幕間. Lily
「…………」
段々と小さくなる隊商の影を、幼い少女は、物悲しげにじっと見つめていた。
「……リリー」
傍に寄り添う父親が、そっとその手を握る。
「さあ、そろそろおうちに帰ろう」
「……うん」
「今日のお昼はビーフシチューにしましょう。ね?」
反対側の手を母親に引かれ、少女はゆっくりと歩き出す。
時折振り返って背後を見やるも、雑踏の中で、遥か彼方の隊商が見えるはずもなく。
やはり浮かない顔で、少女は小さく溜息をつくのであった。
「…………」
両親は、そんな少女に、心配げな様子で顔を見合わせる。
「……リリー。何か欲しいものがあったら、遠慮なく言うんだよ。パパが何でも買ってあげるからね」
大通りの商店街に差し掛かったあたりで、何とか娘を慰めようと、父親が努めて明るく話しかけた。
欲しいもの、と言われて、少女はふと思い出す。
事件に巻き込まれる直前のこと。身なりはいいが目つきの悪い、少し年上の男の子から貰った、琥珀色の甘いモノ――
「……ねえ、パパ」
少女は、父親の服の袖をくいくいと引っ張った。
「ん? なんだい?」
「あのね、わたし――」
狂おしいまでに、あの味を思い出す。
「――わたし、蜂蜜飴たべたい」