サラ先生の魔法講座⑱
「戦いにおいて兵站というものが大事だって事はよく分かったけど、それがこの魔法カードの話とどう関係するの?
ブロンズカードなら、俺以外の人間なら誰でも魔法力を込めれるってのは分かったし、戦闘前に予めカードに魔法力を込めておけば、自前の魔法力を温存できるし、カードで魔法を使う分の魔法力が他の事に使えるわけだから戦闘には有利になるとは思うけど」
サラの話を最後まで聞いてから聞こうかと思ってたんだけど、話に一区切りついたのか少しの間が空いたのと、サラの話が横道に逸れてきているような気もしたので、一応確認の意味も込めてサラに質問してみた。
「そうよね、確かにこの魔法カードは便利だし、戦闘でとても有用なのは分かるわ。
けど、それは各個人の戦闘での話。
戦争みたいな、大勢対大勢の殺し合いみたいなものの行方を左右させるようなものに影響するのかしら?」
レインも俺の疑問に追従して、サラを正面に見据えながら、考えるような仕草で腕を組んでいる。
「戦争も同じ事だ。
個人の集まりがパーティーになり、パーティーの集まりが集団となり、集団の集まりが軍になるだけの話であって。
セイヤ、レイン、これは私の推察の域で話をしているだけで、絶対にそうだと言っているわけではないということを予め理解しておいてくれ。
私が、この魔法カードが、戦争における戦略の変化に有用だと思ったものとして、まず二つ思いついた。
一つは継戦能力の向上。もう一つが補給線に関するもの。
継戦能力の向上は、まさに先ほどセイヤが言った通りだ。
あらかじめ魔法カードに魔法力を込めておくことで、戦闘時における自らの魔法力を温存する事で、経戦能力が飛躍的に向上する。
一般兵では、その恩恵は少ないように思えるかもしれないが、これがマスタークラスの戦闘能力の保持者ならどうなる?
SSSランクやSSランクの強さを持つ人間の強さは、まさに人知を超えている。
この人知を超えた強さをもつものであっても、所詮は人間、消耗もすれば疲れもする。
ゆえに、体力や魔法力を奪うことで、その圧倒的な力を発揮する時間を短くする事で、ある程度の被害は覚悟の上で対応してきたわけだ。
それが、この魔法カードの登場により、継戦能力が飛躍的に向上すればどうなる?
今までの戦略というものがひっくり返えされ、根本から見直さなければならなくなるだろう。
魔法というものはとても便利で有用なものだ。
しかし、それを扱えるものは魔法の才ある人間のみ。
ゆえに、国家は魔法を扱える者を優遇し、育成する為に富と力を割いている。
戦争となると、国と国との戦いであり、国にある全て戦力と資源と資金を投入する戦いでもある。
魔法を扱える人間という、戦争において貴重な戦略上の戦力であり資源は、その全てが戦争に投入出来るというわけではない。
例えば、魔法の才能があるのにも関わらず、戦闘には参加できないという人間は数多く存在する。
魔法力は膨大にあるが、戦争で手足を失ったり、障害を負ってしまって、満足に動けない者や戦えない者。
精神的な病を抱えて、戦線には復帰できなくなったもの。
そんな、魔法の才がありながら、戦争という総力戦において有効活用出来ない魔法戦力の人的資源は数多く存在する。
そんな存在を国は予算を割いて、保護したり、手当てを出したりしているのだが、この魔法カードがあればどうなる?
今までは国の予算を割いて保護したり手当てを支給していた、ある意味ではお荷物的存在だったものが、この魔法カードの登場により、魔法力を補充する為の資源に変わる。
これは国がひっくり返るかもしれないほどの戦略的変換点になる、そうは思わないだろうか?」
サラの話を聞いて、目から鱗が落ちる思いだった。
なるほど、そういうものの見方もあるのか、と。
目先の強さばかりを追い求めて、戦争で傷付き戦えなくなった人達の事なんて全然考えていなかった。
この魔法カード、ブロンズカードがあれば、そんな戦えなくなった人達の魔法力を込める事で、後方支援に近い形ではあるけれど、再び戦いに参加させる事が出来る様になるのか。




