ギルドマスターは幼女だって誰が決めたんだよおおおお!
魔力無限も属性全部も予想してたよ、正直。つかね、神様の魔力が無限じゃないならだれが無限なんだって話になるよね。ん? 転生者かトリップ者? 確かに啓太以外にも異世界に飛んじゃう人はいるけどね、稀にも稀、10億年に一度の割合だね。邪神知識でこれだし、初代邪神も名乗ったとおり元は日本人だからね。しかも結構最近。僕の知識に誤りはないはずだけどレイタは3年しか邪神やってないよ。まああんな今風の喋り方をする日本人だから薄々気づいてはいたけどね……………。まあ心は人間に近いんだ、もっと孤独が長かったらトチ狂った性格してたはずだよ。狂いはしないけどね、邪神は神なんだから…………。消滅しかけだったらもっと悲惨だったけど。
まあ彼も「僕」という下を知る者を通す、みたいなつながりができたんだ、今もきっと僕の目を共有しているはずさ。暇だろうしね。思考は一応読めないみたいだけど…………プライバシーは最低守られてるけどね…………。着替えも気をつけよ…………。
まあ、邪神だし、人間じゃない上に僕は男だからいいか。
「つ、次はケイタさんの魔力・属性です、よ…………? 」
あぁあ、受付の人が完全にビビってるねえ。仕事なのにごめんね。
こんなふうにめちゃくちゃ怯えちゃってる彼だけど年齢は多分同じぐらいかなあ? 僕達が普通にこの世界で生まれて、普通に彼と知り合っていたら、こんなふうに怯えられなかったかもしれない、ね。ちょっと切なくなった気もする。
まあ別に感傷的になってたりするわけじゃないよ。僕は残念ながらもう人間じゃない考え方を持っている。僕が、「もしも」を考えたってもう遅いんだ。それに僕は啓太を輪廻の輪に返してあげなきゃいけないし………………。問題は山済みだ、こんなことを考えている場合じゃないね。
また泉は渦巻き、今度は赤と白に泉が染まって文字が浮かび上がった。
「属性は炎と光ですね。光は属性の中では結構珍しいんですよね。強力で、炎とは相性いいですね」
なんというか、啓太らしい属性だと思うな。
炎、っていうのは普段の猫かぶったクール(笑)の啓太を見てたら驚くだろうけど、普段の啓太はそんな感じ。決して熱血なわけじゃないけど啓太は熱い人間だよね。
ま、リア充なんだけどもッ!!!!!!!!!
「魔力の量は3億、ですか。軽く既存の記録を超えちゃってますね…………まあ、ユウキさんのを考えなかったら、ですが」
リア充な啓太も主人公ポジションじゃなくても結構強いのはやはりテンプレだね。何かと巻き込まれる主人公はすでに人間じゃないから人間の記録更新だね! 友人として嬉しいよ! でもリア充なのは何とかしてほしいな!
事あるごとにいちいち殺意が湧いちゃうのは啓太がリア充で僕が非リア充なんだからだよね! だいたい僕がフツメンで、啓太がリア充だから主人公スキルの最強、「鈍感スキル」はなかったんだけども! 無くていいけどさ! リア充は許せないよね!
「じゃ、じゃあ記録は完了しましたから、ギルドマスターの部屋に行きましょう? 」
「ん? 新人にいちいちギルドマスターが関与するの? 」
やっぱり・・・・・・テンプレ?
あの、幼女かなんだかはしらないけど、戦闘狂と戦ってミカっちゃんこと帝っていうギルドの超強い人の仲間入り! みたいな?
こういうテンプレは来るのに、こういう要らんイベントは来るのに、どうして、どうしてだろう? 僕にまったく女の子に縁がないのは。
「? 結城、どうかしたか? 」
「リア充滅びろクソ野郎………………じゃなかった、啓太、なんでもないよ。ちょっぴり、ほんのちょっぴり啓太のようなイケメンリア充の事を考えてたらイラッときてこの部屋ぶっ壊そうとしただけだからね。ほんとにリア充滅びればいいのにね! 」
「寒気がしたのは気のせいだろうな? 」
あれ、おっかしいなぁ。そんなわけないよ、啓太くん!
「うん、キノセイダヨキニシナイデ」
「………………あぁ」
危ない危ない。うっかりカタコトになっちゃったよ。啓太が軽く怯えてるし、受付の人がブルブル震えてるし………………あ、君も非リア充? 身近に啓太以外のリア充がいたら撲滅に協力するよ?
………………なんてね。
いつかリア充撲滅委員会を設立しようか…………………そうしよう。
啓太の身に本格的な危機が迫った瞬間だった。
・・・・
・・・
・・
・
カリカリと何かに書き付ける音が部屋に響く。
ここはギルドマスター室。ギルド「勇者の剣」の中枢部だ。
カリカリと何やら書類に書き込んでいるのは勿論のことギルドマスター。皆のあこがれの的である帝たちとほぼ同等の力を持つ猛者がマスターであったり、ずば抜けた頭脳を持つ者がマスターであったりはするがとにかく実力者がマスターとなる、そんな「すごい人」である。
しかし、まあギルドマスターというのは忙しい。どんなに優秀な者でも休日など取れるものではない、そんな仕事だった。
コンコン……………
控えめがちなノックが響き、部屋に響いていたペンの音がピタリと止まる。
「誰だ? 」
「受付のエリアスです。新しくギルドに登録するはずの二名についてなのですが、僕には手に終えそうもないです」
「………………わかった、入れ」
手に終えそうにない二人。ギルドマスターは思わず頭に手を当ててうなだれる。また頭痛の種が増えそうだからだ。
(エリアスという受付はまだ若いが優秀だ。彼が手に負えないなら相当なのだろう。)
と彼は思ったようだ。
そしてガチャリと扉が開き、入ってきたのはエリアスとエリアスと同じぐらいのと歳の少年が二人。別に暴れるとか、ガラが悪いとか言うわけでは無さそうだ。
「こちらの二人なのですが………………片方のユウキさんは属性全部に魔力無限、もう片方のケイタさんの属性は炎と光、魔力は3億なんです。いくらなんでも最低ランクのFスタートでは吊り合わない気がして」
彼の胃が悲鳴を上げて穴を開け始めた。
ヒクリ、と顔を引き攣らせた彼のストレスはついに限界に達したようだ。
青白い顔で胃のあたりを押さえながらもエリアスにそのことをきちんと聞き返し、どんなに胃が痛くても放り出すことなく仕事を全うする姿は称賛に値するだろう。
因みに彼の見た目は一瞬結城が妄想してしまった幼女などではなく、普通にそこらにいそうな好青年といった感じであり、どちらかと言うとインテリな雰囲気だった。(テンプレが壊れていることから結城は少しも残念ではないが。幼女を喜ぶ感性が人とは違う)
「ギルドマスター、はじめまして。僕の名前は結城。魔力の異常な14歳です」
「同じくはじめまして。俺は啓太、結城と同い年だ」
キリキリと胃が痛むギルドマスターは二人の能力に反する「普通の挨拶」に安堵した。ギルドにはよくも悪くもいろいろな人が来るところだ。魔力が強くてここに来たものもこの二人が初めてなわけではない。だが圧倒的に魔力の大きいもののほうが面倒事を運んでくることが多かっただけなのだ。
「ああ、はじめまして。私はギルド、『勇者の剣』のギルドマスターのルレイサルド・ウォーレアンだ」
ルレイサルドはストレスからかなり引きつった笑顔で二人に自己紹介をするが、二人は鈍感なのか、それともあえて無視したのか、放っておいてくれたのか、はたまたそういったストレスで死にそうな人間を見たことがないのかは分からないが二人は綺麗にスルーした。
その話で絡んでこられたらこんどこそギルドマスターの胃に大穴を開けるところだったのでルレイサルドは二人に心の奥から感謝したはずだ。
・・・・
・・・
・・
・
何はともあれ俺達はギルドランクSにいきなり入った。テンプレなるギルドマスター対転生者はなく、本当に嬉しかったな。
………………ああ、ギルドマスターのルレイサルドさんはストレスからそんなんこと出来るような感じじゃなかったがな。あの書類だとあのひとここ二、三週間寝てなさそうだしな。
ん? ああ。帝には………………ならされたぞ?結城が破帝、俺は闇帝らしいが………………さてさて。これはテンプレだど嘆けばいいのか?
「んん! よし! 」
ギルドマスター室から出てすぐに結城は無遠慮に伸びをして、それから目を輝かせて俺を見てくる。
ああ、それだよ、これ。いくら結城が普段「主人公」らしくなくたってこういうのが主人公と言われる所以だよな。元いた世界では、成績優秀、運動神経抜群、父親は有名会社の社長で、母親は世界的にヒットしている歌手。んで人当たりは良くて、浮いた話はなくて。恋愛に鈍感じゃないし、よくあるモテモテハーレムなんて馬鹿なことはしてない。だから男にも女にも別け隔てなく話せたし、何しろ明るくていいやつだ。
だかららしくもなく「主人公」と呼ばれて、それを結城は知っててな。
それで、なんにも言わずに笑ってる、そんな、そんなことを。
…………………俺には真似できねえな。結城は良い奴だ。
ん?べ、別にお、俺が英語ができないから、ね、妬んでるわけでは…………………。
コホン、そんなすごいやつなのにこいつには「友達」が居なかった、な。
自惚れじゃねぇが、多分俺が最初の友達だったはずだ。
ま、とにかく結城があんな少年よッ! 大志を抱けェェェェェェェェェェェェェェ! みたいな目をしてたら、まあ、「ろくな事考えてないよな」!
ああ、そうだよ!
結城に振り回されて何回怒られたか! そうだよ、これ以上ないぐらい叱られたさ…………………虫を教室に放ったり、学校に「自転車で突撃☆ドッキドキの結くんと啓くんの叱られターイム!」(結城命名)とか、な………………。最早遠い目で見るしか無い。
だけど、あの頃は楽しかったな。
「さ、啓太くんよ! 今から僕らは依頼を受けて飯食いに行こう! 」
「…………………あぁ」
「ど、どうしたんだ?啓太、遠い目でこっちを見るなあ!
あ、思い出したのか?! あぁぁぁぁぁ! 僕の厨二特有の黒歴史がアアアアアアアア! 」
今日も楽しく俺は親友と生きようか。
あ、ちょっとまて、お前、今持ってる紙、Xランクの依頼じゃないのか、ちょっと待てええええ!