腕の大惨事。やばいよやばいよ!でも治っちゃったよ!
スッとそこに音もなく現れた二人の人間。二人共揃いの黒いフード付きコートを着ていて顔は見えない。
身長のやや低い方の人間が真っ白い手袋をはめた手をふるりと動かした。空気をなでるように動かした手から、複雑な蒼い魔法陣が一瞬生み出され、溶けるように消えた。
突如現れるのは氷の宝剣。それを握り締めた人間はもう一人の人間に促すように剣を軽く振るう。
もう一人の人間も茶色い皮の手袋で覆われた手を翳し、似ているようで違う紅い魔法陣を展開させた。
次の瞬間に現れた宝剣はさっきのものとは対照的な炎の剣。それを軽く振るった人間は氷の剣の人間に声をかけた。
「…………さぁ、……い、こ? 」
少しかすれた声、フードから僅かに零れた赤と金色のイメージとは異なるオドオドとした声。
普通そんな「少年」なら明るくて人懐っこい、少し熱血なイメージを持つだろう。だが「彼」の声は無機質で冷たい、作り物のような声だった。
「うん! 早く行って帰ろうね! 晩御飯だって早く食べたいし……この依頼をちゃんとやったら誉めて貰えるかな? 」
さっきの少年とは対照的に明るくて優しい、まるで楽しくてたまらないような声。
同じくフードから零れる髪は…………銀髪。その色こそもう一人の少年に似合う色だろう。
そして、その明るい少年の声も無機質で、傍目には人懐っこい良い子だろうに人をゾッとさせる冷たいものがあった。……人ならざるものかのように……
「う……ん、行こ、う? 晩御飯…、たの…しみ」
切れ切れとした声がそう言った途端、強風が巻き起こり二人の姿は消えた。
・・・・
・・・
・・
・
森の奥深く。
人の住まない所、否、住めない所……秘境とも言うが……に強風が巻き起こる。さながら小さい竜巻だった。
「ルー、アン。こ……こ? 」
「そうだよ、アドル。ここだね」
随分二人はのんびりと話しているがここは最も危険な地帯だ。ギルドランクx、出現する魔物は最低でも帝レベルがなかければ死に至る。帝レベルでも逃げきれる程度。単身で挑めば死ぬのも普通だ。そんなのところでのんきに話をしている。魔物には既に見つかり、呪文の集中攻撃を受けながら、だ。
ルーアンという少年の前に来ると呪文は霞んですべて消滅してしまい、アドルという少年の前には見えない壁があるかのように呪文は跳ね返される。要するに最高ランクの攻撃呪文が消えていないのだ。世間話をする余裕の中で。
「さて、と」
ルーアンは剣を振りかぶると無造作にドラゴンの翼に突き刺した。氷剣は魔力を帯びて青く光り、翼が、ドラゴンが凍っていく。
ドラゴンは痛みに暴れるがルーアンが片手で軽く押さえるだけでドラゴンは動くことが全く出来ないのだ。最高ランクのドラゴンにこの実力差、彼は人外、化物と称されるにふさわしいだろう。
「アドル、頼んだよ! 」
「う……ん」
ルーアンの少々能天気な、だが冷たい声に反応し、素早く炎を宿した剣でドラゴンの硬い頭に切りかかる……と、バターを切るかのように易々と切り、ドラゴンは一瞬痙攣するとガクリ、と崩れ落ちた。
そして血飛沫はない。ルーアンの氷剣は血をも凍らせていたからだ。炎で溶けなかったのは単純にルーアンの魔法の実力がアドルを優に上回っていたからだろうか。
「やりい! すごいよアドル! 」
「……今、の……殆、ど、ルー………………アンのお、かげ」
「あはは、ありがとね! 」
ルーアンは陽気に笑って照れてみせた。パチパチと軽くアドルが手を叩く。と、次の瞬間ルーアンは氷剣をアドルに向ける。否、アドルの真後ろにいる人間に、か。
「えっとお? 何かな~~、なんて聞けばいいのかな? 受付の少年でトップレベルのギルド員くん? 」
「チッ! 」
「あらら~」
受付の少年、エリアスは舌打ちとともにルーアン、否、結城の前から飛び退いた。飛び退くと同時に即効性の猛毒を塗りたくった短剣で結城の腕を深く斬りつけてから。
パッと深紅の鮮血が舞う。それはこの世界では結城が「魔族」と呼ばれる人間に似た見た目をした、だが中身は人間よりも余程強く、そして高慢で高潔な者たちでは無いという証拠。血の色は魔力が反映される。どんな魔法使いも血の色だけは変えることが出来ない。………………それは神の領域にいる結城が当てはまらないのはさておきだが。(だからといって結城の血の色は赤で間違いないが)
「痛っ! 」
「結城?! 」
結城は魔法でいくらでも自分を硬く、攻撃の効かない体にすることが可能だ。だがユウキは実践以外ではする気はない。いくら人間から能力が、感性が変わってしまっていても結城の元は人間。人から生まれたものというのは結城の友が啓太であるということぐらい間違いない。だから少しでも人間離れしないように体は普通になっている。日本にいたあの頃と同じ、転生チートなんてかかっていない、元の体と。
だからこの世界で最強の体は傷ついた。血は流れた。
「だ、大丈夫か?! 」
「う~ん? まあ死にやしないけれども。ていうか『啓太くん』、僕の名前言ってる上に『この程度の怪我』で僕を心配しなくたって。あ、僕がもとに戻してるのは計算だからね? 」
「あ! 忘れてた! 」
「相変わらず頭が弱いですこと! あはははは! 」
「くそ…………………。」
脳天気な会話の間も結城の腕からは血が流れ続けている。が、結城の顔色にも声にも変化はない。
「くそ! 毒が聞かない人間だなんて……………」
「ああそうだ、エリアスくん。僕はその程度の傷、かすり傷と同じだから。あ、別に僕は毒が効かないスーパー人間じゃないけど」
「は?! 」
未だにだくだくと流れ続ける血。傷口は「毒に犯されて」毒々しい紫色に染まっている。切りつけられた右腕は少し結城が持ち上げるがすぐにだらんとしてしまった。神経もイカレたようだ。
「えっと、こうかな? 」
傷のない左手が傷に翳される。突如現れた強大な魔法陣が結城の傷を中心にして空中に展開された。緑色の魔法陣がぐるぐる回って輝く。それは神の降臨のように綺麗な光だった。
………………神は神でも邪神だがそれは置いといて、だ。




