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16章:君に言いたい事がある

Sクラスでの初めての戦いから時間が過ぎた。あの日からずっと実戦訓練はSクラスでしていた。


試合結果は全戦全敗。内容は酷いものばかり。あの初戦があれでも一番戦えていたのだと思い知らされた。


それでもSクラスから抜け出せないから不思議なものだ。


その事以外は何もなく普通に普通に過ごし、今現在は長期休暇―――所謂、夏休み前のテストを受けている最中だ。


自分の分かる所は埋めて、分からない所は放っておいて時間が過ぎるのを待っていた。


テスト勉強は自分なりに良くした方だと思う。ただ、友達がいないから勉強は1人だったし、分からない所も先生に聞けないし辛かったが…


…そんなことはどうでもいい。日本にいた時からそうだったから何の問題もない。


この最後のテストが終われば明日からもう夏休みだ。終業式はやらないらしい。


まぁ、1学年でこれだけの人数がいるのだから当然と言えば当然だ。


しかし、これでこれから暫くは昼過ぎまで寝る事が出来る。決して寝たい訳ではない。


ただ、活動的な人間ではない為に引きこもりの生活になると言うだけだ。


頭の中で誰かに言い訳をしているとチャイムが鳴った。先生の指示に従い解答用紙を前にまわした。


そして、監督の先生と入れ違いで入ってきた担任が、軽く話をして解散となった。


テストの返却は夏休み中にある登校日にするらしい。そうであればもうここにいる必要はない。


俺は早々に騒がしい教室から出た。教室を出た先でも人が屯し移動しづらい。


俺は肩を壁に擦り付けながらなんとか玄関に向かう。玄関に着くと人は少なく、一息つく事が出来た。


深呼吸をしてから腹が減っている事に気づいた。テストでたくさん頭を使ったし当然だ。


俺は冷蔵庫の中身を思い出しながら玄関を出た。外は空気が生暖かくて、日光に照らされれば溶けてしまいそうなほどだ。


空に雲を探そうと視線を上げると見知った顔を見つけた。サユリさんが柱に凭れかかっている。


誰かを待っている様で出てくる人の顔を覗き込んでいる。恐らく四方を待っているのだろう、そうに違いない。


俺は見なかった事にし、サユリさんとは反対方向の景色を見て歩く。それも遠くに行くように斜めに。


あと数歩で校門を出られるというところで肩を叩かれた。嫌な予感がしつつも振り返ると案の定サユリさんがいた。


「こんにちは。今、暇だよね。ちょっと話したいことがあるから来て」


サユリさんは返事も聞かずに行ってしまった。ここで無視して帰る事も出来るけど後が怖いしついていった。


ついていくと校舎の左側にある庭の様な場所に着いた。普段は来ないような場所だ。


そして、今も人はおらず玄関に比べて静けさが際立つ。サユリさんは幾つも並んでいるベンチの1つに座った。


「座って。私、あなたとは一度じっくりと話をして見たかったの」


そうですか、俺は全くそんな気はなかったですけどね。俺が座るとサユリさんはいよいよ本格的に話し始めた。


「今から話す事はまだあの人にも言ってない事なんだけど、あなたにだけは言っておこうと思って…前置きが長くなったね。実は私、この国の人間じゃないんだ」


それは知ってる、と言いたいが黙って聞いた。恐らくこれから過去話を聞かされるのだろう。


小説とか漫画とかだとサユリさん視点になるやつですね、分かります。


「私はここじゃない別の国で生まれて、たぶんけっこう裕福な家系だったと思う。私は多くの執事やメイドに囲まれて育ったの」


あるぇ?おかしいな普通に話を続けてるぞ。映像はどうした、早く持ってこい。…くそ、これが現実なのか…


「囲まれて育ったって言っても、お父さんとお母さんとも一緒に過ごしたし愛されてたと思う。…今はもう顔も霞んでしか思い出せないけどね…」



「私には1歳下の弟がいたの。やんちゃでよく物を壊してたけど、それでも人には優しい子だった。私は家族、執事やメイド、みんなと幸せに暮らしていた…」


サユリさんはそこで言葉を区切った。顔を見てみると少し辛そうな顔をしていた。


「それで、私が5歳になる誕生日に初めて魔力検査を受けたの。結果は魔力量は0、つまり魔盲だった。そんな結果だったのにお父さんもお母さんも私を見捨てる事はなかった」


言い終わるたびに何かを堪えるように口を堅く結んでいた。俺はかける言葉も見つからず静かに聞いた。


「世間でも魔盲の存在は広く知られていて、魔盲のほとんどは莫大な魔力が内に秘められているって判明してた。だから、いじめに遭う事もなかったし幸せに暮らせてた。でも、ある日、封印術に精通している先生を呼んで検査してもらったら、最悪な事が判明した。私には何も封印がなく、正真正銘の魔盲だった」


その当時の事を思い出したのか空を見上げて動かなくなってしまった。俺も何気なく空を見た。


空に浮かぶ雲を見ていると何故だか分からないが無性に腹が減ってきた。そして、意識しだすと一層減ってくる。


サユリさんを見てみるとまだ空を見上げていた。今のうちにボックスから携帯食料を出すか?


「それでも、お父さんもお母さんも変わりなく接してくれた。ただ、その日からナイフを握って訓練するようになった。それだけじゃなくて、あらゆるサバイバル知識も教え込まれた」


サユリさんが話しだしたために、ボックスに突っ込んでいた手を黙って抜き話を聞く。


「私はその時、両親は優しくしてくれるけど捨てる気なんだって思ってた。だから、寝る間を惜しんで勉強した。捨てられるくらいなら自分から出て行ってやる、そんな気持ちだった。でも、私は出ていかなかった。ううん、行けなかった。捨てる気はないんだって信じたかった」


サユリさんの話はシリアスになってきたが、俺は腹の音を抑えるのに必死でいまいちシリアスになりきれない。


「そして、ある程度サバイバル知識が身についてきた日の夜の事だった。その日、私は日中の訓練で疲れて眠っていた。でも、突然の轟音に目を覚ました。訳も分からずベッドの上に座ってるとお母さんが部屋に入ってきた。お母さんはナイフと服と本を持ってた。それを私に渡すと『ごめんなさい』って言って私に魔法をかけた。気づいた時にはもう知らない森に一人放り出されてた」


サユリさんはただ事実を淡々と話した。あまり当時の感情を思い出したくないのだろう。


「そこからはただ我武者羅に生きた。食べられるものは何でも食べた。何度も魔物に殺されかけた。毒草を間違って食べて死にそうになったこともあった。それでも何とか生き延びる事が出来た」


サユリさんの話は終盤に差し掛かっていた。俺としてはここからが問題だ。恐らく次は飛竜に襲われた話だろう。


「そして、何日生きたのか億劫になってきた頃にはもうすっかりサバイバル生活に慣れていた。その日もいつもの様に木の実を取っていた。すると突然辺り暗くなり轟音が響いた。上を見ると飛竜がいた」


やっぱりだ。頭を抱えたくなる俺とは裏腹にサユリさんの声には活力が戻ってきた。


「私は木の実を捨てて一目散に逃げ出した。木を盾にしながら必死になって走った。逃げるのを諦めかけた時、遠くに茶色のコートを着た人を見つけた」


ほうら、登場したよ、俺が。やだなぁ、これ以上聞きたくないなぁ…


「その人はフードを深く被っていて顔は見えなかったけど、私を庇って飛竜の突進を受ける事で標的を自分に向けるぐらい優しい人だった」


美化しすぎぃ。あれはサユリさんを見てて避けられなかっただけですぅ。


「それからも私を守りながら戦い、そしてついに飛竜を倒した。倒した後、その人はしばらく動かなかった。たぶん、自分の殺した飛竜のことを想って悲しんでいたんだと思う」


残念でしたぁ、あの時はなにも思ってませんでしたぁ。ただ疲れてただけですぅ。


「そのあと飛竜をボックスに入れると私をこの国まで案内してくれた」


案内なんかしてねぇし。勝手についてきただけだろ。


「案内するだけじゃなくて、ギルドにも連れて行ってくれた。その人とはギルドで別れる事になったけど、代わりにあの人を紹介してくれた。それから、いろいろあって私はここにいるの」


最後は適当に流された。四方の事は何も言わなかった上に、あの人呼ばわりだし、四方が不憫で仕方がない。ざまぁ。


「それで、感想は?」


感想を求められてしまった。ここでへたに同情するとフラグが立ってしまうだろう。ここは思った通りの事を言うか。


「え~っと…感想と言われましても、そーですか、としか言いようがないのですが…」


「それだけ!?」


サユリさんは突然立ち上がり俺の目の前で仁王立ちした。ご立腹の様だ。計画通り。


「…まぁいいわ、はっきり言わなかった私も悪かったから。今度こそはっきり言うわ。私は、私を助けてくれたその人の事が好きなの」


捉えようにようによっては告白されたように思える。事実、遠回しではあるが、告白されたのだろう。


その人の正体が分かっていて俺に話をしたのだろうから。色々と思うところはあるが俺の返事は決まっている。


「吊り橋効果、って知ってますか?」


「え?」


吊り橋効果を知らないのか、急に言われて理解できていないのかは分からないが、サユリさんはキョトンとしている。


「吊り橋効果とは、簡単に言えば、外的な条件で興奮している事と恋愛感情により興奮している事を混同してしてしまう事を言うんです」


「それじゃあ何?私のこの感情は錯覚だとでも言うの?」


「端的に言えばそうなりますね」


それを聞いたサユリさんは絶句している。次の瞬間には目が潤み始めた。


事実上の告白をしてその返事が『それは錯覚だ』って言われたんだから泣きたくもなるだろう。


ただ泣くことはなかった。鼻をすすり、目からは大粒の涙が零れそうになっているが、それでも泣かなかった。


「…ただ、まぁ、その気持ちが本物かどうかを確かめる方法はありますよ」


「……ホント?」


その顔があまりにも見ていられなかったから、つい助け船を出してしまった。


「ええ、本当です。その方法は簡単で、その相手の嫌な所を幾つも思い浮かべるんです。それは紙に書き出しても、口に出しても良いんですけど。そして、その思い浮かべたものを我慢できれば、その気持ちは本物だと言えると思いますよ」


確証は全くないけどね。


「…それだけ?」


「それだけです。ただ、注意しなくてはいけないのが、絶対に『私が直してあげる』と思わない事です。それだけは注意して下さい」


と恋愛初心者の俺は言ってみる。俺がそうなんじゃないかなぁ~、と適当に言っている事だから当てにはならない。


「分かった。考えてみる。話せてよかった。あ、これ私の番号だから、また話そうね…それじゃ」


サユリさんは俺に紙を渡すとそそくさと行ってしまった。早速嫌な所を考えてみるのだろう。殊勝なこって。


俺も帰ろうかと立ち上がると目の前に四方が立っていた。四方は何故だか怒っている様だ。


「おい、マコト、あの態度はなんだ。せっかく暗い過去を打ち明けてくれたのに、あんまりじゃないか」


「盗み聞きしてたんですか。良い趣味してますね。このことをサユリさんが知ればどう思うでしょうね。まぁ、私には関係ない事ですが。それでは」


「え?あ!ちょ、待て」


俺は自分の部屋に転移した。普段は寮に転移すると警報が鳴るが、今日はクロが気を利かせて鳴らないようにしてくれた。


テスト終わりで開放感に満ちていたのに、暗い話をされてテンションが下がってしまった。


でもまぁ、四方のあの情けない顔を見れたし良しとするか…


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