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5章:依頼受けますよ!!奥さん!!

今日も天気は良く雲もあまりない。今どこにいるのかと言うとギルドの前だ。


今日は依頼を受けようかと思う。昨日ありえない額を手に入れ、働かなくても良くなったがアレには手をつけない。


もしも何かあった時の為に残しておきたいという気持ちがあるのと、体を動かしていたいという気持ちがあるからだ。


それなら、昨日みたいに魔法の練習でもいいかとも思ったが、ギルドのランクを上げる為にも依頼を受ける。


受ける内容は予め決めてある。今回は討伐系の依頼にしようかなと。魔法を実戦でも使える様にしておかないとな。


ギルドに入って魔動機に向かうと朝だからなのか、これまでとは違い少し混んでいる。


魔動機の数も結構あるから少し待つだけで済むからまだ助かる。


これで魔動機の数が少なかったら目も当てられない状況になっていた事だろう。


奥の方の魔動機が空いたので急いで向かう。向かいながらコートのポケットに入れていたギルドカードを出す。


魔動機の前に着くや否やギルドカードを魔動機に差し込む。これで一安心だ。


息を整えながら画面が切り替わるのを待つ。周りを見渡すとゴリマッチョや女の子など多種多様な人が魔動機を操作している。


人を観察している間に画面は切り替わっていた。そこからはもう、手慣れたものですぐに依頼を決め紙を発行した。


いつもならここですぐにギルドカードを取り出すのだが、今日は違う。


選択肢の中に貯金の項目があった。大金に手をつけないと決めたはいいが、守れる自信がなかったからこれは大助かりだ。


貯金の項目を選び、金額を入力して承認のボタンを押す。簡単な手続きですぐにお金を入れる事が出来た。


10万円だけ残してあとは全部入れた。5万円は現金で持っておきたかったが、財布を持ってない事を思い出し諦めた。


一昨日と同じ様に魔動機の上部から出てきた紙をつかんで受付へと向かう。


今回の依頼内容は『スタブンベアーの討伐』だ。スタブンベアーは掌岩熊しょうがんゆうとも呼ばれている。


通称の由来としては読んで字の如く拳が岩の様なもので覆われているからだ。


討伐数は1体で、気性は激しいが動きが単調が故にランクはCに位置づけられている。


昨日は散々土属性の練習をしたからな、この掌岩熊を相手取ってどこまで戦えるのか試してみたい。


今日は水属性の練習も兼ねて依頼を受けようと思っていたが、この依頼を見つけてしまったからな。


仕方がない、水属性の練習はまた今度だ。水属性よ、許してくれ。



依頼の受理も何事もなく完了した。ただ、この前の依頼と違う点が2つあった。


1つは依頼完遂の確認方法だ。討伐だから当然、この間の採取系の依頼と違う訳だ。


確認方法は至ってシンプルで、頭を持ってくればいいらしい。頭だけでも体が付いていてもいいそうだ。


確認するだけなので、確認が終われば頭をどうしようがいいらしい。


極端な話、捨ててもいいのだろう。『相応の場所に』と言うのが前提にあるけど。


もう1つは、魔法陣が書かれた紙を渡された。昨日みたいに行きと帰り用の様だ。


魔法陣を使えば知らない場所にも転移をすることが出来る。


神経質な人は依頼の前に魔力を使う事を嫌い使わない事もあるそうだ。


俺は特に気にしないし、歩くのも怠いからありがたく貰った。


念には念をと言う事で、ギルドから出て人ごみから離れてから魔法陣に魔力を注ぐ。


人に触れていてその人も一緒に連れて行ったら悪いからな。


目の前の景色は一瞬にして変わり、人の代わりに木が眼前に広がる。


ここが依頼の場所の『斑の森』か。木漏れ日が斑模様に見えるからだそうだが、確かにこれは斑模様だな。


俺はこの鬱蒼とした森の中から熊を見つけ出さなきゃいけないのか。これは骨が折れるな。


今回は木に印をつけずに森の中へと入っていく。魔法陣があるからヤバくなったらすぐ帰れるしな。


それから何の当てもなく森を歩く事、体感で1時間。未だ手がかりを1つも見つけられていない。


まだよく探していないが、本当にいるのか疑わしい。そう感じるくらい森は静かだ。


宿で水筒にお茶を入れてきたから、それを飲みながら考える。もっと奥まで行くしかないか。


一応、サバイバルナイフをホルダーから抜き、辺りを警戒しながら進んでいく。


暫く歩いていると、獣の臭いが前方からの風に乗ってやってきた。依頼対象のものである確証は無いが向かってみる。


足を進める程に獣臭がきつくなる。岩球を2つ左右に浮かせて息を殺しながら臭いのする方に近づく。


見つけた。木に背を預けて覗き込むようにしてもう一度見る。


情報通り拳の辺りと言うか、拳から肘にかけて硬そうなモノで覆われている。


体毛は深緑色をしていて、太陽光があまり入ってこないここでは保護色になっている。


掌岩熊は見た目からも分かる通り、非常に好戦的で気づかれたら一巻の終わりと思ってもいい。


気づかれていない今がチャンスだ。左右の岩球をヤツの体にぶち込み、怯んだところをナイフで喉を掻っ切る。


心を落ち着かせて行こうとしたその時、地鳴りが起こった。咄嗟に凭れていた木から離れる。


離れるとほぼ同じタイミングで木が炸裂した。何事かとみると例の掌岩熊が突っ込んで来たようだ。


気づかれていたのか。木を利用して相手の視界から逃れながら距離を取る。


ある程度距離を取るとさっき考えたように動く。木に頭をぶつけた掌岩熊が怯んだ隙に岩球をヤツのもとへ飛ばす。


練習の甲斐あってかそれなりの速さで飛んでいく岩球。その後を離されながらもついて行く俺。


掌岩熊が立ち直りこちらに気づいた時には、もう岩球が目の前に迫っていた。


掌岩熊は避ける事が出来ず、顔面に岩球が直撃した。痛みに吼える掌岩熊に構わず、ナイフで喉元を切り付けた。


薄皮を切った位で、致命傷には至らなかった。これはマズいぞ。掌岩熊は怒りに満ちた顔になり立ち上がった。


急いで離れようとしたが足が言う事を聞かず、すぐに動けなかった。そんな大きな隙を見逃してくれるほど甘くは無かった。


掌岩熊は右手を上げると俺目掛けて思い切り振り下ろした。俺は何とか損傷を減らそうと右側に跳んだ。


左腕で頭を守るようにしながら、左腕に魔力を集める。ぶっつけ本番で昨日読んだ本にあった身体強化を試す。


結果としては身体強化は出来なかった。幸いなことに頭は傷もなく無事に済んだが、左腕が言う事を聞かなくなった。


これは確実に折れてる。腕の内側から木槌で殴られているかのような痛みが続いている。


日本にいた時、俺は大きな怪我をしてこなかった。そんな人間が腕を折られたらどうなるか。


ただただ静かに泣く。あまりの痛さに声をあげる事も出来ずに涙を流す。俺は何でこんな事をしているのだろう。


いや、今は生き残ることだけを考えた方がいい。死が実体化して俺に襲いかかっているのだから。


飛竜を前にした時とは違い、死をはっきりと想像することが出来る。


まだこの世界を楽しんでいないんだ。こんなところで死ねるか。絶対生きて帰ってやる。


相手は俺を警戒しているのか、ゆっくりと近づいて来ている。長引いたらダメだ。逃げ帰りたくなってしまう。


短期で倒すためにこちらから仕掛ける。腕の痛みを根性で無視し、掌岩熊に向かって走り出す。


策なんてものは何もない。コイツを倒す、それだけを考え動く。掌岩熊は仁王立ちをして両腕を上げて迎撃態勢をとる。


隙だらけになったお腹に目掛けて岩球を飛ばす。使い回しをした為に当たると同時に砕けてしまったが、相手は衝撃に耐えられず腕を下した。


隙だらけになったヤツの右脇腹をナイフで刺す。刃が全て埋まると手を捻り、相手の足の付け根を蹴りながらナイフを引き抜く。


ブチブチッと筋肉の切れる音が鮮明に聞き取れた。掌岩熊は痛みに耐えきれず叫び声をあげた。


その叫び声が近くにいた俺の鼓膜を直撃した。あまりの衝撃に音が一切聞こえなくなった。


耳が聞こえなくなったのはかなりの痛手だ。すぐさま掌岩熊から距離を取り、気持ちを落ち着かせる。


掌岩熊はさっきの攻撃が堪えたのか、もう立ち上がりそうにない。同じ手が何度も通じるとは思わないから別にいいけど。


四足歩行から出来る攻撃は突進ぐらいなものだ。突進は動きが直線的だから避けるのも簡単だろう。


そう思っていた時期が俺にもありました。でも実際は簡単では無かった。


掌岩熊が僅かに後ろに下がり、突進が来るな、と思った時にはもう目の前にいる。それなりに離れていたにも拘らず。


咄嗟に右側に跳んだが、やはり間に合わず左半身を掠めていった。今日は左側ばかり負傷するな。


あの突進をどうにかしない事には俺に明日は来ないだろう。


まきびしでも撒けたら簡単な話なんだがなぁ…そんなものは持ってないしなぁ…


持ってなければ作ればいい。と言う訳で魔法で地面から針を生やそうと思う。


イメージとしては地獄にあると言われている針地獄の様な感じ。俺を中心として半径5m位に生やそう。


長さは五寸釘を想像する。右手を地面につけて魔力を広げる様に流していく。


そうしている間にも掌岩熊は復活し、次の突進に向けて準備をしている。


ここで焦ってはいけない。落ち着いて魔力を流し続ける。目測で5mの辺りまで広がったのを確認し『針地獄』と唱えた。


唱えると俺の近くから地面が針に変わっていった。そして、地面が変わり始めたのと同時に掌岩熊が突進をしてきた。


さっきので俺を仕留める積もりだったのか、さっきよりも格段に遅くなっている。それでも速い事には変わりないが。


掌岩熊は地面が変わるのよりも速く、3mほど近づいてから漸く針を踏んだ。


針は十分な強度があった様で、掌岩熊の体重で折れる事無く前足を突き刺した。


突然の痛みに掌岩熊は進むのをやめてしまった。しかし、それは悪手だ。


地面は未だに針に変わり続けている。掌岩熊は今5m以内にいる。当然、立ち止まれば前足だけでなく後足も針が刺さる。


後足にも刺さった事で辛抱できずに倒れてしまった。


倒れた先にも針はあり当然刺さる。掌岩熊の左半身が針で穴だらけにされていく。


掌岩熊の口からは悲痛の叫びが漏れ出る。だがそれも次第に小さくなり、仕舞いには聞こえなくなった。


掌岩熊は辛うじて生きてはいるが、それも数分の命だろう。今、楽にしてやるからな。


針を消しナイフを握り直しながら掌岩熊に近づく。掌岩熊は声は出せなくなったが、顔は怒りに満ちている。


そうだ、俺を憎むんだ。平和に生きていたお前を殺す俺を許すなよ。じゃあな、掌岩熊。


俺は掌岩熊の頭に目掛けてナイフを振り下ろした。掌岩熊は顔に怒りを湛えたまま死んだ。


掌岩熊の下にボックスの穴を出現させて収納する。疲れた。肉体的にも精神的にも。


生き物を殺す度にこういう事があるんだよな。先が思いやられる。


少し森を歩いてから帰ろう。今は心の整理をする時間が欲しい。



あれから何時間が経過したのだろうか。俺は開けた場所でずっと空を眺めていた。


今回も生き物を殺した事に罪悪感はあれど、涙が流れる事は終ぞなかった。


少し風が冷えるな、もう帰るか。俺はポケットの中に入れておいた紙を取り出し魔力を注いだ。


一瞬にして着いた街の賑わいが今日ばかりは煩く感じた。


早く済ませようと言う気持ちとは裏腹に足取りは重い。俯きトボトボと歩く。


暗い雰囲気が漂っているのか誰も近寄って来ず、誰にもぶつからずに受付まで辿り着いた。



「依頼を完遂しました。これが証拠です」


ギルドカードを渡し、ボックスの中にある掌岩熊を見せた。


「少々お待ち下さい」


受付さんはこの間と同じ様な手順をして確認をしている様だ。


「はい。確認しました。報酬はいかがいたしましょうか」


「全額カードに入れてください」


因みに今回の報酬額は15万円だ。割に合っているかどうかは微妙な所ではあるが納得するしかない。


ギルドカードはすぐに戻ってきた。ギルドカードに金額の欄が増えていてそこに25万イェンと書かれていた。


金額の欄なんてあったのか、気が付かなかった。報酬がちゃんと入っている事を確認しポケットに入れた。


ギルドを出てすぐに宿に向かった。今日はもう寝よう。風呂はまた明日にでも入ろう。


宿の扉を開け2階に上がろうとしたところで親父さんに見つかった。


「おい!どうしたんだよ、その左腕。いや、訳は後で聞くから今は治療だ。ついて来い」


親父さんに言われるまで忘れていたが、そう言えば左腕を折ったかもしれないんだった。気にしたら痛くなってきた。


その後は親父さんの奥さんに治癒魔法をかけて貰い治った。怪我の訳を話すと、無茶はするなと忠告された。


親父さんと奥さんにお礼を言ってから、部屋に行きすぐにベッドで横になった。


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