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13章:譲れないもの

サバイバル訓練が終わった次の日、つまり今日は土曜日だ。快晴と言っても差し支えない天気だ。


いつもなら依頼を受けているが、サバイバルの疲れを取る意味も兼ねて前々からしたかった街の散歩をしている。


人見知りが無ければ、行った事がない店に行ったのだけど、無いもの強請りをしても仕方ないので、外から店の中を軽く見るだけに留めた。


それだけでも十分楽しめているから、良いと言えば良いのかも知れなかった。


土曜日だと言う事もあって街は人でごった返していた。それでも、身動きが取れない程ではなかった。


道路が広いからかは分からないけど、人がそれなりにいるのに空いているとさえ錯覚する瞬間があった。


そんな状況でも普段から人と接しない暮らしをしている人間にとってはつらい状況だった。


ほんの1時間程度しか歩いていないのに、どこかに座って一息つきたくなった。


疲れを取る為に散歩していて、疲れるなんて本末転倒の様な気もするけど、気にしないようにしよう。


ちょうど近くに噴水があった。人の合間を縫って噴水に近付き、傍にあるベンチに座った。


噴水の近くでは携帯で誰かと会話をしている女子や、井戸端ならぬ噴水端会議をするおばちゃん達など多種多様な人達がいた。


普段は気にも留めなかったが、こうやって他の人を見ると、自分は少数派なんだと気づかされる。


道行く人の髪が彩り豊かだった。赤や茶色は勿論のこと緑や紫なんてのもある。


そんな中で黒髪は10人中1人くらいの割合しかいない。下手をすればもっと少ないかも。


このまま、ベンチに座りながら人間観察をしていても良かったが、今日は散歩するつもりだったのを思い出した。


体調は大分マシになったから、立ち上がり散歩を再開した。いつもは行かない場所に行こうか。


再開してほんの10分でまた足を止めた。お腹が空いた。朝食はちゃんと食べてきた。


にも拘わらず、昨日から何も食べていないみたいな凄まじい音が腹から鳴り響いた。


昼食にするには早いし、気軽におやつを買えるコンビニ的なものもないし困った。


何かないかとボックス内に入れていたものを思い出していると、何処からともなく美味しそうな匂いが漂ってきた。


その匂いに誘われるようにまた腹が鳴った。匂いの出所を探すとすぐに見つかった。


それは屋台だった。ただ何を売っているのかは分からなかった。


肉を焼いているのは分かるが、それが何の肉か分からないし、どうやら肉を単体で売っている訳でもない様だ。


屋台の両脇にあるのぼりの一方には『浜のレヌア』もう一方には『山のレヌア』と書かれていた。


どうやら『レヌア』なるモノを売っているらしい。聞き慣れない言葉だ。


屋台に近付いて出来上がっている商品をよく見た。見た目は殆どケバブと同じだった。


半月型のナンの様なモノの中に様々な具材を入れていた。浜の方は魚介類が、山の方は肉や山菜が使われている。


商品の前には値札が置いてあり浜と山どちらも400円だった。それなりに大きいから妥当な値段だと思う。


取り敢えず、注文しようか。そろそろ我慢の限界が近づいて来ている。


「すみません。この浜のレヌアを1つください」


「あいよ。ちょっと待っててくれな。今、熱々のが出来たから」


「あっ、はい」


店のおじさんは鉄板で炒めていた魚やホタテ等を、予めキャベツを入れていたナンに手際よく入れた。


それから紙に包んで渡してきた。俺はそれを受け取ってから千円札を渡した。


お釣りを貰い店の横にあったベンチに座った。紙を開けるといい匂いが飛び出してきた。


俺は我慢できずに噛り付いた。食べた瞬間、醤油の風味が口の中一杯に広がった。


キャベツがシャキシャキとして食感がいいし、ナンと魚介類の相性が思っていた以上に良かった。



美味しくて手が止まらず、すぐにレヌアを食べきってしまった。紙を近くにあったゴミ箱に捨てて立ち上がった。


うん、これなら昼まではもつかな。俺は一度伸びをしてから、ギルドの方に向かって歩き始めた。


ただ行きたいのはギルドではない。ギルドを境に大通りが左右に分かれており、その道の奥に行こうと思っている。


前にちょっと言ったかも知れないが、ギルドに向かって右側の道の最終地点には城がある。


当然中には入れないだろうけど、一度は外からでも眺めてみたいと思っていた。


前までは城に近付けば神座とかに会う心配があったが、学校が始まった今では会う事もないだろう。


暫く歩いていると見覚えのある建物が見えた。解体屋だ。久しぶりに見た気がする。


ついでに挨拶して行こうかと思ったが、解体して欲しいものもないし、冷やかしに思われるかもしれないから止めておいた。


取り敢えず心の中で挨拶しながら店の前を横切った。その時に顔を上げると城が目に入った。


今いる場所から城まではそれなりの距離があるのだが、それでも城は大きく見えた。


近くに行けば今の倍ぐらいの大きさに見えるに違いない。俺は城の中を想像しながら歩を進めた。


10分位歩いてやっと城の前に着いた。ここにも人はいるがギルド前に比べて少なかった。


城の前は広場になっていて、目一杯使えばサッカーの試合が出来そうな程広い。


広場をざっと見渡してから視線を城に戻した。城は壁に囲まれていて、正面の門の両脇には衛兵がそれぞれ2人立っていた。


門を抜ければすぐに城があると言う訳ではなく、中庭があってから城がある構造となっていた。


中庭では兵士たちが規則正しく並んで、教官の指導のもと剣を振っていた。ご苦労様です。


心の中で兵士たちに労いの言葉を送りながら門に近付いた。衛兵に止められない程度の距離で止まって城を見た。


城は思わず口が開いてしまいそうになるくらい大きかった。見栄を張るにしても限度と言うものがあるだろうに……


遠くから見た時には屋根の上に旗が風に靡いているのが見えたのに、今いる場所からは見えない。


あまりの大きさに呆れながらも目を落とすと、城から誰かが出てきた。


出てきたのは2人だったのだが、その内の1人は見覚えがあった。あの緑髪は間違いない、ギルド長だ。


なんで城から出てきたのかを考えるよりも先に、足がその場から立ち去ろうと動いていた。


早歩きで左の方に進んでいると、後ろの方から駆けてくる音と声がした。


「お~い、五十嵐く~ん。待ってよ~」


気づかれていたのか。ここで走って逃げれば何をされるか分からないから、観念して足を止めた。


振り返るとギルド長がその綺麗な髪を振り乱しながら、こちらに向かって走って来ていた。


こちらが立ち止まっているのに気づいていないのか、いつまで経っても走る速度を落とす気配がなかった。


遂に、その速度のまま俺まであと数歩と言うところまで来た。このままでは正面衝突してしまう。


「とうっ!」


その掛け声とともにギルド長は跳んだ。は?跳んだ?いやいやいや。え?どうすんの?


咄嗟に避けようと左半身を引いたが、ギルド長は頭から跳び込んでいる為、俺が避ければ地面に頭を打ち付けてしまう。


仕方なく左半身を戻して受け止める体勢に入った。その丁度のタイミングでギルド長が落下してきた。


それなりの速度で来たので、勢いに押されてよろめいたが何とか受け止める事が出来た。


ただ、受け止めた時にギルド長の頭が鳩尾に入って吐きそうになった。


吐き気を堪えつつギルド長を剥がそうとしたけど、思い切り抱きしめられ離せなかった。


「あ、あ、あのっ!は、はな、放して下さい!!」


「え~ぇ、もうちょっとだけ待ってくれてもいいのに」


そう言いながら渋々といった様子で離れてくれた。本当にいろんな意味で心臓に悪い人だ。


ギルド長は外見からは物静かな大人な女性と言う印象を受けるが、その内面は意外と子供っぽい所がある。


この人を見ていると人は見かけによらないんだと実感させられる。


「五十嵐君はこんなところで何してたの?」


「あぁ……えぇっと…散歩?です…」


ボッチな俺が人と、ましてや女性と、目を見て話せる訳もなく、あちこちに目を泳がせ言葉を詰まらせながら答えた


「ふぅ~ん。それなら暇なんだよね?じゃあこれから私と一緒に―――何?今、五十嵐君と話してるんだけど。……あぁもう、分かったわよ」


ギルド長は話している途中で急に後ろにいた人の方に振り返り話し始めた。その人に対する言葉の節々には棘があった。


そこで初めて俺もギルド長の後ろに立っている人を注視した。その人はローブを着てフードも被っていた。


ローブは黒地で袖口や裾には炎をイメージしたであろう模様があった。怪しさ満点だ。


顔が気になりフードの中を覗いてみたが、仮面をつけていて顔は見れなかった。



恐らくは帝の内の誰かなのだろうけど何帝なのだろうか。


「名残惜しいけど、もう行くね。また今度、時間が合えば一緒に食事をしましょ。じゃあね」


「えっ!?あっはい、それではまた」


ギルド長は転移した、怪しいローブを着た人を置いて。俺とその人の間に微妙な空気が流れた。


ローブの人は俺に会釈をすると転移してしまった。広場には俺1人だけが残された。


しばらくその場で呆然としていたが、すぐに我に返って歩き始めた。


昼食を食べるには少し早いので、俺は城に向かって左側に伸びている道を進んでいる。


まっすぐ行くとギルド横の道と合流する場所がいづれ出て来る筈だ。そこに着いた頃に丁度いい時間になっている事だろう。


ずっと歩いていても右側の景色は全く変わらない。ずっと城壁が続いている。


この様子だと城壁に沿って1周するだけでも半日はかかりそうだ。いや、それは言い過ぎかも知れないな。


とにかく、それ程までに大きいと言いたい訳で。これなら楽に警備の目を掻い潜って城に侵入できそうだ。


そうこう言っている間に城壁の終わりがやっと見えてきた。終端に着いて最初に目に入って来たのは数々の遊具だった。



城の横には公園があった。ただ、公園と言って良いのか分からない程大きい。運動場と勘違いしてしまいそうだ。


滑り台やブランコ等があるから公園ではあると思う。子供たちが元気に遊具で遊んでいる。


俺にもあれほど元気な時期があった。小学生の頃は夢と希望に満ち溢れていた気がする。


成長するにつれて知りたくもなかった事をたくさん知って、自分の出来る事と出来ない事に気づいた。


それから夢を諦め、希望を捨て、としている内に心が空っぽになって、気力のない人間だけが残った。


なぁ~んて、悲劇っぽく言ってみたけど、そんな自分の事を嫌ってはいない。むしろ好きかも知れない。


そんな事を人に言おうものならナルシストとレッテルを貼られるだろうけど…


ええい、ごちゃごちゃ考えるのはやめろよ、俺。今は散歩をしているんだ、心を無にして景色を楽しもうぜ。


ずっと地面を見ながら歩いていたが、自身を叱責しながら顔を上げた。顔を上げた先にはまた大きな建物があった。


この建物には衛兵の恰好をした人が多く出入りしている。恐らくここは衛兵たちの詰所なのだろう。


日本で言えば警視庁の様なものか。悪い事をしていなくても近寄りたくない場所ではある。



それでも一応はその建物の前に立ち見上げた。窓が沢山あり装飾も凝っているので、ホテルのようにも見える。


綺麗な建物ではあるがただ1つ残念な事があった。右隣に公園があり、左隣はそこそこ広い道がある。


つまり、広い場所に大きな建物がポツンと立っている。これで浮かない訳がない。


風景に溶け込んでいないばかりか、高さと職業柄とが相まって異様な威圧感を放っている。


見ていると息苦しくなってきた。俺は振り返ってギルドの方に伸びている道に逃げた。


しばらく歩いてから大きく息を吐いた。あそこにいただけで肩が凝った様な気がする。


肩を回して凝りを解消していると、ギルド前の広場に戻ってきた。いくらなんでも早過ぎないか。


こっちの道は短いのかと思い、後ろを見たがあの威圧感のある建物は見えず、背の低い建物が軒を連ねていた。


特別短いと言う訳ではなさそうだ。無心で歩いていたから時間が飛んだのかも知れない。


そう言う事にしておいて、これからの事を考える。広場からは道が3つに分かれていた。


左の道は城に、右の道は国外に出る為の門に、真っ直ぐの道は学校にそれぞれ通じている。


あぁ、そうだ、折角ここまで来たのだからブレットさんの所に寄って行こうか。昼食もそこで食べよう。


俺は右の道に向かって歩き始めた。ブレットさんの宿はそれほど遠くはなく5分ほどで宿の前に着いた。


ここまで来たけど、居なかったらどうしよう。丁度昼時で宿泊客は出払っているだろうし、居なかったとしても何の不思議でもない。


駄目もとでドアノブを握り引っ張った。ドアは淀みなく動き、上部に付いたドアベルがカランコロンと綺麗な音を奏でた。


「いらっしゃい…って兄ちゃんじゃねぇか。久しぶりだな。元気にしてたか?」


「はい、何とか元気にやっています。それでですね、折り入ってお願いしたい事があるのですが……」


「ん?なんだ?」


「えぇっと、昼食を作っていただけないかなぁっと……」


「そんな事か、いいぞ。ちょっと待ってな。厨房の方に行って作れそうなもん見てくっから」


「あ、ありがとうございます」


ブレットさんは厨房の方に行ってしまった。俺は取り敢えず食堂の席に着いた。


俺はテーブルの上にあったピッチャーの水を注いで一息つく。ブレットさんが居てくれて良かった。


それに、久しぶりに会ったと言うのに、ブレットさんは俺の事を覚えていてくれた。


まだ一ヶ月ほどしか離れていないけど、この宿もなんだか懐かしく感じる。



「お~い、今あるもんだと炒飯ぐらいしか作れねぇけど、それでもいいか?」


「はい」


厨房にいるブレットさんに聞こえる様に大きな声で答えた。


作ってもらえるならよっぽど変なものじゃない限り何でも食べるつもりだ。


しばらくして厨房の方から何かを切っている音が聞こえてきた。待っている間が暇だ。


頭を掻こうとして手を上げると温かい物体に当たった。クロだ。…クロのご飯も用意してあげるか。


ボックスからエサ皿とエサを取り出してから、クロを起こして頭から下ろした。


普段から綺麗にしているけど、テーブルの上に立たせるのはブレットさんに悪いと思い、地面に座らせる。


クロの目の前にエサ皿を置き、エサを盛り付けた。クロは目を輝かせながらも尻尾を振るだけで食べようとしない。


「先に食べてていいぞ」


俺が小声で言うとクロは「にゃ~」と鳴いてからエサを食べ始めた。普段はにゃ~なんて鳴かないのにあざとかわいい。


そうこうしているとブレットさんがお盆を持ってやってきた。お盆の上には湯気が立ち上っている炒飯とスープが載っていた。


「待たせたな。ほいよ、炒飯と卵スープだ」


「ありがとうございます」


「なぁに、気にすんな。それよりも前いいか?」


「ええ、どうぞ」


ブレットさんは一言断ってから前の席に座った。


ブレットさんは目の前に座っても何か話しを始めるでなく、黙って俺の顔を見つめてきた。


俺は気にしない様にしながら炒飯を食べ続けた。無言なのに視線がうるさいとはこの事を言うのか。


なんとか半分ほど食べ終えたが、とうとう我慢の限界がやってきた。俺はスプーンを置いて沈黙を破った。


「あの、顔に何かついていますか?」


「んぁ?…あぁ、悪い悪い。顔にはなんもついてねぇよ。ただ、あまりにも美味しそうに食べてくれるからつい、な」


「あ、いえ、それなら……」


自分としては至って普通に食べていたつもりだったが、案外気持ちが顔に出ていたのかも知れない。


そうやって意識し出すと無性に恥ずかしくなってきた。もしかしたら俺はポーカーフェイスが苦手なんじゃないか。


「そう言えば、学校の方はどうなんだ?」


「まぁ、それなりに楽しくやっています」


友達が1人もいないなんて口が裂けても言えなかった。ブレットさんにはいらない心配をさせたくない。


「そうか、そうか。楽しくやってるなら良いんだ。ところで、ソイツは使い魔か?」


ブレットさんがクロを指さしながら言った。クロは最後の一欠けらを食べようとしている所だった。


「はい、ニュートラルキャットのクロです」


クロはエサを食べ終えて毛繕いを始めていた。可愛いなぁ。


「使い魔との仲は良いみたいだな。使い魔からも信頼されてるみてぇだし、短い期間でここまでの関係を築けるなんてすげぇじゃねぇか」


「ありがとうございます」


ブレットさんに褒められると父親に褒められた様な気分になる。父親か…


その後も何かと話をしながら炒飯を食べ続けた。



そして今は全て食べ終わりお茶を飲んでいた。ブレットさんはと言うと厨房でお皿を洗っている。


これを飲んだら今日はもう帰ろうか。散歩は十分したし半日以上外にいると反動で1日中部屋に籠りたくなってしまう。


クロを頭に乗せて帰る準備をしていると、ブレットさんがタオルで手を拭きながら戻ってきた。


「なんだ、もう行っちまうのか?」


「はい、ごちそうさまでした。それで…おいくらでしょうか」


「金なんて要らねぇよ」


「いえ、流石にそういう訳には…」


「あ~ぁ、じゃあ、アレだ。また暇な時に来てくれればいい。ただ、来る前に絶対この番号に電話してくれ」


ブレットさんが電話番号を書いた紙を渡してきた。どうやってもお金を払わせてはくれない様だ


「あ、はい。ありがとうございます」


ブレットさんの厚意を無下には出来ず俺は引き下がった。それから俺はブレットさんに別れを告げて宿を出た。



宿を離れた俺は一直線に寮へ戻る為、広場から学校の方へ伸びる大通りを歩いていた。


俺はこのまま何もなく帰れると思っていた。だが、そうもいかなくなってしまった。


何処からか猫の鳴き声が聞こえてきた。それはか細く、すぐに街の喧騒にかき消された。


俺にはその鳴き声が困っているように聞こえた。猫が困っているとあれば助けずにはいられない。


音がした場所を特定しようと首を振った。すると、路地裏に数人の男たちが消えるのが見えた。


相手が複数でも構わない。誰であろうと猫をいじめる奴は成敗する、それが俺の譲れないものだ。


俺は3掛の身体強化を施しながら奴らに近付いた。奴ら4人は何かを囲むようにして動いていた。


恐らく中心には猫がいるのだろう。待ってろよ、今助けてやるからな。


俺は一気に距離を詰めて一番後ろにいた奴を思いっ切り蹴った。蹴られた奴は壁に頭を打って気絶した。


前にいた奴らが音に気づき振り向いた瞬間、顔に目掛けて殴りかかった。


3人は状況を理解できなかったのか避けようともしなかった。殴られて怯んだ所で背負い投げの要領で地面に叩き付けていった。


そうしてみんな気絶した。ピクリとも動かないけど恐らく生きている。確かめてないから自信ないけど…


そんな事よりも猫だ。怪我をしてないだろうか。俺は心配しながら振り返った。


後ろには真っ白な猫耳がピクピクと動かすモノがいた。尻尾も白く、瞳は炎の様な赤色をしている。


身体は想像していたよりも大きかった。座り込んでいる為に正確には分からないけど、立てば頭が俺の肩の辺りまできそうだ。


ノースリーブの白いワンピースからは、色白で細い腕が伸びている。


ここまで言えば分かるだろうか。そう、俺が助けたのは猫ではなかったのだ。


獣人の少女だった。しかも、猫の。


この場合、俺はこの子を猫の分類に入れてもいいのだろうか。そもそも、俺にとって猫とは何なのか。


猫耳と尻尾が生えていれば猫なのだろうか。いや、そうではないとはっきり言い切れる。


しかし、しかしだ俺よ。俺は確かに猫の鳴き声を聞いて助けに来たのだ。では、俺は猫を助けたのではないか。


そうだ、俺にとって猫とは、姿形にはよらず、心・気持ちが猫だと肯定したものこそが猫なんだ。


「あの、たす―――「おおっと、これから用事があるんだった。それじゃ、気を付けて帰れよ。じゃあな」


猫の定義が決定した所で女の子が話しかけてきたが、俺はそれを遮り急いで路地裏を出た。


単純に女の子と話せないのもあるけど、お礼を言われるのも気恥ずかしかった。


路地裏を出ると左に向いて走った。あぁ、今日は良い1日だったなぁ。



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