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27章:学園武闘祭(体育祭一,二日目①)

文化祭が終わり、今日から三日間体育祭が行われる。昨日の今日だから教室はそのままにみんな思い思いに過ごしている。


俺は端の席に座り机に突っ伏していた。気配を消したいのもあるけど、それよりも疲れをとる為の方が大きい。


昨日は戻ったら四方とエイダさんが店に居た。そのせいで気づかれないように振る舞っていたら変に疲れた。


そろそろ時間か。頭だけを起こして時計を確認する。時間はあと数分だと分かったが、時間よりも気になる事ができた。


文化祭は終わったというのに少なくない人が奇抜な服装を着ていた。ここの体育祭は仮装してもいいのだろうか。


そんな疑問を抱いたが担任がやってきて、今日の説明をして謎が解けた。


魔法はイメージが大事だ、と散々言って来た。そのイメージを強固にできる様な環境があれば本気を出す事が出来る。


ただ、静かな状態が一番集中できるとしてもそんなものはすぐには用意できないし、戦場で静かな状態というのはあり得ない。


だから、手頃に本気になれる手段として服装を変える事が良く選ばれる。勝負服と言う訳だな。


俺も一応ボックスの中からコートを取り出し着ておく。このコートさえあれば俺は強くなれる気がする。


さて、漸く体育祭が始まった訳だけど、俺の試合は当分ない。今日はみんな一試合しかしないけど人が多い為にそうなった。


午前中はトーナメントの試合をして、午後からは種目をする、とかしているからそんな事になるんだ。


見たい試合なんてものはないから出店を回る。今日は学生がやっているものは一つもなく全部外部の人がやっている。


買い食いして回っていると胸ポケットの中で何かが震えた。何入れてたっけか。


胸ポケットに手を突っ込み入っているモノを引っ張り出した。学生手帳だ。そう言えば入れていたな。


この学生手帳、手帳とは名ばかりでその実小型スマホの様なものだ。


ネットにも電話も繋がらないけど、学則・時間割等々学校に関係する事が色々と入っている。


その学生手帳の画面がいつもの校章ではなく文字が映し出されていた。


『まもなく試合の時間です。選手控室にお集まりください』


どうやら逐一知らせてくれるらしい。焼きそばを平らげパックを近くのゴミ箱に入れてから選手控室に向かった。


選手控室は個室ではなく大部屋だった。それでも一応の配慮がされているのか対戦相手は別室のようだ。


余裕を持って三試合先まで集められるらしく、ここでも少し待たないといけない。ベンチに腰掛け試合を映すテレビを眺めた。


眺めているだけだから内容は覚えていない。気づけば俺の番が来ていた。呼びに来た係りの人について行く。


廊下を歩いていると柄にもなく鼓動が早くなる。歓声も次第に大きくなっていく。


俺の試合を見に来ている訳がないと分かっているのに、手が小刻みに震えて止まらない。


震えを誤魔化すようにトラの頭を撫で進む。やがて廊下は終わり両開きの扉の前に立たされた。


「準備は良いですか?」


「あ、ちょっと待ってください」


扉を開けようとする係りの人に待ったをかける。長く息を吸い、長く息を吐く。気持ちを落ち着ける。


「……大丈夫です」


「では、頑張ってきてください」


扉が開かれると今まで以上の大歓声に迎えられた。あ、ヤバい。お腹がキリキリ痛む。


うう、帰りたい。誰も俺を見るな。他の試合を見てろ。俺以外にもあと三試合やってるだろ。


早歩きで試合場に上がった。相手はすでに着いていた。武器だろう大剣を持つ赤髪の男。どこかで見た気がするけどどこで見たか思い出せない。


「待ちなさい」


俺も試合の準備をしようと鉄刀を取り出すと審判に止められた。何かマズイ事をしたか?


「君、その子達はみんな使い魔なのか?」


「え、あ、はい。そうです」


審判はクロ達を指差し尋ねてきた。質問の意図が分からないまま素直に答えた。


俺の答えを聞くと審判が渋い顔をした。一体何だってんだ。


「公平を期す為に1体だけ選んでくれないか?」


「えっ!?全然公平にならないんですけど。みんな集まった全てが私の全力なのにそれはおかしくないですか?」


「だがね、4対2となると実力以前の話だろう」


「戦いにおいて多勢に無勢はよくある話だと思いますが」


こんな不公平が許されていいはずがない。必死になって言い返した。審判は困った顔をするばかりで許可しそうにない。


根気比べか。いつまでも居座ってやるぞ。観客席から歓声に紛れて騒めきも聞こえ始めたけど気にするものか。


「あまり聞き分けないと不戦敗にするよ」


「……クソッ…分かりました。ちょっと待ってください」


不戦敗になるのは面白くない。納得できないが言われた通りに一緒に出る奴を選ぶ。


相手は赤髪だから多分炎系の魔法を使ってくるだろう。となれば、選ぶ奴は自ずと決まる。


「よし、ウサ子行くか」


「は~い」


クロとトラを試合場から下ろし、ウサ子を抱えて元の位置に戻った。


つい最近覚えた新技を使ってみたかったし丁度いい。このイラつきは相手を痛めつけて発散する事にしよう。


俺が戻るとすぐさま試合が始められた。相手が大剣を振りかぶり襲い掛かってきた。


が、武器のせいか動きが遅く容易に避けられた。攻撃を避けながらこれからの事を考える。


アレをする前にちょっと弱らせておくか?一回も試したことがないから不具合が生じるかもしれないしな。


普通の身体強化を5掛でかけ、一歩踏み込み相手の腹を殴った。くの字に折れた所を蹴り、強制的に直立させる。


蹴り上げた勢いを殺さず反対の足で回し蹴りを食らわせた。相手は抵抗することなく吹き飛んでいった。


想像以上に弱い。これでは弱らせなくてもいいんじゃないか。予定を繰り上げて早速アレを試す。


「よし、ウサ子『融合』だ」


「ほいさ~」


ウサ子が頭の上から飛び降り、一呼吸置いてから胸に飛び込んできた。


僅かな衝撃によろめき、一歩足を引いた時にはもう融合が終了していた。アニメでよく見る光の演出とかはないのか。


演出がない割には色々と変わっている。女になってるし、服装も変わっている。


頭に違和感を覚えて触ってみると、真っ赤なウサ耳が生えている。


鏡がないから断言できないけど、赤音要素が濃く出ているのではないだろうか。



両手を開いたり閉じたりして体の具合を確かめる。問題なく動かせる。身長が縮んだ事で手足も短くなったけど良しとしよう。


相手も漸く立ち上がったようだ。大剣を杖代わりにして立つ男の傍には炎の塊が浮かんでいた。


火球かと身構えたがどうやらそうではないらしい。その炎の塊は男の傍を浮かぶばかりで襲い掛かってくる様子はない。


来る気がないならこちらから行くまで。相手に向け駆けだした瞬間、相手が何かを叫んだ。


相手と若干の距離があったのと歓声が五月蝿かったので聞き取れなかったが、何を言ったのかはすぐに分かった。


俺と相手との間に大きな炎の壁が現れた。試合場の端から端までを埋める程の大きさだ。


高さもそれなりにあり見上げるのが少し辛い。Sクラスでもない人間がこれほどの魔法を一人で出来るとは考えにくい。


恐らくあの炎の塊が手助けしたのだろう。姿形から考えるに、あれはウィルオウィスプか。


悠長に分析している間にも炎の壁が迫ってきている。じりじりと追い詰め場外に落とす算段だろう。


厭らしい手だが有効な手ではある。相手を打ち負かすだけが勝ち方ではない。


ただ、このまま終わるのは面白くないし、そもそもまだ負けたくない。壁の高さを確かめ、柔軟体操を始める。


徐に柔軟を始めたのには当然理由がある。


さて、ウサギの特徴的な力と言えば何か?と問われたらどう答えるだろうか。


耳が良さそう、そう答えるかもしれない。あれだけ大きな耳を持っているのだから聴覚も優れていそうだ。


前に聞いた話では熱を逃がす為に大きくなったらしいがそれはこの際脇に置いておくとしよう。


脚力が強そう、次にこう答えるのではないだろうか。ウサギはピョンピョンと飛び跳ね動き回るイメージがある。


跳ね回るのだから脚力が相当あると考えて良さそうだ。実際はどうかなんてなんて考える意味はあまりない。


何故、今ウサギの力について考えたのか。その理由と柔軟を始めた理由には密接な関係がある。


魔法はイメージだ。ならば、魔法の力によって変わったこの体もイメージ次第でどうとでもなるに違いない。そう考える。思い込む。


ウサギは脚力が強い。ウサギの脚力をもってすればこの壁も容易く飛び越えられる。そうイメージする。


足を重点的に解し終え壁を正面に見つめる。試合場の端と壁の間はもう僅かしか残されていない。


深呼吸し膝を曲げ小さく蹲る。壁から伝わる熱風を感じながら、足に力を込め跳び上がった。


結果は良くも悪くも望んだものを得られた。ちゃんと壁を跳び越す事はできたが、想像以上に跳び上がってしまった。


壁の少し上までに止めるつもりが優に体二つ分ほど超えていた。更に問題が浮上してきた。


跳び上がったはいいけど無事に着地できるだろうか。出来ると信じるしかないか。


最高到達点を過ぎ落下を始めた体をどうにか動かし、相手に向けて落ちる様に調整する。


右足に炎を纏い攻撃力を増しておくのを忘れない。傍から見たらライダーキックに見えるだろうか。


ただ、伝わるのは四方だけだろう。こっちは日朝に特撮をやっていなからな。


くだらない事を考えている間に相手まであと少しとなっていた。どてっ腹に風穴開けてやるぜ。


既の所で気づかれ大剣で防がれてしまった。だが、落下の勢いと炎の力が合わさった事で大剣を粉砕する事が出来た。


これ幸いと追撃したかったが、相手は大剣で防ぐと同時に後ろに下がっていた為に距離が開いていた。


相手に武器はない。接近戦に持ち込むのがいいか。近づこうと足に力を入れた時、突然ウィルオウィスプが膨れ上がった。


そして、俺が動き出すよりも早く、横一列に隙間なく炎弾を放ってきた。


横に逃げられないとなれば上に逃げるしかない。今度はそれほど高くならないように調整して跳ぶ。


それでも高かったが炎弾を避けられたから結果オーライ。もーまんたい。


ただ、これで終わりではない。炎弾の波を跳び越え空中で無防備となっている俺に向け火球が放たれた。


相手は取った、と、倒した、と思っているのだろう。試合中であるというのにその顔には笑みが浮かんでいる。


火球に込められた魔力は十分に深手を与える程だ。普通なら空中で為すすべなくやられてしまうだろう。


そう『普通』なら。


足に今まで以上の力を込めて踏み込む。その場を、空中を、圧縮された空気を踏み込み跳んだ。


強化された脚力なら出来ない事はない。イメージを現実にし、火球を跳び越え避ける。


相手は一瞬呆けていたが、すぐに正気を取り戻しウィルオウィスプと協力してより広範囲に大量の火球を放ってきた。


いつ『二段ジャンプ』と言った。


もう一度空中を踏み跳ぶ。特別な力が要らない為に、体力が続く限り何度でも空中を飛び跳ねられる。


火球を下に見ながら足に炎を纏い空中を滑り落ちる。もう力が残っていないのか、相手が何かをする様子はなかった。


そのまま相手の顔を踏みつぶせたら良かったのだが、なぜか顔に当たる前に何かに当たった。


振動が伝わったのか、単にビビったのかは分からないけど、相手はその場に倒れた。


右足は地面についてしまったので、左足で顔を踏み潰そうとする。が、また何かに阻まれ相手の顔の横に逸れた。


もう我慢ならない。拳を握り顔面目掛けて振り下ろした。当然拳は途中で止まる。だが、関係ない。


手を開き火を放つ。火も横に流されるが徐々に手が沈んでいく。勝った。


「試合終了だ」


肩を叩かれた。これからだって言うのに。手を退けて相手から離れる。結局全然殴れなかった。


試合が不完全燃焼のままに終わってしまった。融合を解除し試合場を後にする。


相手がすぐに音を上げるから、融合の力をあまり試せなかったのも辛いところだ。


それに、今の実力も分からなかった。俺は今全体のどのぐらいの位置にいるのだろう。前はクロに上の下なんて言われてたけど…


真ん中よりもちょっと上ぐらいが良いな。真ん中ぐらいであまり目立たず、それでも若干強い。そんな微妙な立ち位置を希望。


まぁ、夏休みの間に成長して強くなっている奴は幾らでもいるだろうから、希望しなくてもそうなっていると思うけどね。


そんな事はさておいて、午後からは興味のないクラスメイトの競技だ。心を無にして観戦するぞ。


◇◇◇


さて、二日目になった訳だけど、試合会場に行く前に先生から注意喚起があった。


何でも、昨日は生徒手帳を持っている生徒が少なく、集合が遅れる事がままあったらしい。


どんな格好をしていても何も言わないけど、生徒手帳だけは肌身離さず持ち歩くように、と言われた。


それだけを伝えるとすぐに解散となった。みんなが思い思いの場所に行く中、教室を出てすぐに選手控室に向かう。


今日は割と早い時間から試合がある。そうとは知らず朝ご飯をいつも通りの量しか食べていないから、試合中に腹が減らないか心配だ。


控室に着きベンチに座っていると、昨日よりも待つ事なく係りの人が呼びに来た。


昨日と同様にして廊下を歩き試合場に向かう。扉を抜け試合場に上がる前にクロとウサ子を下ろす。また何か言われるのも面倒だからな。


トラと一緒に試合場に上がると相手も丁度上がってくるところだった。


今回の相手は女の子のようだ。相手が誰であろうと全力で相手するから関係ないけど。


ただ、武器と使い魔には注意しておかなければならない。大弓と緑色に発光する妖精、恐らくシルフ。


完全に遠距離タイプだ。俺はどちらかと言えば近距離タイプだから距離を取られるとやり難そうだ。


審判の試合開始の合図と同時に融合をする。融合は1秒も経たないうちに完了したが、その僅かな間に距離を取られてしまった。


すぐさま駆け出す。矢を射られる前に近づかないと面倒だ。身体強化を5掛で発動し加速する。


突然嫌な予感がした。その予感に従い無理に横に跳んだ。一呼吸おいてさっきまで俺がいた場所を何かが通過した。


相手を見ると弓を構えていた。今のは矢か。通常では考えられない速度を出していたが、何かタネがあるのだろう。


タネの正体を考えていても仕方ないので頭の片隅に追いやる。今は矢を避けるのに集中する。


無理に跳んだことで体勢が崩れている所に矢が何本も飛んできた。身体強化を10掛に引き上げ何とか避けていく。


弓の癖に連射速度も速く、前に踏み込めない。むしろ避けるために下がることもあり、距離は離れるばかりだ。


ただ、まだ一撃も食らっていないのは幸いか。このまま避け続けて相手の魔力切れを狙おうと思ったがそれは期待できそうにない。


相手はまだまだ余裕そうだ。どちらも攻めあぐねる状態が続く。さすがにこのままでは不味いか。


矢を避けられているとはいえ、今は完全に相手のペースだ。流れを掴むためにも何かを仕掛けないと。



飛んできた矢を大げさに後ろに跳び避ける。相手と更に離れることになるが問題ない。


身体強化の膜10枚を雷属性に変換し、更に10枚の雷属性の膜を纏う。【魔装・雷】だ。


トラと融合したことで雷属性も扱えるようになった。当然だけど融合している間しか使えないけど。


魔装がちゃんと発動している事を確認してから再度相手に向け駆け出す。


途中、空中をゆっくりと進む矢があったので、その横を走り抜ける。相手の後ろに回り剣で切りかかる。


相手はまだ気づいていない様だったから決まると思ったが、ギリギリの所で前に跳ばれ避けられた。


跳ぶ前にシルフが何かを叫んでいたから、シルフにでも教えてもらったのだろう。


だが、不意はつけた。相手はさっきの俺と同じように体勢を崩している。一歩踏み出し近づく。


左手でもう1本の剣を逆手に引き抜き、体を回転させ勢いをつけて切り上げる。


相手は自身に風魔法をぶつける事で剣を避けた。ダメージを与えられなかったのは残念だが問題ない。


そのままの勢いで空中に浮いていたシルフを切りつけた。自分の主人に気を取られていたのか避けなかった。


シルフの背中と羽を傷つけた。背中の傷口からは血の変わりに緑色の粒子が零れ落ちた。


体勢をすぐさま戻し追撃を加えるべく足に力を込める。飛んできた矢を斜め前に跳んで避け、シルフの羽を切り飛ばす。


シルフが墜落していくのを横目に相手に近づいた。隙だらけの相手目掛けて斬りかかった。


相手は未だに俺とは別の場所を見つめている。あと少しという所で突風が発生し吹き飛ばされてしまった。


地面に剣を突き立てむりやり止まった。剣を引き抜き相手の方に向き直る。相手の見た目が変わっていた。


動き辛そうなロング丈のワンピースを着、背中には2対4枚の羽のようなモノが見える。


一瞬シルフと融合したのかと思ったが、シルフは少し離れた場所に転がっていた。


融合した訳ではないらしい。そうなれば魔装か。ゆっくり眺めていると、相手は浮き上がりまっすぐ飛んできた。


左手の剣を順手に持ち直し身構える。相手はそんな俺には目もくれず後ろに飛んでいった。


呆気にとられていると相手はシルフを拾い上げていた。静かに近づき無防備な背中に剣を振り下ろす。


相手の周囲に強風が吹いており、横に流されそうになりながらも振りきった。


間合いは十分だったが手応えがなかった。相手に近いほど風の勢いが強くなっているらしい。最後の最後で流されてしまった。


斬るのは諦めて突きに変更する。しかし、突きも当たらなかった。相手がまた空中に浮かんだからだ。


まだまだ上昇していく。ある程度の高さまで浮かぶと停止し、風の矢を幾つも放ってきた。


数は多いが対処しきれないほどではない。慎重に避けながら考える。何とかして近づかないと。


相手を見上げ相手の後ろに転移する。すぐに魔装に戻し、逆手に持った剣を相手の両肩に突き刺した。


重力が助けてくれたのか風の膜を破り剣が肩に食い込んでいく。だが、剣先が少し埋まった程度で逃げられてしまった。


地面に視線を移して転移する。無事に着地し見上げた。相手は両肩から血を流しているが、まだまだやる気はあるらしい。


今ので決められなかったのは痛いな。もう同じ手は効かないだろうし。あの風の膜を正面から攻略しないといけないのか。


普通の攻撃では意味がないのは実証済みだ。試した事はないがアレをやってみるか。


矢の雨を避けつつ右手の剣を見つめた。剣の形に沿うように膜が張られるイメージをする。


魔装の応用だから思っていた以上にスムーズに出来た。あとは何枚も重ねるだけだ。


雷属性でやったからか膜が増える毎に剣から稲妻が迸る。


膜が20枚ともなると剣自体が青白く発光し、稲妻の1つ1つが力強くなっていた。


左手の剣も同じように雷属性の膜で覆う。2回目と言う事もあり、さっきよりも割と早く出来た。


試しに飛んでくる矢を避けつつ斬りつけた。想像していた以上の事が起こった。矢が跡形もなく消えた。


これならあの風の壁も越えられるかも知れない。剣を握り直し思い切り振りかぶり、相手に向けて全力で投擲した。


剣は回転しながら飛んでいく。俺の強化された目でも速く感じる。素の状態では何が起きているのか分からない筈だ。


相手も予想以上の速度に焦っている様だ。だが、それでも二の腕を少し斬りながらも避けられてしまった。


その事を確認するよりも早くに体が動き出していた。何か考えがあった訳ではない。


ただ何となく。自然に左手の剣を持ち上げ相手に向けていた。いや、正確には相手の後ろを飛んでいく剣に。


そして、剣を握る手に少し力を入れた。その瞬間、閃光とともに轟音が鳴り響いた。


もしクロが目と耳を保護してくれなかったら、どちらも使えなくなっていただろう。


何が起こったのか遅まきながら理解する。恐らく今のは剣と剣の間で放電現象が起きたのだろう。疑似雷とでも言おうか。


その剣と剣の間にいた相手は当然無事では済まなかった。全身から煙を上げながら頭を下にして落ちている。


すでに手遅れかも知れないがそれでもあのまま落ちるのは危ない。駆け出し落下地点に向かう。


落下途中に水のクッションを幾つも用意し、落下速度を落とそうと試みた。派手に水飛沫をあげるが、確実に段々と速度を落としている。


目と鼻の先にまで来る頃には最初程の勢いはなかった。相手を受け止め、すぐさま安否を確認する。


最悪な事に息をしていない。ただの試合で相手を死なせてしまうのは心苦しい。


クロがいる方を見る。生憎、立ち位置の関係上クロは見えないが、そこは規格外のクロ、言わんとする事が伝わったようだ。


抱えている相手の鼓動が再開し、息を吹き返した。全身の火傷も心持ちマシになった気がする。


何とか危機的局面は脱したようだ。しばらくして漸く回復した審判により試合終了が告げられた。


駆け付けた救護班に相手を預け試合場から立ち去った。後の事はあの人たちがしてくれるだろう。


裏の功労者であるクロを労いつつ長い廊下を歩く。この後も試合があるが、時間はあるので何か食べよう。


激しく動いてお腹が減った。

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