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24章:本番よりも準備期間が一番楽しい事が往々にしてある

妹の強襲から数日経った今日。朝から教室にはいつもよりも浮ついた空気が充満していた。


その原因は朝のホームルームで明らかになった。


「え~、みんなももう知っているだろうけど、一か月後に学園武闘祭があります。なので、今日から短縮授業となります」


なるほど学園祭があるようだ。言葉の間に武闘が入っているのは魔法学園ならではと言う事だろうか。


担任の話はまだ続いていた。一時間目から担任の授業なので、その時間を使って役員を決めて軽く話し合いをしても良い事になった。


みんなが役員には誰がなるかを話し合っている間、俺は全く別の事を考えていた。


学園祭があると言う事はそろそろ物語は終盤に差し掛かっているのではないか。


大体の物語は学園祭を契機に魔族が攻めてくる。ならばこの世界を小説とした場合、魔王侵攻編は佳境を迎えていると言える。


実際は小説なんかじゃなく現実なんだが、四方の存在を考えるとあながち佳境というのは間違っていないかもしれない。


なんてったって、四方は主人公属性がつよいからなぁ…


魔族が襲ってくる可能性は濃厚だ。完全部外者の俺には、せめて学園祭の途中に攻めてこない事を祈る事しかできない。


考えるのを打ち切り教室に意識を戻した。委員はまだ決まっていなかった。


誰もやりたがらないのではなく、殆どの人がやりたがっているからだった。


この世界では委員は面倒なものという認識がないのだろうか。やりたい人がいるのは助かるからどうでもいい事だけど。


結局、委員を決めるだけで時間を全て使ってしまった。委員となった男女が授業の終わりに軽く挨拶をして終わった。


休み時間になってみんなが騒ぐ中、俺は学園武闘祭についての情報を集めていた。


休み時間の度に情報を集めた結果、学園武闘祭の全貌とみんなが必死に委員になりたがった理由が分かった。


学園武闘祭は5日間あるらしい。分かり易く言うと、最初の2日が文化祭で後ろの3日が体育祭だ。


文化祭はお化け屋敷をしたり劇をしたりと至って普通だった。


ただ、体育祭が問題だ。この事を知った時は、流石は異世界だと思わざるを得なかった。


3日間通してトーナメント形式の試合が行われる。トーナメントは学年で組まれクラスは考慮されない。


つまりは運次第では初戦からSクラスの奴らと戦う事になるかも知れないと言う事だ。


しかし、3日間試合しかしない訳ではない。徒競走や玉入れと言った競技も試合の間にある。


それが俺の知っているものと同じという保証はないけれど。


それでみんなが委員になりたがった理由だけど、それは学園武闘祭で目覚ましい成果をあげたクラスの委員は取り立ててもらいやすくなるからのようだ。


何にかといえば国に、さらに言えば王宮に、だ。宮仕えする事は名誉な事なんだそうだ。その感覚は未だに理解できないけど。


目立てばそれだけで宮中の人間に目に留まりやすくなるし、委員となれば小集団を纏める能力があると判断され隊長に任命されるかもしれない。


実際、過去に委員となったものが王族お抱えの近衛兵の隊長となった例が存在していた。


俺からしてみればその人の能力が高かったから、そういう結果になったのだと思える。


しかし、わずかな可能性にも縋ってみたい気持ちは分かる。


学園武闘祭に関して大体の情報は手に入れ、俺は放課後の話し合いに臨んだ。


早速委員に選ばれた男女が前に出て司会進行を始めた。まずは文化祭で何をするのかを話し合うようだ。


ここでもみんな自分の意見を主張していた。少しでも自分の関与度を上げようという魂胆なのだろう。


俺は静観を決め込む。意見が出揃うと、委員が意見を纏めて黒板に書きだした。


候補は3つ。喫茶店・お化け屋敷・演劇、だった。うん、普通だ。異世界要素全くなし。


多数決を取る事になり、最終的には喫茶店をする事に決まった。俺は何でもよかったので人が多い喫茶店で手を上げていた。


方向性が決まり、具体的にどんな喫茶店をするのか話す事になると、突然男子が立ち上がり教卓の前に立った。


「みんな、聞いてほしい。ここに性別反転薬がある。これで男女逆転喫茶店をしたいと考えているのだけど、どうだ?」


その男子は錠剤が入った小袋を掲げて聞いてきた。クラスの反応は想像以上に良く、すぐに決定事項となってしまった。


みんなは興奮して話し合っているが、提案した男子は困ったような顔をしていた。


「自分で提案しておいてなんだが、この錠剤は一日で数個しか作れないんだ。だから、衣装合わせとかを考えると人数を絞らないと…」


男子は最後まではっきりと言わなかったが、言いたい事は分かった。


そのことに意気消沈するかと思ったけど、みんなはすぐに切り替えてどうしたらいいかを話し合い始めた。


下校時間となるギリギリの時間まで話し合い、何とか決める事が出来た。


基本的には普通の喫茶店をするのだけど、その給仕係の中に性別が反転した者が紛れ込んでいる。


そして、客には会計時に代金を普通に支払うか・性別反転者を言い当てるかを選んでもらう。


後者を選んだ場合、見事言い当てられると無料となるが、間違えると倍の金額を支払わなければならなくなる。


ただ、言い当てる方を選んで外したにもかかわらず払えない、なんて事にならないように、倍額を先に払ってもらうようにする。


当たれば返却し、外れたならばそのまま受け取る。合理的だ。


「たぶん4人が最大だと思う。それで、男子と女子から2人づつにしようかと思ってる。男子からは言い出しっぺの俺と…」


誰が性別反転するのかを決める流れになり、錠剤を持っていた奴が切り出した。


自分が言い出した事だからと、男子の1枠を引き受けた。もう1枠もすでに奴の中で決まっている様だ。


そこでどうして俺に来る?やめろ、こっちに来るんじゃない。帰れ、引き返せ、俺を見るな。


俺の念は通じず奴は俺の前まで来てしまった。


「五十嵐、頼めるか?」


奴は俺の眼を見て言い放った。クラスのみんなも俺の方を見ている。それは全て期待の眼差しだった。


選択肢がある様でないじゃないか。俺はこんな状況で断れるほど豪胆な人間ではない。


「はい、私で良ければ」


俺の返事に満足そうに頷いた。あとは、女子を決める事になったが、それもすぐに決まった。


1人は委員の女子が責任を持って引き受けると言い、もう1人は女子に囲まれ押し切られるようにして決まった。


今日は下校時間となった事もありこれで終わりだ。明日から学校に来たくない。


憂鬱になりながら帰る用意をしていると、1人の女子が近づいて来た。


「いやぁ…お互い災難だったね…」


「はぁ…」


誰だろうか。水色のショートヘアの女子が目の前に立っていたが、気軽に話すほどの仲ではなかったはずだ。


「ボクは嫌だって言ったのに、みんなが『さわちんが適任だ』って言って決められちゃった」


あぁ、性別反転者として選ばれた奴だったのか。ボクっ娘でショートカット。


本人には決して言えないが、男と言われても違和感はない。今も制服が女子のものだから女子と分かったぐらいだ。


軽く会話すると満足した様で自分の席の戻り帰る準備を始めた。結局名前は分からなかった。分かったのは『さわちん』というあだ名だけ。


◇◇◇


次の日。早速、喫茶店の準備をするのかと思っていたが、そうではないらしい。


体育祭の参加種目を決めるようだ。これは昨日の内にやっておきたかったけど、文化祭の話が予想以上に伸びてしまった。


体育祭は午前にトーナメント試合を行い、午後に各種目をやる段取りだ。


黒板に全ての種目が箇条書きで書き出された。


書かれた種目をざっと見て、出てみたい種目はなかった。だったら残ったやつでいいか、と目線をそのまま空へと移した。


青空に大きな入道雲が浮かんでいた。夏のような暑さはまだ残っている。それでも聞こえてくる蝉の音は少なくなってきた。


種目決めはそれほど時間がかからなかった。黒板には1つを残して全ての種目に名前が書かれていた。


『障害物競走』これだけだ。何とも楽しそうなものが残ったものだ。俺は障害物競走の横に自分の名前を書いて席に戻った。


さて、種目がすべて決まると次は文化祭の準備だ。委員の隣にいつの間にか昨日の錠剤野郎が立っていた。


よくよく思い出したら、ずっと前に俺を女にしやがった赤髪だった。


「それじゃあ、反転組は俺の所に来てくれ」


赤髪が号令を掛けた。反転組という名前に思う所があるが大人しく集まる。


みんなが集まると赤髪から錠剤が配られた。


「よし、みんな受け取ったな。じゃあ、せーので飲むぞ。せーのっ」


錠剤を放り込んで飲み込む。目の前が光に包まれ何も見えなくなった。


光が収まるとみんな見事に性別が反転していた。俺たち元男子は問題ないが、元女子たちは女子制服を着た男子、と変態となっていた。


今日は衣装を作る為の採寸が目標となっている。余った時間でどんな衣装にするかを話し合うらしい。


今日の採寸の為だけに専門の人を呼んだみたいだ。委員の女子(現男子)が知り合いだったらしく来てくれた。


男性と女性の2人だ。男子と女子に分かれて列を作って並んでいた。


ここで問題なのは俺はどっちに並べばいいのか、ということだ。


今の俺は体が女だから女子の方に並べばいいのか、心は男のままだから男子の方に並べばいいのか。


他の3人も同じ事で悩んでいる様で動こうとしない。互いに様子を見合っている。


「えぇと…取り敢えずみんなの採寸が終わるのを待ちましょうか」


委員女子の言葉に従って教室の隅で固まって、みんなの採寸が終わるのを待った。


何もできないので本を読んでいると、時間があっという間に過ぎみんなの採寸が終わっていた。


委員女子がすぐに男性と女性を空き教室に呼び寄せた。そこで事情を話して採寸をしてもらった。


何とか採寸を終えて教室に戻ると、ちょうど衣装について話し合っている所だった。


意見のない俺は自分の席に座って空を眺める。気づいてしまったのだけど、俺はこの後もずっと女のままでいないといけないのか。


話し合いが終われば後は帰るだけなんだけど、採寸の為だけに女になったのかと思うと釈然としなかった。


◇◇◇


次の日、俺たちはメニューを考えていた。この話し合いも紛糾した。


デザート派と軽食派の二項対立だ。結局は軽食派が勝利した。調理の面倒さよりも集客を取った為だ。


また次の日、名前を考えていた。性別反転という特色を活かした名前にしようと考えられた。


そうして決まったのが『喫茶 ファンタジア』だ。


女だと思っていたら実は男だったという『幻想』と、来た人に幻想郷だと思ってほしいという思いが込められている。


ファンタジアは幻想郷ではなくて幻想曲という意味だけど、みんなが納得している様だったからその突っ込みは心の奥にしまった。


次は、看板や内装などデザイン面の話し合いと接客担当と調理担当を決める話し合いが同時進行で行われた。


俺はすでに接客担当となっているので、デザイン面の話し合いに参加した。


まだ半月残っていると言っても、やる事は山積みなので間に合うか怪しい所だ。


調理班は一朝一夕で料理が上手くなるはずがないと言う事で、料理の練習と称して家庭科室の一角を借りるらしい。


必然的に接客班が看板や内装作りに駆り出された。接客の心得などを唱えながらの作業となり、異様な雰囲気を醸し出していた。


◇◇◇


さて、学園武闘祭まであと半月となった。このまま順調に進むと思っていたが、ここで問題が発生した。


当初の予定では衣装も自分たちで作ろうと考えていた。しかし、手芸が得意な者は少なく時間も取れないと言う事で断念する事になった。


だったら外注しようという話になったのだが、そこに問題が含まれていた。


衣装のデザインはすでに出来ている。外注先も決まった。費用もみんなで均等に負担する事になった。


では、何が問題か。圧倒的に時間が足りない、と言う事だ。


半月あれば余裕で出来ると思っていたが世の中はそんなに甘くできていない。


外注先は当然の事だが俺たちの依頼しかない訳ではない。他にもいっぱい仕事を抱えているのだ。


更に、仮縫いの状態で一度試着してみなければならない。そうした状況を考慮に入れると衣装が出来上がるのが当日である可能性が濃厚だった。


運が悪いと1日目は衣装がないかもしれない。衣装は既製品を使えばいいと俺なんかは思うがみんなはそうではないらしい。


外注はすでに済ませてあるので、これ以上あれこれ考えても仕方がない。


調理担当の人を客に見立てて接客の練習をしたり、クレームの対応仕方について話し合ったり、と色々とやる事はあった。


それでも、みんな衣装が届かないかも知れないという不安を抱きつつ半月を過ごした。


つまり、明日が学園武闘祭の始まりなのである。


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