何はともあれ僕と啓太はなんとかギルドに入りました…………なんだこの魔力は。普通じゃないぞっ!って僕邪神でしたな。
怖い。今僕はとてつもなく怖い。目の前で満点の笑顔を「彼の」友に向ける「彼」が怖い。
「彼」はきっと人を殺すことに何の躊躇もいらない、罪悪感もないのだろう。
「彼」はきっとそれを当たり前に生きているのだろう。
確か、「その少年」の友らしき少年が「彼」に向けて言っていた「彼」の名は…………「ユウキ」。「彼」の名は、「ユウキ」…………。
啓太に向けて爆発系の呪文を放った男を楽しそうにいたぶる姿を見たギルドのもう一人の受付員はブルリと体を震わせた。
後に彼を深く知る、彼にとって「この世界で」唯一の理解者となるのをまだまだ知る由もなかった…………。
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「つまんないの」
ユウキさんは心底つまらなそうに腕を組みました。それを宥める少年は確か…………ケイタさんとか言った名前だった気がします。
随分二人共東方の国の人物らしい名前だけど、こういう名前はかなり珍しいのです。まあ東方の国の人々は「サコク」という、他国を寄せ付かない政策をしていて滅多に住人たちの姿を見ないのが現状ではありますが。
この年令ではかなりの人間を見ている僕でさえ東方の人間は見たことがありません。見たことがあるのは東方の国に幼いときに漂流し、東方の名を預かった人だけです。だがそれだけでも僕は随分と運がいいんでしょうね。まあその人はここの国の人種ではありますが、心と考え方は完全に東国の方のような気がします。それが何かはいまいち理解出来ませんが、どこかが違っているのを思い出しました。
それでもここに、他国に出てこれるわけですから、やはり別の国のものを東国は好まないのでしょうか………その割には東国のことを本当に楽しそうに語っていたのですが(あくまで僕の想像であり、国名も国が複数あるのかもわかりはしませんでした)。
「結城、つまらないかもしれないが、ギルドに登録できなかったら生活費を稼ぐのが大変だぞ? だいたいギルドに登録せずにバイトとかするのは大変だろ? つか報酬も低いだろうし」
「まあ、そうなんだけどね…………」
ケイタさんの言葉にユウキさんは一応肯定を示しましたが、それでも嫌そうな口調のままです。そんなにも友達、ケイタさんが大事なのでしょうね。でも、それでも殺人に全く戸惑わない事には不信感があります。その少年は僕と「あまり年が離れて見えないのに」、ですよ?
東方の人々はそんなに強いのでしょうか…………。いくら格下の相手を殺すのにも覚悟は相当いるでしょうし、殺人は一筋縄には行かないことでしょう。まあ、もちろん僕はそんな怖いことしたことがないのですけれど。まあ「出来ると皆に言われたましたけれど」。
どんどん論点はずれてきましたが、二人の会話にはっ、と現実に引き戻されました。
「じゃ、ここで登録しような? 」
「…………うん。今から別の国に行くのは止めておいたほうがよさそうだしね、なんか仲が悪いみたいだし…………僕らには一応、関係ないけど」
二人は前にいた受付嬢のレイナを無視して(呆けていてそのことにも気が付かないレイナは受付嬢としてはいけないと思います。さっきまでケイタさんに色目を使っていたのにですよ? )もう一人の受付であるである僕の方に来ました。
さっきは冷静に二人の会話について考えれていました、やはり二人が少し離れていたからできたことであって、人間…………というより動物の本能で明らかに自分より格上の強い相手が目の前にいると分かると体が震えますよ。おかしいです、僕だって「数々の修羅場や人が殺されるのを見てきたのに」、「人殺しが簡単に出来る仲間を見ても」体が震えることがなかったのに…………、彼らを見ると体が震えて仕方がないのです。
その時はギルドにいた人の中には気絶した人もいて、僕があんなに近くで彼らといて、話もしたのに気絶しなかったのに賞賛をおくっていたといいますが…………正直助けてください、変わってください。とても怖いです…………。
「すみません、待っていた友達が来たのでギルド登録してもいいですか? 」
「あっ! は、はい! 」
ケイタさんのほうが僕に話しかけてきました。ユウキさんの方は何やら魔法で服を直しているらしく彼とケイタさんの服が魔法で輝いているんです……………が。その魔法の詠唱は聞こえないのです。ましてや呪文の名前すら言わないので…………なんでだろう、魔力の流れはたしかにユウキさんからなのに、年齢からして、詠唱破棄はせいぜい初級呪文までしかできないものなのに、です…………。…………いいえ、訓練すれば出来るかもしれないのですが………。
それに返事の声が裏返ってしまったのはしかたがないと思います。むしろ周りの人の視線はそれが当然だと僕に言っているようだったのですし。まあ、詠唱破棄で魔法を使うなんて「僕は生まれた時からできたのですけれど」。まあそれでも体の震えは止まらないのは事実ですし、相当、いや果てしなく僕より強いのはひしひしと感じているのですけれども…………。
それにしても「別の国に行くのは止めておいたほうがよさそうだしね」、ですか? 普通あんな非道人な帝国に行きたがらないでしょう? それにあそこの国に別の国の人が入ったら即、血祭りなのですよ? まあ、未発見の国があるなら別なんですけどね…………一応見つかっていないのですよ、帝国とここ以外は…………。古代遺跡とかは結構ありますけど…………。それは過去の話でありまして、最低でも千年は昔なのに。
「こちらの用紙に氏名、年齢、出身国と現在の住所、もしくはしばらく滞在する宿の住所、ギルド登録の目的、属性、魔力量をお書きください。
魔力量は変化しやすいので目安ですが。このあとに魔力量は測りますので」
さて。変なこと考えずに仕事、仕事ですよ。仕事に完全に集中したらちょっとは恐怖は和らいだ気がしましたし。それに、このセリフは何百回も言ってるから慣れたものです…………。さすがに間違えも噛みもしませんよ、本当に、良かったです。
「ん」
ケイタさんが紙をユウキさんに渡します。何だか少しだけ、意外です。むしろユウキさんがケイタさんに渡すかと思っていましたよ。そうですか、やっぱり「人間」は見た目じゃないですよね…………。かくゆう、僕も人間には違いないのですけれど……。いや、別に「獣人」とか「エルフ」とかの「亜人」ではありませんよ? 父さんにしろ母さんにしろ、真人間で、今もご健在ですし、出身も今も、普通の平民ですしね…………。
そんな二人の間にちょっぴり「普通より遥かに強い」子供ができることだってあるのです、「人間レベルじゃない強さ」だってありえるのです。ありえました、ここに…………。
なんでしょうか? 「ちょっぴり普通より遥かに強い」はおかしいのですか? いいのです、僕を表すにはそれが一番ぴったりなのですから。
「できましたよ、受付さん」
「はい、有難うございます…………。
ではこちらにどうぞ」
渡された紙はろくに見ずに専用の魔法具に突っ込みます。それでも名前は見ましたけど。一応名前は呼ぶ必要がありますし。
あぁ、その魔法具っていうのは「嘘をついていないか」、「個人情報の管理」、「ギルドカードの作成」、「ギルド報酬の記録」、「ギルド員の人事(ギルドランクという強さの基準の管理ですよ)」とかをしています。人間に任せるよりもずっと正確ですし、絶対に嘘をつきませんからね。しかも楽です、とても。
この魔法具はギルドが設立された当時から有ります。今の技術ではもっといいのも作れるのですけれど、別に不便はありませんし、そんなお金は全くありませんし、何よりこの魔法具には歴史があるからそのままなのです。過去に一度、「勇者」の魔力によって壊れかけたそうですけれど。まぁ、本当かはわからないのですよ。
そういえば、二人の名前に、姓は書いていませんでした…………。見たこともない言葉で「結城」、「啓太」と書いてあって、上に機械で書いたような綺麗な字で、二人共全く同じ筆跡の字で「ゆうき」、「けいた」と書いてありました。「結城」、「啓太」は東方の国の字でしょうか? それにしては不思議な感じもしましたし、あの字に似た字を見たことありません。でも、東方の国は「サコク」してるし別段おかしいこともないのですが。
「こちらの部屋で魔力測定をします。また、属性もわかりますがわかっていてもごくごく稀に新たな属性を発現する方や、微弱で測定出来なかった属性がわかる場合もありますので…………」
扉を開けて入るよう二人を促します。ああ、そういえば。この「部屋」は入った者の属性や魔力を測るのです。じゃあ、僕もまた測ることになるのです…………。僕がいくら「ちょっぴり普通より遥かに強い」人間でも魔力量や属性を見せられないほどではないのですし、いいのですが。
扉をしっかり閉めまして。一応ですがこれ、正式なれっきとした儀式です…………真面目にしましょう。
「始めます…………。
『闇の世界を破壊し女神の名において我らの力を示したまえ』『光の女神の祝福を』」
少し仰々しい感じのする呪文を唱えて手にさっき握った魔力属性測定用の「魔石」という、名の通り魔力の篭った石を強く握ります。「破壊」や「光」は対なのでよく呪文に出てきますよね。
そして、石から強い光が出て……………。
部屋の中心部にある、小さな泉の聖水がざわめきだします。それを見てユウキさんとケイタさんが驚く。 別段大きいわけでもない部屋の真ん中に泉があったら驚いますよね…………泉だし、湧き出てるわけで。なぜか「虚空」からですよ。原理は知りませんが…………。この聖水、確か「勇者」に反応します。城にある勇者の儀式に使う聖水と同じものなのです…………?
普通は泉が色付いて、数字が浮かび出るだけではなかったのではないでしょうか? なぜ渦巻いているのでしょうか? それに、もし、勇者なら禍々しい感じないんてしないはずなのに…………。
そのとき、声が響きました…………。
重々しく、どこか神々しい声が。それでいて今すぐ殺されるような恐怖と、とても禍々しい声が…………。
勇者結城よ…………。そして勇者の友よ……………。
我は神。この世界を見守る神なり…………。
勇者よ、この地に降り立つ勇者よ…………。
どうかこの戦乱の世に…………永遠の安息を…………。
我は皆を見守るが………この世に干渉することはできん…………。
我の代わりとして…………どうか勇者よ、この世に安息を…………。
声が終わると泉の渦巻きが消え、カッと泉が輝きました。そこにはすべての属性の色が浮かんでいましたと、そうです、すべてが。でも僕はそれよりも魔力の数値に驚いていました。
「無限…………」
泉に浮かぶ文字には確かに無限と書いてあります。その上には「ゆうき」と。間違いありません、この少年は、ギルドのフロントで人を殺そうとした少年は「勇者」で、全属性、そして魔力無限の絶対強者で…………。
僕はそれがただただ怖かったのです。
世界を救うはずの勇者様は、人殺しに恐怖を抱かないことに。