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17章:夏休みの出来事①

楽で高額な依頼はないかと魔動機を捜査していたら、面白そうな依頼を見つけた。


『悪戯者を懲らしめてくれ』というタイトルの依頼だ。見るからに楽そうではある。


取り敢えず依頼の詳細を見てみた。内容は『畑が何者かに因って荒らされるのでどうにかして欲しい』といった感じだ。


畑を荒らしているのが魔物なのか、盗賊なのかは分からない様だ。その為に依頼のランクがBになっているのかもしれない。


そして、報酬額は10万円と高めだ。依頼達成条件を見ると納得できる数字だった。


依頼達成条件は『犯人を生きて村長の許に届ける事』だ。生け捕りは相手が何であれ難しいものだ。


村長は犯人を見てどうしたいのだろうか。畑を荒らした犯人を自分の手で殺したいとかだったら、ドン引きするけど。


その辺りの事情は現地で聞くとして、俺は依頼を受ける為に依頼受理用紙を印刷した。


受付に紙を渡すと依頼書・行きと帰り用の転移魔法陣が書かれた紙の計3枚を受け取った。


俺はギルドから出て人の邪魔にならない場所に移動してから、行き用の魔法陣に魔力を流して転移した。


ギルド前の喧騒は一瞬で消え去り、代わりに木の葉が擦れ合う音が聞こえてきた。


目の前には木造家屋が建ち並んでいる。そして、その家々を囲むように膝下ぐらいの高さの柵が刺さっていた。


この柵の中が村と言う事だろうけど、不用心にもほどがある様に思う。村の奥には森が広がっていた。


その森の方から魔物が来たら、低い柵なんて意味をなさない。村の警備体制に不安を覚えていると、家の間から子どもが数人飛び出してきた。


「あーー!!知らない人だーー!!」


「ほんとだ!あっ!頭にネコ乗せてる!」


「変なのー」


「ねぇねぇ!触っても良い?」


「あっ、オレもオレも」


「わたしもー」


男の子2人と女の子1人の3人が矢継ぎ早に話しかけてきた。俺は子ども達の勢いに押されながらも答えた。


「いいけど、あんまり乱暴するなよ。それから、村長さんはいるか?」


「じいちゃんならあのおっきい家にいつもいるよ」


「いっつも将棋指してる」


「わたしが連れてってあげるー」


女の子は俺の返事も聞かず手を取ると引っ張った。真っ直ぐ行くだけなので連れて行かれなくても行けるのだが、女の子は手を放そうとしない。


俺は前のめりになりながら、女の子の後についていった。男の子2人も俺の後ろについてきていた。


「おじいちゃ~ん。いる~?」


女の子は家に着くとそんな事を言いながら問答無用で家に上がった。引っ張られている俺も当然一緒に家の中に入った。


完全に不法侵入なんだけど捕まったりしないだろうな。俺の心配を他所に女の子はどんどん奥に進んでいく。


そして一番奥の扉の前に立つと、女の子はやっと俺から手を放して勢いよく扉を開けた。


「なんじゃぁ、騒がしいのぅ…おや、アルマちゃんじゃないか。いらっしゃい」


「おじいちゃん、こんにちは~。おじいちゃんに用事があるって人連れてきたよ~」


扉の先には大宴会が出来そうな程広い部屋があった。その部屋には足付きの将棋盤を前にして座っている老人が1人だけいた。


その老人は頭が見事に禿げ上がり、真っ白な髭を蓄えていて、如何にも村長らしい風体をしていた。


「初めまして。依頼を受けて来ました、五十嵐麟児と言います」


「あぁ、ギルドの人じゃったか。よくぞ来てくれました。ここでは何ですから、こちらへどうぞ」


村長は立ち上がると俺が入ってきたばかりの扉を出て、すぐ右側にあった扉を開けて中に入っていった。


俺も村長に続き中に入った。中はさっきの部屋の半分程度の広さで、長机とそれを挟むようにソファーが置かれていた。


ここは応接室なのだろう。部屋の中では村長が何かを淹れているところだった。


「どうぞ、お座りください。あぁ、お前たちはさっきの部屋で遊んでなさい」


「は~い」


子ども達は元気に返事をすると応接室を出て行った。クロを連れて。


クロは黙って見送った俺を恨めしそうに見ながら消えていった。村長の方に向き直ると丁度お盆を持ってこっちに来ていた。


「いやぁ、助かりました。長い間誰も受けてくれませんでしたから、依頼を取り消そうかを考えていたところでした」


内容があまりに不明確だったから、誰も危険を冒したくはなかったのだろう。


報酬額は高かったし、この辺りに凶暴な魔物は棲んでいないはずだから、そこまで危険はないと思うけど。


「それでは依頼内容の確認をしましょうか。村の畑を荒らす犯人を生きたまま捕獲してここに連れてくる、と言う事なんじゃがよろしいかな」


「はい」


「では、何か質問などはありますかな」


「1つだけいいですか。どうして生け捕りに拘るのでしょうか?」


それを聞くと村長は言葉を詰まらせた。すぐに答えられない理由なのだろうか。


考えたくない事だが、村長は犯人を自らの手で惨殺したいと思っているのかもしれない。


「いえね、畑を荒らされていると言っても大した痛手にはなっていないのです」


「は、はぁ…」


質問の答えとしておかしな言葉が返ってきた。聞きたい事を素直に言わない、これが大人のやり方ってやつか。きたねぇ。


「いつも決まって無くなっているのは、不出来な為に捨てようと置いておいた野菜ばかりなんです」


不出来なものだけを持って行くって事は多少なりとも知能があるって事だよな。犯人は人か?


「それで質問の答えなのですが。儂は犯人は人だと思っておるのです。なので、犯人に説教をした上で畑の手伝いをしてもらおうと考えています」


なるほど、それで生け捕りと言う訳か。性悪な爺さんじゃなくて良かった。


「そう言う事でしたか。それでは、私は今から調査の方に取り掛かります」


「はい、お願いします。あぁ、参考までに、どうやら犯人は森を根城としている様です」


「では、そちらの方を入念に調査しますね」


俺は応接室を出た。出てすぐに大広間に行き、子ども達からクロを受け取り村長の家を後にした。


あの村長はどうにもきな臭い。犯人の居所が分かっていて何故自分たちで解決しようとしないのか。


俺の質問にすぐに答えなかったのも気にかかる。考えすぎかもしれないが人を相手にするんだ、これぐらい疑って掛かった方がいい。


村長を疑うとは言ったが、森には行ってみようと思う。この辺りで隠れられそうな場所はあそこしかない。


森に向かう途中畑に寄ってみると、畑の隅に野菜が積み重なって置いてあった。


アレが不出来な野菜とやらか。確かに、葉っぱが一部黄色くなっていたり、曲がっているものが沢山あった。


あれだけ無造作に置かれていたら取られても仕方がない部分はある。ただ、盗んでしまったらそれは犯罪だ。


その罪を不問に付すと言う村長はいい人なのかもしれない。外面だけを見れば。


外聞が良くても内面は最低なんて人間は掃いて捨てるほどいる。そうじゃない人間も当然いるけれど。


村長がどっちの人間なのかは今のところ分からない。俺としては報酬さえ貰えればどっちでもいいが、気になる所ではある。


村を囲む柵が途切れている所から村を出て、目の前に広がる森を見据える。


あまり広くはなさそうだが、木が密集して生えていて全体的に暗くなっている。


人の手が入らないとこんなことになるのかと感心しかけたが、ある事が引っ掛かった。


この村は木造の家ばかりだったはずだ。なのに、切り株の1つも見つからない。


謎は溢れるばかりだが、依頼には関係はない。俺は一度すべてを忘れる事にして森に入った。


木に目印をつけながら奥へと進んでいく。森の中なのにも拘らず生き物の気配が全くしない。


村にいた時に聞こえていた鳥の鳴き声は一体どこから聞こえていたんだ。幻聴か?


ただ、生き物がいないと言う事は脅威となるものがいないから、隠れる場所としては一番良い条件なのかもしれない。


そうとなればさっさと探してしまおう。この森は薄暗くて気味悪いから早く出たい。


森の中を当てもなく歩いて1時間近く経った。未だに犯人の手掛かりすら見つけられていない。


この森にはいないんじゃないか。そう疑い始めた時、左の方で何かが動く音が聞こえてきた。


俺は音をたてないよう慎重に歩き音がした場所に近づいた。そして、一瞬黄色いものが見えた。


俺は慌てて近くに生えていた木に背をつけて隠れた。首を回して木の陰から黄色いものがあった場所を見た。


そこには大きな体をしたトラがいた。トラの口からは2本長い牙が伸びている。かっけぇぇ。


そのトラは俺の方をじっと見ている。もしかして俺が隠れているのがばれているのか。


獣の嗅覚は恐ろしいものだ。俺は隠れるのを止めてトラの前に出た。


真正面から見るとまた迫力が増して一段と格好良く見えた。


トラは俺を見ながら、牙をむき出しにし低い声で唸っていた。明らかに俺の事を警戒している。


俺のどこに警戒するような所があると言うのだろう。俺なんか殴られれば吹き飛ぶような頼りない体をしているのに。


ただ、トラは威嚇するだけで俺を襲ってこない。しばらく俺もトラも動かずじっと見つめ合っていた。


見つめ合っていると唸り声とは別の音が突然聞こえてきた。音の出処はトラの腹だった。


その音は次第に大きくなり無視できないほど響いた。トラはとうとうその場にへたり込んでしまった。


お腹が空いて力が出ないよぅ、と言ったところか。俺はボックスを開け中を漁った。


しかし、トラが食べられそうなものはすぐには出てこなかった。ずっと放置していた火焔鳥の肉はついこの間食べきってしまった。


こうなったら最終手段だ。俺はあるものと皿をボックスの中から取り出した。


トラはすっかり元気をなくして俺の方を全く見ようとしない。そうしていられるのも今の内だ。


俺はあるものを皿に盛り付けてトラの前にそっと置いた。皿を置くときに急にこっちを向いたのには驚いた。


トラは皿の上に載っているものと俺を交互に見てきた。俺は微笑みながらそれを食べる様に促した。


トラは鼻を近づけて匂いを嗅いでから恐る恐る少しだけ口に入れた。


それだけでソレの美味しさが分かったのか、止まることなく食べ始めた。可愛いぃ…


「痛い痛い痛いいたい」


突然頭に乗っていたクロが爪を立ててきた。爪は俺の頬に刺さり、頬からは血が流れてきた。


恐らくはトラが食べているものが気に食わないのだろう。今トラが食べいているのは高級猫缶『ネコプチ』だ。


この『ネコプチ』はクロの為に買っていたものだが、目の前にお腹を空かせたネコがいたらあげない訳にはいかないだろう。


ただ、クロに怒られたままは辛い。少し早いが俺たちも昼ご飯にしよう。


俺はボックスの中からクロのエサ皿とネコプチよりさらに高級な猫缶『ネコプチ ~プレミアム~』を取り出した。


これは何か祝い事があった時の為に買っていたがこの際仕方がない。同じネコプチじゃ機嫌は直らないだろうし。


クロは俺が出してきたものに気づくと俺の頭から飛び降りた。いつの間にか頬の痛みは引いていた。


現金な奴だと思わなくないが、可愛いから何でも許せる。エサ皿にプレミアムを盛り付けてクロの前に置いた。


クロは待ち切れなかったのかすぐに食べ始めた。俺はソレに苦笑しつつ自分の昼ご飯の用意を始めた。


おいしくもない携帯食料を食べ終わり皿をボックスの中に片づけた。


トラは完全に俺に気を許したのかネコプチを食べ終わるとその場で寝始めた。


食べた後に激しい運動してはいけないとどこかで聞いた事がある。俺もトラに倣い休もう。


俺が木の傍に座ろうとするとトラが突然くしゃみの様な咳の様なものをした。


人間臭い所もあるんだな。俺は特に気にすることなくそのまま木の傍に座った。


すると、もう一度トラが同じ事をした。トラをよく見てみると、トラは尻尾で自分のお腹を叩いていた。


そこには丁度人1人が座れるぐらいの空間があった。俺にそこに座れと言っているのか。


俺はトラに近づきお腹の辺りで座った。そのままトラに凭れかかるとトラは満足したように鳴いた。


やばい、コイツ滅茶苦茶可愛い。見た目は凄く格好良いのに、この甘えてくる感じ……はっ、これがギャップ萌って奴か。


トラのお腹は呼吸をするたびに上下し、揺り椅子に座っている様で眠気を誘ってくる。


トラから伝わってくる体温も丁度いい暖かさだし、毛並みも毛布の様で心地良い。


すべての事柄が俺を睡眠へと導いている。俺は何も考えられなくなり意識を手放した。


◇◇◇


目が覚めると辺りは真っ暗になっていた。ただ、時折差す光が橙色な事からまだ夕方である事は分かった。


寝すぎてしまった。まだ畑荒らしの犯人の手掛かりさえ見つけていないと言うのに。


この暗さでは今から探しに行くのは難しい。今日は諦めて村に帰ろうか。今のうちに言い訳を考えておかないとな。


「マスター、その件ですがもう解決していますよ」


「ん?どういう事だ?」


「このサーベルタイガーが今回の依頼に関係しています」


クロの言い方に若干引っ掛かる部分はあるが信じる事にした。トラの方に向きついてくるように言った。


言葉を理解できるとは思っていなかったが取り敢えずと言った感じだ。すると、トラは意外にも頷きついてきた。


最初にも少し思ったがこのトラはどこか人に慣れている気がする。野性味に欠けているとも言える。


その辺りは個体差と言った所だろう。何にせよ格好良い事には違いないから俺にはどうでもいいことだ。


暗い森の中を目を凝らしながら目印に従って来た道を戻っていく。懐中電灯を出そうかとも考えたがその必要はなくなった。


思っていたよりも奥に行っていなかった様で、すぐに森の端が見えてきた。


森を出ると理解できない光景が俺を待ち受けていた。俺が数時間前に出発した村が荒廃していた。


壊れていない建物は1つも見つからず、あちらこちらに建物に使われていたであろう木が転がっている。


その木は朽ち果てていて、かなり前にこの状態になったことが分かった。


道を間違えたか?たまたま近くに荒廃した村があってそこに着いただけなのかもしれない。


そう思いたくて村の中を見て回る。だが、おぼろげな記憶と村の家や畑の位置が完全に一致する。


一致するたびに得も言われぬ恐怖に襲われる。極め付きは他の家に比べて大きい村長の家だ。


村長の家は穴が開いたりしているが、それでも原型を辛うじて留めていて、俺がお邪魔したあの村長の家だと分かった。


何が起こっている。俺がこの村を離れていたのは数時間だけだ。その間にこの状況を作り出すことは不可能だ。


俺はもしかしてずっと夢を見ていて、こうしている俺も夢の中の俺なのか。


呆然と立ち尽くす俺の横をするりとトラが通り過ぎた。トラは静かに村長の家に向かって歩いている。


そうだ、今ままで夢の中でこれほど意識がはっきりした事はなかった。


それでこれが夢じゃないと言い切れる訳ではないが、夢じゃないと信じる事にしよう。


トラの後を追いかけて村長の家に入った。中は埃が積もっていた。靴を脱ぐ気になれず土足で玄関を上がる。


トラはと言うと迷った様子もなく奥へと進んでいった。俺は床を踏み抜かないよう注意しながら歩いた。


しばらくするとトラは大広間に続く扉の手前にある扉の前で止まった。そこは応接室の向かいだった。


トラが中に入りたそうにこっちを見てきた。断る理由もないので扉を開けようとした。


枠が歪んでいたのかすんなりと開かず、何度か揺らしてやっと開いた。トラは僅かな隙間からささっと中に入ってしまった。


俺も扉を肩で押し開けながら中に入った。中はベッドや机などが置いてあり誰かの私室ようだ。


俺が部屋の中を見て回っている間も、トラは本棚の上に置かれたものを見つめて動かない。


俺もトラが見ているモノを見てみた。それは1枚の写真の様だった。人が沢山写っていた。


その中心には村長がいて、村長の前にあの子ども達が3人仲良く並んでいた。


そして、女の子の腕の中には黄色い塊が収まっていた。顔を近づけてよく見てみると小さなトラだった。


そのトラの口からは小さく可愛らしい牙が2本突き出ていた。こいつは俺の傍にいるこのトラなのだろう。


トラの様子を見てみると落ち込んでいる様に見えた。詳しい事情は分からないが村の状況を見ればある程度予想する事は出来る。


恐らくトラは昔この村の人たちに育てられていたけど、何か事件があって村が破壊された時にトラは生き残ったのだろう。


それは一概に幸か不幸かと言えないことだと思う。ただ、トラが落ち込んでいる様子は見ていられなかった。


俺はトラの頭に手を乗せて優しく撫でた。自分の事ではないのに胸が締め付けられて止まない。


「なぁ、もし、お前が良ければだけど、もし俺がついてくるかって言ったら、ついてくるか?」


その場にしゃがんでトラと目を合わせて言った。トラがガウッと鳴いた瞬間トラの頭に乗せていた右手が痺れた。


トラの頭から右手を離して手の甲を見てみた。そこには普段クロの使い魔の契約印がある。


今はクロだけではなくなった。円の中にクロとトラが背中合わせで座っていた。クロは左上を、トラは右上を向いていた。


これはつまりトラが使い魔になったって事でいいのかな。そんで俺の質問の答えは『ついてくる』と。


「よし。それじゃあ行こうか」


俺は立ち上がり部屋を出た。出たところで向かいの応接室の扉が開いているのに気が付いた。


何気なく部屋の中に入ると机の上に綺麗な紙が置いてあった。その紙は依頼書で、右下には依頼達成のサインがされていた。

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