中によぎってしまったのが原因じゃないかとの事。
やっぱり、魔法カードで魔法を発動する場合、魔法の対象を指定する場合は使用者のイメージで決められているのかもしれない。
チラっとサラの方を見ると、サラもまた一人で何かを考え込んでいる様子であった。
サラに話しかけてみると、サラもレインの話を聞いてから色々と考えるところがあったらしい。
推察と考察だけでは埒があかない。
ということで、俺もサラに沈黙の魔法をかけてもらい、色々と試してみることにした。
初めて沈黙状態というものを味わい、その状態で色々と試してみることで色んな事が分かった。
どうやら魔法カードで魔法を発動する場合、魔法を発動する為に必要なプロセスは全て魔法カードでやってくれるみたいだけど、実際に魔法を発動させる場合に変動する値、使用MPとか形状とか弾道とか着弾点とか、そういった変動する値は全て使用者のイメージによって決まるみたいだった。
また、そのイメージを魔法カードに伝える為には、魔法カード使用者がそのイメージを魔力に乗せて魔法カードに伝える必要があり、その魔力はほんの微細なものである為、沈黙状態で魔力を体外に出せない状態でも、魔法カードにイメージを伝える事は可能だった。
もちろん、これは俺の推察の域でしかないので、実際は魔法カードと肉体が触れているから身体の一部と認識されて魔力が体外に放出できなくてもイメージ伝達は可能とか、そういう可能性もあるけど。
色々と試して実体験して得た結果をサラとレインに披露すると、サラも概ね俺の意見に賛同的な感じで、レインはさっぱり訳が分からないといった感じであった。
結構な時間が経っていたので、ご飯休憩と水分補給の休憩を挟んで、俺は引き続きサラから魔法の指導を受け、レインは魔法カードを安定して発動させる練習を行った。
そうこうするうちに日も暮れ、一日が終わる。
今日は一日中、サラとレインと俺の三人で、ずっと魔法の練習をしてたな。
レインやサラがいるから、いい所を見せたいと俺も頑張れたし、サラの言う事だから聞き逃すまいと、忘れまいと集中して話を聞いたので、教えられた内容も一回ですんなりと頭の中に入ってきた。
生き死に関わる重要な知識と技術である魔法。
そして、俺がこの世界に転生する前から、心の奥底で憧れていた剣と魔法の世界。
もしも、ギルバードさんやノエル、サラやレインと知り合わなかったら、どうなっていたのだろう。
一人きりでもきっと、上達し、強くなっていけたのだとは思う。
それでも、やっぱり一緒に学ぶ人がいる事、そして教えてくれる人がいるという事の重要性を改めて実感した一日でもあった。
これだけの魔法の知識を独学で得るためには膨大な時間を必要としただろう。
魔法書でも読めば一人でも理解出来たかもしれない。
けど、魔法書は高価なものだろうし、手に入れるのも一苦労だっただろう。
そして、本だけじゃ分からない所も出てくるだろうし、理解の仕方や解釈の違いというものも多々出てくる。
疑問に思ったことを聞ける人がいなければ、自分で一々検証してから理解しなければいけない、その為にはまた多くの時間を割かければいけないだろう。
今日、サラにこの世界の魔法を教えてもらって、それを実践して分かった事がある。
俺には魔法の才能がある。
これは自惚れで言ってるのではなくて、客観的な事実として、そう思う。
自分自身で試して、経験して、他者と比較して、そう導き出した結論だ。
そして、自分でも自分の才能の底がしれない。
学べば学ぶだけ、知れば知るだけ、練習すれば練習した分だけ、自分の知識となり力となり、血肉になっていくのを感じた。
努力すればするだけ、学べば学ぶだけ強くなれる。
正直、魔法カードを具現化できる能力は、面白い能力でカードゲーム好きの俺には最適な能力であるとは思ってたけど、それほど凄い能力だとは思っていなかった。
小説で読んだような多くのチート系能力と比べてみると微妙な気がしたし、レインと初めて手合わせして自分の身体能力の低さに自信を失ったりもした。
けど、今は違う。
今は自分に自信が持てる。
どこまで強くなれるのかは分からないけど、きっと相当強くなれる。
初期値が低かっただけで、成長率は凄く高い、そんな気がするし、そんな気にさせてもらった。
誰かに期待されるっていう感覚も悪くないものだな。
ずっと一人で考えて、ずっと一人で頑張ってきたから、この世界に来ても、ずっとそうなんだろうと勝手に思い込んでいた。
そしてなぜか、強くなるというのも、一人で学んで一人きりで強くならなきゃいけないものだと思い込んでいた。
学校というものは、友達がいない俺にとっては一人きりで、疎外感を味わいに行くだけのものだった。
何度も通信教育やネットの講義だけでいいのに、なんで学校なんてものが存在して、わざわざ足を運んで学びに行かなきゃいけないのか、と、ずっと思っていた。
学校というものが何故存在し、何故必要なのか、その答えの一端が分かった様な気がする。
全ては偉大な先人達の残した遺産なのだろう。
色々な思いを噛み締めながら、今までの自分、そしてこれからの自分の行く末を考える。
この世界に存在する魔法学校というものに行ってみたいな。
学校に自分から行きたいと思うようになるなんて、日本にいた俺じゃ考えられなかったな。
そんな事を考えながら、俺はサラとレイン、二人の顔を見つめた。
自然と頬が緩み、自然と柔らかな笑みを浮かべているという事に、自分で気付きながら。




