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9章:1日は意外と長い

いつものジーパンにTシャツ、その上にコートを羽織ると言うスタイルに着替えてギルドに向かう。


今回はクロに転移をお願いして連れて行ってもらった。早く自力で転移できるようになりたい。


転移の前に身体強化が出来ないと。未だに身体強化が上手くいった試しがない。


ギルドに着くと早速魔動機の所に行って操作をし始める。今日は時間が時間だから街の中で出来るクエストにしようと思う。


絞り込みで『街中』を選ぶと数件ヒットした。指名手配犯の逮捕とゴロツキの退治、それから魔球の交換。


俺は迷わず魔球の交換を選んだ。試合で疲れたし今日はもう人の相手はしたくない。


受付に紙を持って行くとリュックと地図を渡された。リュックの中には魔球の他に梯子が入っているらしい。


地図には至る所に丸がされている。これ全部が交換場所なのか。これは骨が折れるな。


ウダウダ言っていても仕様がないから近場から済ませていくか。まずはギルドの前にある所からだな。


そもそもなんで魔球を変えるのか、ふと疑問に思いさっき聞いてみた。


なんでも、魔球は空気中の魔力を吸収して発光しているのだが、魔球に刻まれている魔法陣が経年劣化を起こすらしい。


そう言う訳だから定期的に魔球を交換しないといけないんだそうだ。


今回の報酬額は3万円だ。相場が分からないけど、結構高いと思う。


3時間で全てを終わらせたら時給1万円になる。地図を見た感じでもある程度密集してるし3時間で終わると思う。


この依頼が終わったら今日は奮発して外食しようかな。寿司が食べたい。最悪回ってないのでもいいから。


そうと決まれば俄然やる気が出てきた。さっさと終わらせて寿司屋を探しに行かなければ。


そうして俺は依頼を淡々とこなしていった。この時に辺りをよく見ずにいたのが全ての間違いだった。


俺が漸く最後の1個を交換し終え帰ろうとした時にはもう空は真っ暗になっていた。


梯子を下りてリュックにしまって前を向いた時、一瞬自分の置かれている状況が分からなかった。


俺はいかにもゴロツキみたいな恰好をした男達に辺りを囲まれていた。


俺は知らず知らずスラム街の方に来ていた様だ。周囲に目をやってみるとそこには今にも崩れ落ちそうな建物が並んでいた。


あぁ、周りをよく見て行動するべきだった。ウニやエビで頭が一杯になっていた過去の俺を殴りたい。


嘆くのは後だ。今はこの状況を何とかしないと生きて帰れない気がする。


そう言えば依頼にあったゴロツキ退治のゴロツキはこいつ等かも知れないな。こいつ等を退治したら追加で報酬くれないかな。


若しくは誰かがあの依頼を受けて助けてくれないかな。助けてくれるわけないか、俺でも見ず知らずの人間を見返りなしで助けたりしない。


パッと見で30人ぐらいはいる。こんなに多くの人間を相手にできないし、逃げ切れるわけもない。


そんな訳だから、どうにかこうにか分断して少しずつ倒して減らすしかない。


まずは大将らしき人物を探す。探すまでもなくすぐに見つかった。ソイツは台の上に乗り踏ん反り返っていた。


俺は大将の真逆に向かって走った。大将を倒すのが最短ルートではあるが、大将の実力が分からない内は突っ込んでもやられるだけだ。


俺は鉄刀を召喚し鞘から抜き構える。手下達はヘラヘラ笑いながら各々が持つ武器を構える。大半は棍棒で斧が少し混じっている。


鉄刀を左手だけで持ち、上半身を捻じりながら刀身を後ろに回す。


相手が俺の間合いに入ってから思い切り薙ぎ払った。勿論、峰の方だ。


人を切る勇気はまだない。それに、殺してまったら報酬がもらえないかも知れない。


鉄刀に当たった相手は周りの人間を巻き込みながら倒れた。ただ思い切り振った為、鉄刀がすっぽ抜けてどこかに飛んでいった。


俺は倒れている相手を跳び越えて路地裏に逃げ込んだ。ここなら道が細いし大勢で来る事は無いだろう。


路地裏を走る間に針を地面から生やしておく。暗闇で足元がよく見えないからこれは効くだろう。


掌岩熊との戦いで得た経験をフルに生かしていく。そうして、針を間隔を開け生やしながら走っていった。


初めて来た場所だから当然土地勘などある訳もなく袋小路に入ってしまった。


もとより逃げる積もりはなかったし、背後からの攻撃を気にしなくて済むから個の方が好都合だ。


鉄刀を召喚し直し振り返って追っ手を待つ。遠くの方から叫び声が聞こえてきた。罠に引っかかったようだ。


その声も次第に近くなり人影が見えてきた。俺は拳ほどの大きさの石をありったけ宙に浮かせる。


少し気分が悪くなったがまだ大丈夫だ。追っ手の先頭がハッキリと見えた。


向こうは罠を気にしてかすぐには突っ込んで来なかった。俺は先頭に向けて浮かせていた石の4分の1ほどを飛ばした。


4分と1と言っても母体が大きいため結構な量の石がゴロツキ達を襲う。


突然の攻撃に戸惑い避ける事が出来た人は少なかった。石が当たった人の中で打ち所が悪かったようで気絶する人が何人かいた。


中には仲間を盾にしたのか無傷の人もいる。酷い事をするもんだ。俺も相手の立場だったら同じ事をしているだろうけど。


そうこうしている間に第2陣が到着した。


第2陣にも同じようにして歓迎してやる。また石が当たった何人かが気絶した。


この調子でどんどん気絶させていこう。塵も積もれば山となる、だ。


俺は減った分の半分くらいをもう一度生成した。一層気分が悪くなったが、ここは無理してでも大きく出る場面だ。


俺の目論見通り石が増えた事にたじろぐゴロツキ達。そこに追い打ちをかける様に増えた分の石を飛ばす。


先程の恐怖が蘇って来たのか動けず石に当たった。また、倒れていく。なんだか楽しくなってきたな。


言わばシューティングゲームをやっている様な感覚だ。


今度は1人の腹に狙いを定めて石を飛ばす。ゴロツキは自分の腹に目掛けて飛んでくる石を何とか転がって避けた。


ゴロツキが体勢を立て直して前を向いた時には石が目の前に迫っていて、今度は避けられずに当たり倒れた。


その後も同じ事を繰り返して遊んでいると、とうとう大将がやって来た。


大将は自身の手下達が地面に転がり唸っているのを見て驚愕したようだ。


「コレは全部お前がやったのか」


「そうですよ。何か問題でも?」


「ナメやがって、ぶっ殺してやる」


大将は身の丈ほどの棍棒を取り出して突っ込んで来た。馬鹿め、既に俺の周りには今までとは比べ物にならないくらい頑丈な針を生やしている。


大将は足元が見えていないのか、はたまた、脅威とは思っていないのか地面の針を気にした素振りも見せずに近づいてくる。


とうとう大将の足が針の真上にきた。大将はそのまま足を下した。引っかかった!!


大将の足が針に乗ると針は足を貫く事なく根元から折れてしまった。……は?


いやいやいやいや、それは予想外だって。何で根元から折れてんだよ。根元も太く頑丈にしといたぞ。


俺は戸惑いながらも残しておいた全ての石を一斉に大将の方に放つ。その結果を見る事なく背後の建物に跳びついた。


指先から鉤爪を生やしてよじ登っていく。気分はさながらスパイダーマンだ。そんな事を言っている場合じゃねぇ。


せかせかと建物を上り、屋上まであと半分と言う所で大将が針の群生を突破した。


どうする、大将が建物に到着するまでに屋上に行けない。かと言って、飛び降りればただじゃ済まない高さだ。


俺の人生ここでオワタか。長いようで短い異世界での人生だったな。もうちょっと遊んでいたかった。


大将が棍棒を振り被り俺が張り付いている建物に叩き付けた。結構な振動が伝わってくるが耐えられない程じゃない。


しかし、それが何回も続くと俺よりも建物が耐えられなくなり、俺が付いている所の壁が壊れた。


少しの浮遊感の後、落下が始まる。下を見ると俺の落下位置だろう場所に大将が待ち構えている。


目線を空に戻し今生を諦めた時、いきなり目の前が真っ暗になった。ははっ、死ぬ前は走馬灯なんか見れずに暗闇の中で死ぬのか。


気づいたら建物の屋上にいた。俺が張り付いていた建物ではない。その建物は完璧に崩れている。


俺がいる建物は崩れた建物の斜め前にある。大将は消えた俺を探してアチコチの地面を見ている。


「…助かったのか」


「危険な状況でしたので近くに転移させていただきました。それよりも、マスター、私の事忘れていたでしょう。別にいいですけどね」


頭の上から声が聞こえてビックリしたが、そう言えばクロがいたんだったな。すっかり忘れていた。


クロは拗ねてしまったが後で高級猫缶をあげれば機嫌も治るだろ。今はこの好機を逃す訳にはいかない。


飛び降りて奇襲する事も考えたが、高さがあるし確実に無傷で着地できない。


魔法で何とかするしかないか。そうと決まれば、まずは魔力を回復しないとな。色々と使い過ぎた。


過回復を発動させる。出し渋っている場合じゃないし、今なら上限は増えないからいいだろう。


十分回復をしたのを確認してから、空中に土の針を何本も浮かせる。


針はいつもより細く長くした。後は致命傷を避けて大将に飛ばすだけ。


大将は未だに地上を探している為上空での異常に気が付いていない。


そんな無防備な大将に無数の針が襲い掛かる。すんでの所で気が付いたが数が数なだけに、全て対処しきれず手足に針が刺さっていく。


その様子はさながら虫の標本の様だ。決着が着いた事だし下に行って後処理をするか。


「クロ、下に転移してくれ」


瞬きをするともう下にいた。目の前にハリネズミみたいになった大将がいたのには驚かされた。クロはまだ怒ってるのか。


早くクロのご機嫌をとる為にもゴロツキ達をどうにかするか。まずは俺の事を鬼の形相で睨んでくる大将からだ。


魔封石の手錠でもあれば良かったんだが、無いものを願ってもしょうがない。


大将に刺さっている針を変形させ土で大将の体を覆う。土の球体から頭が出て起き上がり小法師みたいになったがまぁいいだろう。


後の連中も同じ感じでいいか。そうして出来た約30体にも及ぶ巨大起き上がり小法師。


どうしよう。運ぶ手段を全く考えてなかった。馬車なんて近くにある訳ないし。


転移したとしてもこれだけの人数で押しかけたらギルドも困惑するだろうし。打つ手なしかなぁ。


もう、放置でもいいじゃね。いづれどうにかなるだろ。解放されるにしろ、餓死するにしろ。


そう考えると今すぐにでもギルドに行きたいが、お金を捨てるのも惜しい。


このゴロツキ達は言わば道に落ちているお金だ。人間、誰しも道端に落ちているお金を無視することはできない。


どうしたものかと考えあぐねていると、天啓が舞い降りた。これなら万事解決だ。


作戦はこうだ。まずゴロツキ達を置いてギルドに帰る。魔球の交換依頼の達成を報告してから、ゴロツキ退治の依頼を受ける。


ギルド員を連れてゴロツキ達のもとに戻る。後は丸投げ。完璧じゃないか。善は急げ、すぐに実行だ。


相変わらずクロの転移でギルドに戻り、さっき考えたように行動する。


ゴロツキ退治の依頼には大将の生死は問わないとあったが、『生きていたらボーナス』とかないかな。


今それを考えてもしかないから、話を聞いてやって来たギルド員と共にゴロツキ達のもとへ戻る。


今回の魔球交換の依頼で懐が温かくなって、さらに温かくなるとは胸が高鳴ってしょうがない。


ゴロツキ達のもとに着いても特にギルド員に動揺は見られなかった。大将の姿とかインパクトがあると思うんだけど。


ギルド員の確認作業が終わり、ゴロツキ達はおそらく牢獄に飛ばされた。


それからギルド員は俺に何かが書かれた紙を渡すとさっさと転移してしまった。


この紙を受付で渡せば報酬が貰えるらしい。偽装対策か暗号で書かれていて内容はさっぱり読めない。


まぁいいか、報告して報酬を貰おう。確か報酬額は5万だったかな。よく確認せずに受けたから覚えていない。


ギルドに戻るとさっき戻って来た時よりも、騒がしく思うくらい賑やかになっていた。


どうやら、遠征していた団体が戻ってきたみたいだ。何処に何しにかは分からないけど興味もないからいいか。


受付に行き紙を渡して少し待つ。寿司が食べたかったが、今から探しに行くのはしんどいし晩飯はギルドで済ますか。


結局、受け取った報酬額は8万円だった。元々の報酬額は5万円で合ってたけど、壊滅ボーナスが出たらしい。


それなりに手を焼いていたゴロツキ達だったらしく、それを壊滅させたと言う事でボーナスが付いた。


全額カードに入れてもらい、ギルド内のフードコートに行く。店を見て回るとどれも美味しそうで目移りする。


そんな店の中から1店舗を選び出した。その店はオムライス専門店。久しぶりに食べたくなるよね、オムライスって。


ケチャップじゃなくてデミグラスソースがかかっていたけど、美味しかったです

、まる。


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