11章:ボッチはつらいよ
俺は朝の日課――クロによる暗殺及び毒殺・鉄刀の素振り――を終え、教室へとやって来た。
まだ早い時間だから教室にいるのは日直と俺だけだ。俺はそれだけ確認すると一直線に自分の席に着いた。
カバンを壁際に置いてから机に突っ伏した。頭の上に載っていたクロは机に降り立ち毛繕いを始めた。
昨日の疲れが完全には取れ切っていない。足も腕も怠くて動かすのも億劫だ。腕の疲れは素振りのせいでもあるが。
ずっと机の上に倒れていると、窓から差し込む暖かな太陽の熱で眠たくなってくる。
意識が浮上してきた時には教室の中が騒がしくなっていた。時計を見ると朝のホームルームがもうすぐで始まる時間だった。
俺はなるべく気配を消しながら起き上がると、時間が来るまでクロを撫でて待つ事にした。
ホームルームは伝える事が無いのか既定の時間よりも早く終わり、その後は特に変わった事もなく座学が続いた。
授業の内容としては、国語や数学など馴染みのある教科もあれば、魔法理論や魔法陣学と言った聞きなれないものもあった。
そして、授業は終わり昼休みになった。クラスメイトの半分は学食に行き、もう半分は弁当だったり購買で買ったパンを食べたりする。
今日もそうなる筈だった。だが、ほとんどの人が新しいクラスに慣れ、新しい友達が出来て薄々気づき始めた。
〔もしかして、アイツ(俺)1人なんじゃね。友達いないとかボッチ乙〕と。(全ては五十嵐君の被害妄想です)
俺はそんな嘲笑と同情の眼差しから逃げる様に教室を飛び出した。好きで1人になってる訳じゃないやい。
そんな俺はいつも朝に購買でパンを買って教室で1人寂しく食べているのだが、今日は怠すぎて買いに行けなかった。
今から行っても混んでるだろうし、それなら前々から行ってみたかった学食に行くか。
学食は一度見た事があるけど、とてつもなく広かった。広すぎて調理場が東側と西側の2ヵ所にないと対応できない程だ。
券売機は調理場の近くに5台づつあって、その隣にショーケースがあり中に美味しそうな食品サンプルが飾られている。
学食の中は大いに賑わっていた。ただ、ご飯を食べているのは人間だけではない。使い魔も一緒に何かを頬張っている。
使い魔は鳥や狼などの動物がいたり、何がモチーフになったのか分からないモノがいる。
学食内で動物が闊歩するのは衛生的にどうかと思うが、学食内の至る所に室内の衛生状態を保つ魔法陣が書かれているそうだ。
使い魔がいる理由としては、学校が使い魔との親睦を深める為に共に行動する事を推奨しているからだ。
そのおかげで俺もクロといつも一緒に居られるから感謝している。っと、そんな事よりも今は席を見つけないと食券を買いにも行けない。
空いている席を探して周りを見ても見つからない。ある事にはあるが、テーブル席ばかりだ。1人でテーブルを使うのは忍びない。
そもそも、カウンター席が見当たらない。ボッチに厳しい食堂だな、おい。
仕方ないから食券を買おうと調理場の方に向かった。何にしようか迷って他人が頼んだ料理を見ているとあるものを見つけた。
調理場の角に色褪せた魔動機が置いてあった。俺はそれが気になって見に行った。
魔動機は定食専用の券売機だった。ちょうど定食が食べたかったから良かった。
向こうの券売機にはラーメンだったりカレーだったりと単品しかなかったからおかしいと思ってたんだ。
さらに良い事に、券売機の横には調理場にくっつく形でカウンター席が設けられていた。
人もいないし良い事尽くしだ。食券はカウンター席の前の調理場にいるおばちゃんに渡せばいいみたいだ。
おばちゃんは俺を見た時一瞬嬉しそうにしたが、すぐに諦めたような顔になり何かを刻む作業に戻った。
俺はおばちゃんの様子を気にせず、意気揚々と券売機で券を買おうとして愕然とした。カードが使えない。
向こうの券売機では現金だけでなくギルドカードもで支払いできるが、こっちは現金だけの様だ。
現金も持ち歩いている俺には関係のないけどな。ブレザーの内ポケットに入れていた財布を取り出して千円札を券売機に差し込んだ。
千円札が券売機に飲み込まれるとボタンに明かりが点いた。俺はサバ味噌煮定食のボタンを押した。
すると券売機の下部にある2つの窪みの左側から券が吐き出された。間髪入れずに右側からお釣りも出てきた。
俺はお釣りを財布に入れて券をおばちゃんに渡そうとした。が、おばちゃんは停止していて受け取ってくれない。
「あの~…」
「っ!ああ、ごめんね。ちょっと待っててくれるかい?」
おばちゃんはもの凄い速さでキャベツの千切りを終わらせて、やっと券を受け取ってくれた。
おばちゃんの目の前の席に座って料理が出来るまで待った。あまり待つ事なく料理が出来た。
おばちゃんから手渡されたお盆の上にはご飯、味噌汁、漬物とサバの味噌煮とありきたりなモノが載っていた。
お盆をテーブルの上に置いてボックスを開けた。クロのご飯もあげないとな。
ボックスの中からエサ皿と猫缶を取り出した。クロはテーブルの上に座って待ちわびていた。
エサ皿に猫缶を盛り付けてクロの前に置くと、お腹が空いていたのかすぐに食べ始めた。暫くクロを眺めていたが俺も食べ始めた。
サバの身をほぐしているとおばちゃんが話しかけてきた。
「食べている所悪いんだけど、おばちゃんの愚痴を聞いてくれるかい?あぁ、食べながらでいいから」
口の中にご飯とサバが入っているから頷くだけで応えた。人の話を聞くのは案外好きだったりする。
「おばちゃんね、定食を作る為だけにこの学園に雇われたんだけど、アンタが来るまで誰も定食を食べに来やしない」
おばちゃんは口を動かしながらも、手を動かし色々なものを切っている。そのほとんどが定食とは関係なさそうだ
「いや、これまでにもそこの券売機まで来たんだ。だけど、カードが使えないと分かるとすぐに向こうに行っちまうんだ」
大体のところはカードで事が済むから、現金を持ち歩くなんて考えがみんなには無い。俺の財布も古市で見つけたものだ。
「そんで、同僚には『暇なんでしょ。だったらコレでも切っといて』って仕事を押し付けられる始末」
さっきから忙しなく手を動かしてるのはそんな理由だったのか。本当に暇だから突っぱねることも出来ないのだろう。
「もう辞めようか、なんて思い始めた所に来てくれたんだ。ホント嬉しかったね。良ければまた来てちょうだい」
「とっても美味しかったので明日も来ますね」
それだけ言ってお盆をおばちゃんに渡して食堂を後にした。
廊下に出てきたのはいいが教室に戻る気はない。戻った所でリア充共に椅子を使われてるに違いない。
散歩するのもたまには悪くないか。「――ト―ん」今日、天気良いし中庭とか気持ち良さそうだな。
「マコトくん」
いきなり肩を叩かれた。今の声は四方だ。正直振り向きたくない。でも、ここで逃げたら後々面倒臭くなりそうだ。
嫌々振り向くとそこにはやっぱり四方がいた。あの女の子を連れて。
「マコトとは誰ですか?私は五十嵐麟児ですが」
取り敢えず恍けてみる事にした。これで押し切って見せる。
「いやいやいや。針山真だろ?俺だよ俺、四方雅樹だよ。ほら、1,2年一緒だった」
「やはり人違いですね。ほら、この通り」
そう言ってギルドカードを見せる。四方は信じられなかったのか、俺の手からギルドカードを奪い取った。
途端にギルドカードが黒くなり本物だと分かった様だ。衝撃を受けながらも四方はギルドカードを返してきた。
何とか乗り切れたな。徹底して偽名を使った甲斐があったってもんだ。
それよりも、四方は俺の事を覚えてたんだな。1年の初めにちょっと話したぐらいなのに。
あの頃は席順が出席番号で近かったから話してたけど、席が変わってから一度も話していなかった。
「悪かったな、知り合いに似てたもんだから。っと、改めて俺はマサキ・ヨモって言うんだ。で、こっちが」
「サユリ・ヨモ…」
女の子はサユリって言うのか、間違いなく偽名だろうけど。って言うか、サユリさんが滅茶苦茶俺の顔を見てくるんですけど~。
「それでは、これで失r――「あ、あの、私たち前に会った事ありませんか?」
それを聞かれるのが嫌で立ち去ろうとしたのに。ここで即座に会った事ないって答えると逆に勘繰られそうだ。
俺は腕を組み思い出そうとする振りをする。わざとらしく「う~ん」なんて唸ってもみる。
「いえ、初めてではないでしょうか」
「そ、そう…」
演技は完璧だったはずだ。なのになんだ、その目は。サユリさんの目は疑っている時の目だ。ついでに四方も似たような目をしている。
「では、私は用事がありますので。またお会いしましょう」
用事は無いが早く逃げたかった。くそっ、鬱だ。これで四方に俺がいる事を認識されてしまった。
四方の事だしこれから事ある毎に話しかけてくるに違いない。別に四方自体が問題ではない。
それに付随したサユリさんが問題だ。その後の授業は陰鬱な状態のまま受けた。
授業が終わり俺が今いるのは街だ。今のささくれ立った気持ちを癒すために来た。
そして、俺にとって癒しとはそれ即ち猫であるからして。猫を探している、なう。
数分歩いて何匹か見つけた所で次に人の邪魔にならないような場所を探す。
猫と戯れている時に水を差されたら嫌だし、何よりも邪魔してきたヤツを殴ってしまいそうだ。
人が近寄らず、尚且つスラム街でない場所を探して、細い道を歩いていると小さな空き地を見つけた。
空き地と言っても誰かの土地ではなく一般に公開されている様だ。青狸がいる世界の空き地によく似ている。
嬉しい事にこの空き地、猫のたまり場となっていた。白黒模様が綺麗な猫や茶色でモフモフとした猫など様々な猫がいる。
ここは楽園か。駆け寄りたい気持ちをグッと抑えてあるスキルを発動させる。
今まで使ってこなかったが満を持しての発動だ。
【またたび】
発動させた途端、寝ていた猫も隠れていた猫もみんな俺の方に走って来た。
可愛いのぉ、可愛いのぉ。わしの心が浄化されるようじゃ。
心ゆくまで猫たちと一緒に遊んだ。今日あった嫌な事なんてすっかり忘れて1日を締めくくる事が出来た。
やっぱり猫様は偉大だ。癒しの化身と言ってもいいかも知れない。




