2章:おしゃべりタイム
ヤツはゲーム機をどこかに片付けると、いつの間にかあった畳の上に座った。
驚くだけカロリーの無駄遣いだ。俺も勧められるがままに座る。
座布団も用意されている。取り敢えず正座しておくか。正座には慣れているからな。
俺が座ると同時に、ヤツと俺の間にちゃぶ台と湯気が立っている湯呑が現れた。
丁度のどが渇いていたので有り難く頂くとする。ただ、猫舌だから十分冷やしてからだが。
「随分と警戒心が希薄なんだな」
お茶を飲みほっこりとしていると、ヤツは苦笑していた。
別に警戒していない訳ではない。するだけ無駄だからしないだけだ。
だってそうだろ。畳やちゃぶ台をどこからともなく出せる奴に勝算など見出せる訳がない。
「まぁいいか。取り敢えず自己紹介をば。俺は百瀬 彰吾。
名状しがたい神のようなものをやっている」
また、ツッコミどころの多いことを...
まず、なんでそんな現代チックな名前なんだとか、名状しがたい神のようなものって結局どんな存在なんだとか、しかもそれを言う時の微妙なドヤ顔はなんだとか。
沢山ツッコミたい。がしかし、自己紹介されたならば自分もするべきだ。
色々と言いたい事を飲み込んで、自己紹介しようと口を開いた。
否、正確には開こうとした。口を開く直前で百瀬が『バッ!!』と言う効果音が付きそうな勢いで手を突き出して静止してきた。
「待て、俺の力の一端を使ってお前の紹介してやろう」
別に見せてもらわなくても良かった。でも喋るのもめんどくさいので、手を叩いて喜んでいる振りをしとく。
百瀬は拍手に満足そうに頷いている。案外喋りたがりなのかもしれない。
「名前は針山 真。5月17日生まれの牡牛座の16歳で、血液型はA型。家族構成は、父親・母親・兄の4人家族。両親は共働きではあるが、昼食以外は家族全員で食べている。家族仲は良好。マンション住まいのためにペットはいない。猫派。幼馴染が1人。隣に住む新泉 茉莉がその幼馴染。新泉には『シン』と呼ばれ、新泉を『マリ』と呼んでいる。学校の友人は新泉を除くと片手で数えられるほどしかいない。趣味はゲームと読書。ゲームの腕前は中の上。チートは毛嫌いするが、裏ワザと言えば然程気にしない。ゲームの種類としては、アクションやRPGをよくしている」
百瀬が俺の情報を次々と言っている間に、俺が抱いた感情は『スゴイ?』ではなく、『キモイ?』だった。
ストーカーか何かかこいつは...
その後も百瀬は人の黒歴史を掘り出していく。
そして話はついさっきのことにまで進む。
「―――学校を出るとゲームをし始める。空を見上げた丁度その時小隕石が胸を貫きゲーム機を破壊。その後少しの間生きていたが直後拳大の隕石が頭部を破壊し死亡。享年16歳。」
知らされる驚愕の新事実?死因は隕石による頭部破壊だった?とでも驚けばいいのか?
ぜってぇ偶然なんかじゃねぇだろ…隕石が連続して急所に当たるなんて仕組まれてるだろ…
然も百瀬が仕組んだに違いない。こんな事できる奴コイツしかいねぇ。
その百瀬はと言うと、長く喋って疲れたのかお茶を飲み喉を潤している。
あの…貴方の被害者(仮)が目の前にいるのですが…何か言うことはないんですかねぇ…
「さて、何か質問はあるか?あっ、敬語とかはいいから」
質問の前に文句があります。やってる途中のゲームがあるとか、やってないゲームがあるとか、これから出る面白そうなゲームがあるとか。
「死因の隕石はお前が原因か?」
「あぁ、そうだよ」
それがどうした?とか続きそうな風に言われたんだが。頭に来たが我慢だ、我慢。
「隕石が落ちてきたのはミスなんだよな?」
「いや、ワザとだし、そもそもミスなんかしないし」
ゲームは別だけどな。と小声で言ってきたがそんな事知ったこっちゃない。
「ふざけんじゃねぇぞ?殺すなら一発で殺せよ?ゲーム機壊す必要ねぇじゃねぇか」
もう我慢の限界だ。怒る所が違う気もするが。いや、やっぱゲーム機壊されたのは許せねぇ。
「だって、お前のデータが俺のデータよりも進んでたんだもん。悪かったよ、ほら」
キモイ。男が『だもん』とかいうなキモイ。
だが、俺のゲーム機を新品みたいに綺麗にして返してくれたことだし全て許そう。殺したことでさえ。
ゲーム以外は未練もないしな。ただ家族の遺体が頭がないのは同情するけどな。
遺体は俺なんだが、て言うか親よりも先立った訳だから俺は最大の親不孝者だな。
今まで親に大きな迷惑をかけて来なかったのに、最期に迷惑をかける事になるとはな。
あぁ、父よ母よ、先立つ不孝をお許し下さい。
あぁ、何だか無性に悲しくなってきた…
「それで、俺の都合に付き合わせるお詫びに異世界に転生してもらおっかなぁと思ってたり…」
転生キタ━━━(゜∀゜)━━━!!!親不孝者?知らない子ですねぇ。
「異世界は…まぁ、剣と魔法の世界っつーありきたりな世界な訳だが、希望が有れば何でも叶えるぞ」
ん?今何でもって言った?……っていう冗談は置いて。
百瀬があの世界だと指さす方に向く。そこには1つの地球が有る。
地球と言っても、地面があって丸いって言う意味で、俺の知っている地球とは大分違っている。
大陸が2つしか無く、緑地も多い気がする。そこまで大きくない島も幾つか見受けられる。違いはこんなものか。
それにしても、希望かぁ……ありきたりって言ってたし、やっぱり魔法の属性は火・水・風・雷・土・闇・光がメジャーなんだろうなぁ……
「それじゃ、魔法の属性は土で魔力量と質は同年代レベル。あっ、後向こうの一般常識も付けてくれ」
言い終わると百瀬は放心していた。欲張りすぎただろうか。だが何でもと言ったのはソッチの方だ。俺は悪くねぇ。
暫く口を開けて放心していたから、お茶を流し込もうと動くと同時に意識が戻って来たようだ。残念。
「えっ!それだけでいいのか!?無限の魔力だったり特別な属性とかはいらないのか?あと、属性は基本的に2つ持ってるぞ」
「む、そうなのか。じゃあもう1つは水で」
そう言うとまたもや放心した。コイツは放心するのが大好きなのか?
少ししてヤツは笑い始めた。
最初は声を抑えるように肩を揺らすだけだったのに、今では耐えられなくなったように大笑いしている。
遂に壊れたか。暫くは笑い転げていそうなので、未だに無くならないお茶を飲むことにする。
俺の飲む量とお茶の供給量のどちらが勝るかを勝負していたところ漸く笑い声が止まった。
そろそろお腹がたぷたぷになって来ていたのでちょうど良かった。
百瀬は目に涙を浮かべながらヒーヒー言っているが会話は出来そうだ。
「何がそんなに面白かったんだ」
「何って…ブフォ…真顔で『じゃあもう1つは水で』って…」
思い出したのかまた笑い出した。絶対笑うようなことじゃないと思うのは俺だけだろうか。
百瀬の笑いのツボはずれているに違いない。百瀬なら『尾も白い話』でも爆笑出来るだろう。
百瀬はお茶を飲み笑いを無理やり飲み込んだ。
「オッケー、その条件で転生させるぞ。後、お前のこと気に入ったし特典もつけとくよ」
俺の顔が曇ったのか、安心しろ無敵能力なんかじゃないから、と付け足してきた。
まぁ、力じゃないなら良いか。チートによるベリーイージーモードはつまらん。
ゲームでも越せるか越せないか微妙なものが一番面白いからな。
「じゃあ、アレの前に立ってくれ」
百瀬は先程の地球を指さす。俺は何時の間にか空になっていた湯呑を置き立ち上がる。
地球の前に立つと霧が現れその向こうに薄ぼんやりと緑が見える。
やっと転生できるのか。楽しみだな。時間にしてみればあまり経ってないのだろうが随分と長く居た気がする。
振り返ると百瀬とあの家が見える。
特に思い出があるわけでもないのに、その風景を見ているとこみ上げて来るものがある。
百瀬に至っては何だか寂しそうな顔をしている。
「そう言えば、お前の都合って何なんだ」
「えっ!?あぁ…それはその…なんだ…俺ってさ、ずっと一人で居た訳じゃん…だからさぁ…そのぉ…」
どうにも言い辛そうだ。目をあっちこっちにやって言葉を探しているようにも見える。
実は俺に一目惚れして告白する気だったりして……いや、それはないな、と言うか無くてくれ。
俺はまだ女も知らないチェリーボーイなんだから。女よりも先に男を知りたくない。
俺が貞操の心配をしている間に百瀬は覚悟が決まったようだ。
「だからさ!!俺と友達になってください」
カバッと頭を下げる。よくみると肩が僅かに震えている。茶化すような空気じゃないよな。
「あぁ、よろしくな。彰吾」
そう言うと百瀬……彰吾の顔も見ずに霧の方へと進む。恥ずかしいが、まぁ偶には悪くないかな。




