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Vermillion;朱き強弓のエトランジェ  作者: 甘木智彬
【彷徨える朱き強弓のエトランジェ】
7/126

3.    


 ぼんやりと、夢を見ていた。


 幼い頃に、友達と外で遊んでいる夢。


 無邪気に、楽しそうに。


 鬼ごっこだろうか。走り回る自分の姿。


 さらりと砂のように。


 溶けて消えた。




 白い部屋。


 窓の外を眺めていた。


 翼を広げた鳥が、羽ばたいていく。


 青い空に描く軌跡を、ただ目で追った。


 清潔なベッドの上。ぴくりとも動かずに。


 動けずに。


 そっと瞳を閉じる。




 視界が青く染まる。


 たゆたう水色の世界。


 息は苦しくない。


 ()()()()()()()()()()()


 怖くはなかった。


 沈んでいく。自分の内側へと。


 深く、深く――




          †††




 ――しばらく、歩き続けたと思う。


 目の前に、鏡があった。


 何も映っていない、鏡。


 いや。


 目を凝らせば、見えてくる。


 浮かび上がってくる。



 黒い髪、黒い目。


 精緻な装飾を凝らした革鎧。


 羽根飾りのついた兜。


 腰にはひと振りのサーベルに、矢筒。


 そして左手には、朱塗りの、強弓。



「……俺だ」



 ぽつりと呟いた言葉は、確かに響いた。


 それと認識した瞬間、はっきりと形を成す。



 ケイ。



 かつて、自分が名付けた。


 そして、今までを共に生きてきた。



「……俺の、身体(からだ)



 ぐっと、拳に力を込めた。


 絶えず収縮する筋肉の躍動を。


 全身を駆け巡る血潮の流れを。


 末端まで広がる神経の瞬きを。


 強く、感じ取る。




 いつの間にか、目の前の鏡は消え去っていた。


 代わりに、真っ直ぐと道が伸びている。


 心なしか、自分の周囲がにぎやかに感じた。


 元気に駆け回る馬の姿や。


 羽衣をまとった少女の姿。


 まるで走馬灯のように。


 それらの影を、幻視した。




 行こう、と。


 誰に言うとでもなく、呟いて。


 その一歩を、踏み出した。


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