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プロローグ

 ふぅ。終わった。

 俺は今日出された宿題をやり終え、周りを見渡す。

 時間は放課後。

 部活動に入っている人は教室には残っておらず、帰宅部の面々が各々のグループ毎に話をしている。

 ちなみに、この教室にぼっちで残っているのは俺だけだ。

 

 三人、三人、三人。

 三人のグループが三つに、ぼっちの俺一人を加えて、この教室に残っている生徒は十人か。

 

 俺は三人の三グループに目をやる。


 まずは美人三人のグループ。

 モデルをやっている、須嬢 玲香(すじょうれいか)

 活発系美少女、三那 明日香(みくにあすか)

 クール系美少女、北大路 光(きたおおじひかる)


 美女三人組みだろうが、普通の女の子三人組みだろうが、クラスのぼっちの俺には関係の無いこと。

 けど、この三人のうち二人とは少し関わりがあったりする。

 須嬢 玲香(すじょうれいか)は、町で偶然会った時に変な男に絡まれてた所を助けてあげたことがあるし、三那 明日香(みくにあすか)は、このクラスで俺が一番話した事がある女の子だ。

 と言っても、須嬢とはろくに話した覚えが無いし(町で助けてあげた後ですら話を交わしていないという事実)、

、三那も俺と話はしてくれるものの、別に俺にだけ話しかけてくるわけでもなく、ぼっちで寂しくしてる俺に、仕方なく俺にも話しかけてくる感じが満々なので、少し会話を交わした後は気まずくなって、話も続かずに終わってるけども。

 最後の一人、北大路 光(きたおおじひかる)とはあまり話した覚えも無い。


 もう一つの女の子のグループ。

 小柄系ロリータ系美少女、天空路 詩織(てんくうじしおり)

 加えて取り巻き二人。

 那須 麗花(なすれいか)道文字 静(どうもんじしずる)

 ちなみに、この三人とは必要な時以外で話をした覚えが無い。


 男子三人のグループ。

 ブタ。ガリ。メガネ君。

 他の人にそう呼ばれてるので、俺も本人達と話すことはあまり無いが、心の中ではそう呼称させて貰っている。

 本名は順に、武田、小石、遠山。

 ブタは苗字が武田(ぶた)なのだが、かなり太っている体系もあり(ぶた)の意味も含めたアダナでブタと呼ばれている。

 ガリは、その名の通り痩せていて背が高い。

 メガネ君は、その名の通り、メガネを掛けていている。

 いつもこの三人でアニメとかアイドルとかの話をしている感じ。

 三人とも天空路詩織(てんくうじしおり)の方をチラチラ見たりしてる所から察するに、天空路さんに気があるのかもしれない、と俺は勝手に思ってる。

 ぼっちの俺には関係の無いことだけど。

 ちなみに、この三人とも必要な事以外で話をした覚えが無い。


 よし!宿題も終わったし帰ろう!

 嫌な事は先に終わらせるタイプの俺は宿題を先に済ませたいタイプなのだ。

 なんせ、明日は待ちに待ったあの日!


 トレーディングカードゲーム。

 拡張パック第8弾、天空城への軌跡。

 有名漫画を原作として、アニメも絶賛放送中。

 今一番熱いカードゲーム、勇者の系譜。

 その拡張弾第8弾の発売日なのだ!


 宿題も終わってスッキリした気持ちで、これから帰って友と熱き討論を交わす予定だ。

 この学校ではぼっちの俺だが、実は友達は多い。

 勿論、殆ど全員がカードゲーム繋がりの友達なんですけどね。

 実際に大会に出たり、休日に遊んだりする現実の友達もいれば、一回も会った事も無いネット繋がりの友達もいるけど、友と熱くカードについて語り合う時間は俺にとっては至高の時間でもあるのだ。


 さぁ、帰ろ。

 宿題も終えて、勉強モードは完全にオフ。

 ぼっちの俺は誰に気兼ねする事も無く、気配を消してただこの教室から去るのみ。


 帰ろうとした時、異変は起こった。

 ゴゴゴ。

 大気が震えるような、肌にまとわりつくこの感覚。

 空気の流れが風となり、不可解な音とともに俺の神経を過敏にする。


 地面が揺れる。

 地震か?

 少しの揺れ。

 そう思った次の瞬間、強く激しい揺れ。

 あっという間の出来事だった。

 建物がシェイクされるような激しい揺れ。

 激しすぎる揺れに建物が悲鳴をあげ、メキメキと嫌な音とともに、人と物の全てがかき混ぜられていく。

 長いようで短い時間。

 絶望に意識が支配され、意識が混濁していく。

 そして、目の前が真っ暗になった。



__________________________________________________________________



 闇の中にいる。

 まるで夢の中にいるような。

 感覚が無く、五感が全く働かない。


 

 俺は死んだのか?

 声でもない、ただの俺の思考に答えてくれた声があった。


<<貴方は死にました>>


 声であって、声ではないもの。

 音の振動を、俺の耳から通して聞いているものではない。

 聴覚を通しているものではない、なのに何故か理解出来るような感覚。


 なんだこれ。

 どうなってるんだ?


 確か、さっきまで学校にいてそれで……。

 真っ暗な闇の中、必死で過去の情景を思い浮かべる。

 錯綜する俺の記憶の断片を螺旋状に渦巻くような感覚。


 最後に残っている俺の記憶の断片。

 そうだ、俺は学校にいた、そして大きな揺れがあってそれで……。


 俺は死んだのか。

 それとも気絶して夢でも見ているのか。


 人が気絶するような事態が起きたのだろうか。

 地震か、地割れか、隕石の衝突か、何か分からないけど何かが起きた。

 それなら、気絶して夢を見ているより、死んでいる可能性の方が高い気がする。

 

 真っ暗な闇。

 これが死の世界なのだろうか。

 

 俺は死んでしまった可能性が高い。

 

 しかし、死んだってマジか。

 なんでこのタイミングでこんなことが。

 明日は、俺の好きなカードゲームの発売日なのに。


 死ぬ前にやりたかった事は一杯あった。

 もっとゲームもやりたかった、カードゲームもしたかった。

 パックも一杯開封したかったし、デッキを組みたかった、対戦したかった。

 どうせ死ぬなら、新しいカードゲームで遊んでから死にたかった。


 あーあ、俺の人生も女っ気が無かったな。

 もしも、生まれ変る事があったとしたら、その時は……。

 生まれ変っても、この奥手な性格じゃ彼女を作ることも難しいか。

 やっぱり生まれ変っても、またカードゲームがしたいな。


<<貴方が望むものを理解した>>


 何だこれ。

 さっきも感じた感覚。

 耳で音を聴いてる感じじゃない。

 頭の中に声が響くのとも違う。

 そもそも日本語じゃない、なのに意味が分かる。

 声じゃない、文字でも無い、概念と意味の塊の存在のような。

 言葉にして表現するのがもどかしい感じ、そもそも置きかえれる言葉が無いような、未経験の感覚。


 震える音声とは違う、意味を伝える声、それが俺に意思伝達手段の台詞として聞こえた。

 本当に死んだんなら、ジタバタしても仕方ないか。

 普通ならパニックになりそうなものだが、何故か落ち着いて考えてるな俺。

 普段からカードゲームの大会とかで鍛えられているからだろうか。


<<私は異世界の調停者>>

<<貴方の世界の概念では、神という概念が最も近い>>

 

 神か。

 この状況、夢なのか現実なのか。

 神なら人を生き返らせたりも出来るのかな?

 まさか小説みたいに、異世界に転生とかいう流れになったりするのだろうか。


<<同じ次元軸に、保全された情報を上書きする事は出来ない>>

<<異次元世界に情報を移転する事は可能だ>>


 って、ホントに異世界転移してくれるのだろうか。

 意味が良く分からなくて、無理矢理自分の知ってる単語に置き換えて理解してるけど。

 生き返りは無理だけど、異世界転生は可能だ、みたいな事を言ってくれてる気がする。


 そういや、俺のクラスメートも教室にいたけど、みんな死んでしまったのだろうか。

 死んだのなら、みんなも転生させて貰えるのだろうか。

 それとも俺だけ特別に転生させて貰えるのかな?


<<個人と世界の情報調和次第>>


 よく分からないけど、条件次第では転生させて貰えるみたいだ。


 異世界の調停者。

 別の言葉で表すなら、神様、か。

 俺達がどう思っても、どう意図しても関与すらできない絶対的な力の持ち主。


 何で、消滅とかじゃなく転生させてくれるのだろうか。

 転生って言っても、生まれ変りの意味での転生なのかな?

 生まれ変ったら今までの記憶は全部消えるのだろうか?

 それとも忘れてしまうけど、魂みたいなものには刻まれて残るのだろうか?


 調停者は俺を転生させてくれるのだろうか。

 それが仕事なのか、気まぐれなのか。

 

 俺に何か期待しての事なのか。

 それとも何か役割や意味があるのか、無いのか。

 俺に課せられるものがあるのか分からないけど、神様が意図するものは何かあるのだろう。

 ただの気まぐれかもしれないけど。

 でも、気まぐれでもいい。

 もう一度、現実世界でカードゲームが出来るのなら。


<<異次元世界へ転送する>>


 その言葉とともに、俺の意識は途切れた。

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