サラ先生の魔法講座⑮
「ウィンド!」
何も起こらない。
レインの掛け声だけが、何回も虚しく響き渡っている。
レインが必死で魔法カードで魔法を発動する訓練をしている傍ら、俺とサラはレインの練習する様を見ながら少し話をしていた。
「サラ。
サラがさっき言っていた『この世界をひっくり返す事になってしまうかもしれない』って言ってた言葉が気になってたんだけど。
この魔法カード、何かこの世界にとって不都合なものでもあったりするのかな?」
俺の質問に、サラは少し考える仕草をした後、決意したかのように答えてくれた。
「ああ、その事か。
その事を話すなら、レインにも説明して釘をさしておかなければな。
レイン!
魔法の練習は一旦中止して、私の話を聞いて欲しい」
「おーい、レイン!
サラが話があるってさ」
サラの声が小さかったのか、練習に夢中のレインが気付いてなかったみたいなので、俺が声を張ってレインをこちらに呼び寄せた。
「なに?サラ、話って。
魔法を発動させるコツでも教えてくれるのかしら?」
「いや、違う。
先ほど言った、この魔法カードについて、私なりの推察を話そうと思う。
その上で、セイヤ、レイン、二人にも考えてもらいたい。
セイヤの魔法カードを具現化する能力、もしこのブロンズカードとやらを具現化できる能力であるのならば、私達以外には絶対、この能力を他人に教えてはいけない。
その理由の二つは、二人にもすぐに分かってもらえると思う。
一つはセイヤが自分で言っていた、気軽に自分の能力について教えてはいけないという当たり前のもの。
二つ目は、レインが先ほど言っていた、魔法カードを売れば高値で売れるであろうということ。
後者の理由については、私が詳しく説明しなくても、その危険性については分かってもらえていることだろう」
レインがこちらに来た事で、サラと俺が横に並んだ感じで、二人でレインに対峙している形になっている。
さっきまでレインが魔法を練習するのを二人で見てる感じだったから、そこにレインが加わってきたので自然とこういう形になった。
レインは右手にブロンズカードを持ったまま、じっとサラの方を見つめながら話を聞いている。
「セイヤ、さっき『この世界をひっくり返す事になってしまうかもしれない』という私の言葉が気になったと言っていたな。
私がこのブロンズカードという魔法カードの能力を推察して、私が思った感想だが。
口ぶりから察するに、その私の感想について思い当たる節が無い様に見える。
レインも『そこまで大げさな表現をしなくてもいいんじゃない?』といった顔をしているな」
「そうね、確かに高価なものを具現化できるのだから、この能力が他人に知られたら、セイヤに身の危険があるというのは分かるわ。
けど、世界をひっくり返すという所まではいかないんじゃないかしら。
だって、巻物っていう似たようなアイテムが、この世界には存在しているんだし」
「話を聞いた感じだと、巻物よりは魔法カードの方が魔法を発動させやすそうではあるけどね。
後は小さいから、巻物より携帯しやすいぐらいかな。
どっちにしても、少し高値で売れそうなぐらいなだけで、世界を変えるとか、そんな大げさな代物ではないっていうのは、俺もレインと同じ考えかな」
俺とレインの話を聞いたサラは、何故か少し悲しそうな表情を浮かべながら俺の方を向いた。
 




