サラ先生の魔法講座⑳
「ふむ、それならこの方法を試してみるとしよう」
レインの相談を受けて、サラはレイン向けに良い練習方法を思いついたらしく、それを実践する事になった。
レインが魔法を発動できない理由、それは俺が推察していた通り、魔法を発動する為の魔法力を行使する過程に問題があるみたいだった。
「この方法って?」
レインは条件反射的に、放出する魔法力を闘気を練る為に使ってしまっているから、それを解消しなくちゃいけない。
それを解消する為の方法、それはどんな方法なんだろうか。
「レインを沈黙状態にさせる。
沈黙状態とは、魔法用語で魔法が使えなくなる状態を意味する。
昔から魔法は詠唱するのが常であったから、魔法が行使できない状態は詠唱をしない状態、つまり沈黙状態ということで、魔法を使えない状態を指して沈黙という言葉が使われるようになったらしい。
これから、私がレインに沈黙の魔法をかけて、レインを沈黙状態にする。
沈黙状態とは、魔法力を行使出来なくなる状態だ。
この沈黙状態に打ち勝つ為には、純粋な魔法力を必要とするし、沈黙状態では魔力を顕現化できないので、闘気術も使うことが出来ない。
つまり内的な魔力や、魔法を行使する為の魔法力を実感で体感出来る事だろう」
沈黙状態。
ゲームでよくある、魔法が使えなくなる状態の事だな。
「ちなみに、沈黙状態とは、魔法が使えなくなる状態を意味する言葉ではあるが、それは広義的な意味においての話であって、沈黙状態でも使える魔法は存在する。
魔法力を体外に放出しないと発動しない魔法が使えないだけの話であって、それ以外の方法で発動する魔法は普通に発動する。
ようは沈黙状態といっても、魔法力を体外に放出しにくくなる状態にするだけに過ぎない」
しかし、ゲームと違うのは、魔法力を体外に放出できなくなるだけで、体外に魔法力を放出しないで行使出来る魔法は使えるということらしい。
サラはレインに承諾を得ると、レインに沈黙の魔法をかけて、レインを沈黙状態にした。
そして、沈黙状態で、目を閉じ、まさに瞑想するかのごとく佇むレイン。
別に喋れなくなるわけでも無いらしいけど、一言も話す事も無く、そっちの意味でも沈黙状態に陥っている。
瞑想状態のレインを、無言で見守る俺とサラ。
しばしの沈黙が場を支配する。
イメージが整ったのか、自らの魔力を、魔法力を感じる事ができたのか、閉じていた目をカッと見開き、気合を入れる感じで、剣を振るかのごとくの勢いでポーズを決め、かっこよく魔法カードを振りかざしながらレインは叫んだ。
「ウィンド!」
レインの叫び声とともに、レインの足元近くから渦巻く風が発生した。
土埃を巻き上げながら回転する空気は、ウィンドの魔法の現象である事を示している。
何で手元じゃなくて、レインの足元から発生したのかは分からないけど、とりあえずウィンドの魔法の発動には成功したみたいだ。
レインの魔法の発動に少し驚くのと同時に、良かったという気持ちを抱きながら、少しほっとした感じで眺めていたのがまずかった。
魔法に発動したんだから、当然発生した空気の渦は、弓の練習用の的の方を目掛けて進んで行くと思いきや、何故かこちらの方に向かって進んでくるでは無いか。
「サラ、危ない」
咄嗟の出来事だった。
瞬時に闘気術を発動して、身体能力を強化し、近くにいたサラを抱えて、こっちに向かってくるウィンドの魔法を避けた。
幸い、レインの発動させたウィンドの魔法は威力も弱く、弾速も遅かったので、こっちに来るのを確認してからでも何とか回避に成功した。
「危なかった……」
「え、どういうことなの?」
レインは自分で引き起こした魔法で何がどうなったのかサッパリ分かっていないといった風で、茫然自失の表情を浮かべている。
「レイン、沈黙状態を克服して魔法カードの発動に成功したのではないのか?
魔法の照準の設定には失敗したようだ、多分、私かセイヤを的として設定してしまったのだろう」
確かに、レインの状態を良く見ると、レインの身体から放出されている魔力が自然体の状態よりもかなり少ない、まだ沈黙状態のままのようだ。
となると、沈黙状態のまま、魔法カードを発動させたということになる。




