腹立たしかったので
私ことアニータがここにおる理由は、大まかにふたーつある。
1つ、私の所属する商会主から、そう命ぜられたから。
1つ、狙ってた男がありえん出世したらしいて聞いて、つい。
「えーっと、アニー。悪いけど、もう一回、言って貰っていい?」
「もちろんええで、優斗くん」
元・キャリー商会バイス支店店員、と言うかほぼ倉庫番やった私は、ちょいと前にその役を解かれた。んで今、新しい役職を得るんに彼、藍川優斗領主の前に立っとるゆう訳や。
本来なら様付で呼ぶべき相手なんやけど、開口一番、それこそ再会の挨拶するんも後回しにしてまで、前と同じようにしゃべって欲しい言われたし、こっちとしても好都合やなと思て、それに乗っかってる訳やけど。
「優斗くんの側室に、私も入れてーな」
「却下」
「これ、キャリスさんからの正式な依頼やで? はい、証拠」
「うわぁ……」
いやいや、もうちょい嫌そうな顔は隠しぃや、優斗くん。
こん前会った時は、そんなんちゃったと思うんやけど、なんやら心境の変化でもあったんか? そやなかったら、立場がえろうなったせいか?
まぁ、それは置いといて、今は優斗くんに見せた紙の方が大事や。
あれ、私も読んだんやけど、優斗くんはキャリスさんに、出来るだけ便宜図るっちゅう条件で色々と借りを作ったみたいでな。その見返りのひとーつとして、関係を強固にするんに商会から1人側室に入れろ、言う内容が書かれとった。
ホントならキャリスさんの身内を嫁がせるんが普通なんやけど、あの人、そんなんおらへんしな。
「ちょ、いや、それは色々な意味でマズいんですが」
「えー、なんで? お姉さんじゃ気にいらへん?」
こうみ見えて、体型の維持にはそれなりに努力しとるし、顔も悪ない方やと思うんやけどな。やから、キャリスさんも私を選んだんやろうしね。
聞いた話やと、後宮ん中には10代前半の子から30超えたおばはんまで手広くおるらしいし、歳の問題もあらへんと思うんやけど。
「そう言う事では、じゃなくって、そんな事をせずともきちんと良い関係を築かせて頂きますので、キャリスさんにもそうお伝え願えませんか?」
「えー」
私を側室に迎えるゆう事は、私の身体を好きに出来るゆう事でもある訳や。それを拒否されるて、女のプライド、傷つくわぁ。
「優斗くん、実はお姉さんの事嫌いなん?」
「そんな事は無いですけど」
「そんなら別に、お姉さんが後宮におったってかまへんのちゃう?」
「いやいや、それとこれとは話が別で」
「む、はっきりせん男やな」
プライド云々を抜きにしたって、商会主命令で来とるのに、はいそうですかと帰れる訳があらへん。つーか、戻ってももう居場所あらへんのちゃうかな。間違いなく、前と同じとこには帰れへんやろな。
もしかして伝言忘れたん、怒っとんのかな? あれは優斗くんも悪いんやで!
もうええわ、こうなったら最後の手段や。
「な、いきなり何を」
「とりあえず一回ヤってから聞きなおそかなて」
「ダメ、ダメ、絶対ダメ!」
さっさと脱いだせいで下着姿の私を見ても、全力で否定するってちょっとどころかかなり酷くあらへん? 今、私が着けとるんは、系列商会で作っとる新型の下着で、あれや、あれ。せくしーなヤツやのに。
そりゃー、男と縁がなかったせいもあるってゆうても、売れ残り寸前になっとる女を掴まされるんは嫌やろけど、別に正室にせい言うとる訳やないんやで?
「そう言わんと、お姉さんが良い事したるさかい、おとなしゅーしーや」
「誰か助け、いや、ヴィス、来て! お願い、他の人じゃな――」
「お呼びですか、優斗さん」
「お兄ちゃん、呼んだ?」
そん後、半裸のままで細かい事情を聞いた私は、そんなら側室やなくてえぇからなんか役職寄越せゆうて、無事適当な役職をもろて居場所を確保したんやけど、報告を聞いたキャリスさんはちょい残念そうやった。
キャリスさんには世話んなっとるし、ここは1つ、今晩あたりに夜這いでもしよかな? 説明されて理由はようわかったけど、女のプライド傷つけられたんは納得してへんし。
うん、そうしよ。
アニーさんがやってきた時の馬鹿話でした。
キャリスさんはかなり思い悩んで人選したのですが、残念な結果に終わりました。
夜這いがどのような結果となったのかは、ご想像にお任せします。