どう体が慣れようと強くなろうと怪我は痛いのには違いない。
とりあえず爆発から顔だけ守って後ろに跳躍する。
後ろにあった机と椅子が吹き飛んでガタンと音を立てる。あまりにも力をかけて跳びすぎたのか床がぶち抜けて、机も椅子もたいした音も立てずに崩壊した。粉々のバラバラだ。
あ、やべ。力入れすぎた。
服もボロボロ、髪はボサボサになってしまった。一瞬と言えども音速は余裕で超えたからだろうな。
あぁあ、せっかく「創造」した服が……。まあ、また作れるからいいんだけど…………。でも凹むものは凹む…………。
そんなふうなことをぼんやり考えながら僕は爆発を起こした張本人の首をキュッと締めあげた。ちなみに爆発の中心部にいた啓太は僕同様、服はボロボロ、髪はボサボサだけど怪我はないみたいだ。良かった。結界を瞬時に張った甲斐があるね。だだ、ボロボロだ。犯人を、絶対に許さない。
「何やってんの? ねえ、屋内で爆発系の呪文唱えていいと思ってんの? 別に啓太がイケメン鈍感リア充でいくら爆発してもらいたいと思っても実際に爆発させようと爆発系の呪文唱えてもいいと思ってたの? ねえ? 馬鹿なの? 」
まくし立てながら首をさらに締め付ける。勿論死なない程度に。まだ聞いていないことがあるし、今の啓太の目の前で人を殺してはいけない。大衆の前で、「勇者」として人を殺せば、後々不便だ。黒髪も目立つ。記憶を消すのは鬱陶しい。
…………悪人に容赦しないのは「勇者補正」なのか、人を殺そうとするのに戸惑いや後ろめたい気持ちがないのは、単に「邪神」になったからなのか、人が目の前で苦しそうに喘いでいても助けたくならないのはこいつが親友の啓太に怪我をさせようとしたから、本来の僕の気質なのか。
それはわからないけど、とにかく今の僕は殺意で満ちている。もし聞かないといけないことがなかったらすでに殺してしまってるだろう。面倒くさいことが後になかったら戸惑いも、後悔も、罪悪感もなしで。
「うぐっ……は、放せ! 」
まだじたばたする元気があるようだ。だから僕は片手でそいつが持ち上げ、そいつの首をまたきつくきつく締める。ぐえっと声が漏れて白目をむきだした。ああ、気絶しないでよね?
「結城! 俺は平気だから、怪我もないから離してやれよ! 聞くのは後でもいいんだ! 」
…………啓太。君は…………あぁ、人間だね。でも、僕は何も感じないんだ。
君は、まだ人を殺すことに、見殺しにすることに罪悪感があるんだね。
だって君は僕と違って、「邪神」でも、「悪人を見逃さない勇者」でもないんだから。
「ごめんね、啓太。僕は啓太を傷つけようとしたこいつを生かしてあげれるほど心が広くないんだ。それに今僕に説得しても人殺しに罪悪感はないよ。それに、僕は悪人を見逃せる立場じゃないからね」
「…………結城」
啓太は、納得してはくれないみたいだ。しかたがないよね。僕だって前なら、人を殺して罪悪感が無いなんて、人を殺そうとして罪悪感がないなんて信じられなかっただろうし。
あぁ、でも啓太は僕のことを見放さないでくれたみたいだ。納得はできなくても。啓太は僕が人間じゃないって知っているし、悪を見逃すことができない勇者って事も知ってる上で僕の親友になってくれているから。…………ありがとう、僕を孤独にしないでくれたね。
「さてと。どうしてこんなことをしたんだい? 今ならギルドの牢に入るだけで僕、殺しはしないよ。でも粘ったり、嘘をついたり、話さなかったりしたら…………僕の、お前の首に食い込んでいる首がちょっと間違っちゃって体と泣き別れする握り方するかもしれないけど。
あ、ごめんね。
締め付けたままじゃ、酸欠で話せないよね」
散々脅しておいてから僕はそいつの首から手を放した。代わりにそいつの頭を強く握る。そう、いつでも握りつぶせるように。痛いだろうけど話せないわけではないレベルに力を抑えて。じゃないと痛がってばかりで話してくれないし、もし死んじゃったら結局わかんないまま。別にそれでも支障はないけどなんかもやんってする…………と思うな。疑問は解決しなきゃね。
あ、そういえばとっても周りが静かだなあ。さっきから僕に話しかけてくれたのは啓太だけだよ。犯人? そんなの頭数に入れるわけ無いだろ? 入れたくもない…………今すぐこの頭を握りつぶしたいのに。
ありゃ? みんなすごく顔を青くして震えているや。まあ、僕もわからないことはないけどね。人知を超えている力に近いから。まだこの程度なら筋肉質の大男なら一応可能だからね。ま、それでも僕ぐらいの年齢の…………そう、中学生の少年が自分より頭ひとつ分は身長が高くて、体重なら約二倍はありそうな男を片手でヒョイって持ち上げてたら、それも全然つかれることも掛け声もなしにただ無造作にやってたら…………人知を超えてるかもしれない。
まあ、俗に言う「身体強化」って魔法をかなりのレベルで習得すれば、そうだね世界で指折りの魔法の持ち主なら僕ぐらいの見た目の少年でも可能だけどさ。それでもかなりのレベルが必要だし、確か邪神な知識だと「身体強化」は高等部でやるはずだし。しかも難易度…………いや、センスかな? かなり習得しにくい………らしい。僕は知識でしか知らないから言い切れないや。
そんなんだから顔を青くしてまで怖がるよね。
「は、話してやる……」
「早くしてね? じゃないとお前の頭はパーンってなる上にお前の脳みそとか血とかが床に飛び散る羽目になるからねぇ…………すぐにやらなかった僕、やっさしぃ! 」
なるべく優しそうな声で、とびっきり残酷な事を言っておくよ。さっきより少しは逃げやすい体制だからね、とっても念入りに脅しておかなきゃ、ね。だってこいつの足はさっきと違って地面…………まあ床だけど…………についているんだもの。可能性は万に一つ、億に一つだけどゼロじゃあ無いからね、僕は気をつけなきゃ。それにこいつは特に逃したくないし。
あ、そうだ!魔法も封じておこう。「転移」だっけな。瞬間移動とかされて逃げられたら困るし……………、よし!勿論伝えずに封じておく。魔法封じの無詠唱だって僕には簡単だもの、このスペックだとね。念じるだけ……………というより、そうあればいいと思えば発動する。
「こ、こいつを狙ったのは、俺が非リア充で、こいつがイケメンだったのは…………ある。だ、だがそれだけじゃねえんだ…………」
「うん。啓太がイケメンで鈍感で社会的に爆発させたいのは僕にもよく、よぉく分かるよ。うん。続けて? 」
想像していた答えかな。啓太が単に気に入らなかったのと、もうひとつ理由があるってこと。
「た、頼まれてたんだ。ボ、ボスにさ…………俺達のボス、スーガ・レルノコス様に…………『勇者召喚された勇者を亡き者にしろ。そののちにそのことを隠蔽し、勇者に成り代わって世界を支配するのだ。』と言われて……………」
「なるほど、厨二病と勘違いか…………」
まさか暗殺のプロが勇者を狙うとかね…………にしても暗殺者が良く屋内で爆発呪文を唱える気になったよね。隠蔽とかめっちゃ難しいじゃないか、それにここは世界で最も有名と言って、他言ではない表ギルドなんだしさ。
あ、表もあるし、裏ギルドとかは普通にあるよ。どっちも国営で、裏ギルドに入るにはかなりの実力と信頼がいる。それから裏ギルドは国からの依頼しか無いんだ。表のギルドは普通に民間人のお使いとかはあるけど、裏ギルドは民間人の依頼に国の承認が必要になるからね。まあその依頼に殺人もオッケー!なのが裏ギルド。表のギルドじゃあ精々生け捕りが限界かな。まあ依頼中に生け捕りの対象が自殺したり、仲間か何かに殺されたり、誤って殺しちゃうってこともあるけどね。
ま、殺しちゃった場合は生け捕り対象が悪人で、死刑になる人間ならお咎め無し。そいつが重罪人なら軽い注意、普通に犯罪者なら報酬半減、普通に行方不明者、もしくは捕らえられていた人間なら報酬0と賠償金……………だったけな。
とか長々考えててもしょうがないからこの男に集中しようか…………。
「まあいいや。あんたは私情と仕事で啓太を狙ったってことかぁ。しかも犯罪。オッケー、僕的には死刑だわ」
さっとそいつの顔が青くなった。うん、そんなに慌てなくてもいいよ。だって僕も巻き込まれたけど爆心地にいて、狙われていたのは僕じゃなくて啓太だもの。死刑判決を下すのは僕じゃないよ。まあ、啓太が何を言っても執行するのは僕ってことで変わりないし、啓太が無罪って言っても僕は僕で判決を下す権利があると思うんだ。
「結城…………。そいつはとりあえずギルドに引き渡そう? それから結城、目が変だぞ? 」
「うん………。しょうがないか。はい、受付さん。犯罪者さんあげるね。
…………ん? 今なんてったの、啓太? 」
「目がおかしいぞ? 」
目がおかしい? 別に変なことはないけど。普通に視力に問題はないし、視野だっていつもどおり……………あ、違った。邪神になったせいか知らないけど視力が上がって視野も大きくなった気がする。まあ心持ちなんがけどね。視野の方は。それから、なんか赤い。
「目付きの話? 」
「いや。目の色が、その。…………赤に見えるんだが気のせいか? 」
目が赤? いやいや、厨二病にも程があるでしょ。目が赤いって…………まてよ。今僕は最高に邪神らしい感じだ。それに実行に移そうとしているしね。だから何かしら体に影響が出たのかなあ? 知識にはあんまりそういうことはな……あったわ。
邪神が邪神として残忍な正確に目覚めたとき、力が開放され目が赤くなる。って。
うわ何この厨二病。僕がめちゃくちゃ痛い子じゃないか。…………まあ魔法を使ってたり、異世界に逝っちゃったり邪神になってたりしてたらすでに取り戻せない厨二病かもしれないけどさ!でもさ!なんか嫌じゃないか!
「…………気のせいじゃないよ」
さっきとは違ってずんと暗くなってしまった僕の声は啓太に届いただろうか?いや、届いていたとしてもかなり力ない、ぐったりと疲れている声に違いなかった。