1章:神との邂逅
かったるい始業式を終え、教室で友達と話をしながら先生が来るのを持っていた。
先生が来たら連絡事項を聞いて今日は帰っていいことになっているのだが、始業式だけのために何故来なければならないのかといったような愚痴を友達としていた。
一先ず、学校は頭がおかしいと言う事で話が一区切りついた所で先生が来た。
「それでは、明日から授業が始まるのでちゃんと来るように。それと、遅刻はしないように。これで連絡を終わります、それではみなさん寄り道せず帰るように」
捲し立てる様にそう言うと先生は行ってしまった。何か急ぎの用事でもあったのだろうか。
周りの皆は先生の様子を気にする素振りも見せず、これからどこに行こうかなどと友達同士で話し合っている。
俺も特に用事は無いけれども急いで帰りの支度を始めた。一人で帰るところを見られたら何となく恥ずかしいしな。
因みに、さっきまで話していた友達となぜ一緒に帰らないのかと言うと、アイツはいわゆる話友達で話はするけれど遊んだりはしないそう言う友達だ。
とか、誰に言い訳してるってんだ、俺は。帰り支度も済んだから、さっさと帰ろう。一人だけど。
「ねぇ、一緒に帰ろうよ」
「あいつ等はどうした」
「あいつ等?あぁ、皆は用事があるんだって」
「そっか、ならまぁいっか」
皆が騒がしい中でその会話だけが妙に鮮明に聞き取れた。
会話が聞こえた方に目を向けると、そこには案の定奴等がいた。
このクラス、いやこの学校の全男子の敵、神座直人とその幼馴染の四方雅樹がいた。
神座は『歩くフェロモン』と呼ばれるくらい女子とすれ違えばほとんど惚れさせることが出来るほどの超絶イケメンだ。
一方、四方も神座には劣るが、それでも超イケメンではあるので、神座のフェロモンに引っかからなかった女子は四方に惚れている。
以上をもって、学校の女子は神座か四方に惚れているので、男子は彼女が出来ない故に男子は神座と四方を敵対視している、証明終了。
などと、空しくなるだけの証明をしていると、奴等だけでなくほとんどのクラスメイトが帰っている。
俺もクラスメイトの波に乗り遅れまいと急ぐ。いつの間にかイケメンズもいなくなっているのにも気づかず。
見事クラスメイトのビッグウェイブに乗った俺は、波に流されるまま下駄箱へと向かう。
今思ったのだが、さっきのは転生フラグなのではないだろうか。
フラグなんてものは一般人の俺には扱いきれないが、あのイケメンズは容易に扱えそうだからな。
そんなことを考えても仕方無いし、関係も無い。
俺には使命があるからな。積みゲーを消化すると言う立派な使命がな。
早速携帯ゲームの積みゲーを消化するか。鞄に常に2,3個ゲームを入れている俺に死角はない。
今やっているのは転生物だ。転生か、奴等は今頃転生してるんだろうなぁ、俺も転生してみたいなぁ。
ふと空を見上げると、雲一つない快晴で、憎らしいほどに俺を明るく照らす太陽が一つ目に入った。
眩しさに目を瞑った丁度その瞬間背中を押されたような衝撃が襲った。
誰かに押されたのかと思い、振り返るも誰もいない。
ピンポンダッシュみたいなノリで背中ドンダッシュが巷で流行っているのだろうか。
そんなことはまぁないか。後ろに誰もいなければ、隠れられるような場所もない。
ゲームの続きでもするか。ゲーム機に目を戻すとそこには信じられない光景があった。
ゲーム機が真っ二つに割れている。画面はひび割れ、何も映さなくなっていた。
怒りがこみ上げると同時に、胸が痒熱くなったので触るとねっとりとしたものが手についた。
手を見てみると、手が真っ赤に----------。
目覚めて初めに見た景色が木の天井。明らかに自分の家の天井じゃない。
更に言うと、俺は何時もベッドで寝ているが、今は畳に布団が敷かれてそこで寝ている。
こうして寝転んでいると爺ちゃん家に泊まった時のことを思い出す。
畳特有の香りを十分堪能してから、起きよう。今はまだ起き上がりたくない。
あれからしばらくして、起き上がり辺りを見回す。
部屋は狭くて、8畳しかない。布団以外にあるのは小さな足付きテレビと加湿器だけ。
足付きテレビなんて遺物持ってるんだな。ここの住人は重度の骨董マニアに違いない。
部屋には2つ引戸がついている。取り敢えず近い方の戸を開けてみた。
引戸の先には廊下が左右に伸びていた。右を向くと隣の部屋に通ずる戸と奥の部屋に通ずる扉がある。
左には玄関があり、正面には階段がある。案外大きな家なんだな。
他を探索する必要もないので迷わず玄関へと向かう。
いや、一応お礼でも言っといた方がいいのか。と思ったが、玄関には俺の靴しかないしいいか。
それにしても、見ず知らずの人間を家に寝かせて出て行くなんて不用心にも程があるだろ。
警察に捕まるのも嫌だから何も取らないけどさ。
玄関の扉を開けた先には予想外の風景が広がっていた。
住宅街でなければ、畑でもなく灰色の世界だった。
灰色の世界に家が一軒のみ。後は幾つもの球体が浮かんで空を埋め尽くしている。
空に太陽はないが不思議と明るく暖かい。過ごしやすい環境だ。
そして、そんな球体と一軒の家しかない世界で寝転びながらゲームをしている男が一人。
なんで家があるのに外に出てるんだと言いたくなったが、敢えて飲み込み男に話しかける。
おそらくこの男は神様なんだろう。そうでなければこの状況の説明がつかない。
「こんにちは」と無難に話しかける。
「おぁ、あぁ起きたのか」と神様(仮)が起き上った。
神様(仮)は黒地に白字で『暇神』と書かれたTシャツを着ている。
恐らくこの神という文字は【かみ】じゃなくて【じん】って読むんだろうな。
下らないが、案外好きかも知れない。
「あっ、今下らないとか思っただろ。そんな顔してるぞ」
「神なら顔で判断せずに心を読めよ」読まれるのは嫌だけどさ。
「いや、普段使う機会無いからさ忘れてたんだよ。あと、俺は神とかそんなちゃちなもんじゃねぇ」
神じゃないのか。じゃあ何者なんだっつう話だよ。まぁ、そこんところも含めて色々と聞いていきますか。