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新領主様の女性事情

 首都ルナールに居を構える私が、ユーシアなんて辺境にまでやって来たのは、仕事だからだ。


 私の名前はリリィ。自称ルナール公国で最速の新聞社で記者をやってます。

 新聞記者と言っても駆け出しだけど、まだ16になったばかり何だから仕方ないよね。と言うか、少し前まで戦争寸前だった場所にこんなうら若き乙女を放り込むなんて鬼畜外道な編集長は、地獄に落ちればいいと思うの。


 そんな愚痴はさておき、新聞社名を告げて記者だと名乗り、ユーシア領主に取材をしたいんだとお願いした私は、あっさりと断られて途方に暮れていた。

 うちの新聞社の名前を出せば、ほとんどのとこが歓迎してくれるはずなのに、これは絶対おかしいよ。宣伝したい特産物とかお土産にくれる事が多いって先輩も言ってたし。て言うかそのくらいの特典がなきゃ、こんなド田舎まで来た意味ないじゃん! 私の絹のドレスは何処!?


 こほん、そんな事はさておき。

 取材を断られたからとむざむざ引き下がるリリィちゃんではない。宿に戻ると、先ほど見たユーシア家の侍女服を真似て、手持ちの服の改造を始めちゃいます。昔っから、手先は器用なんだよねぇ。料理も出来るし、こんな家庭的で女の子らしい娘が、ずっと彼氏募集中なんておかしいよね。ね?


 作業をしながら、私は今回の取材で最低限確認を取りたい、いや、きちんと取材出来なければ編集長に叩かれるかもしれない内容を、叩かれない為にも思い出しておこうと思う。考え事してても、手は動かせるしね。


 まず、何故ユーシア家の当主が、藍川優斗と言う名前なのか。これ、地味に気になるよね。

 藍川って言う名前はどうでもいいんだけど、優斗って家名に何か意味があるんだよね、きっと。これが明かされれば記事のネタになること間違いなし。ユーシア家の隠し子である事が深く関係しているんだろうなーと私は予想してる。特に頭文字のユーが同じなのが怪しいよね。


 で、2つ目は配偶者が居ないにも関わらず、後継者がいる事。

 これ自体は珍しい事じゃない。歳若い前領主の代理、もしくは後見を申し出た現領主様が、今回のごたごたで一時的に正式な領主の座を譲り受けたんだろうね。ちなみにこれ、先輩の受け売り。

 でも、そう考えれば、これを聞いて来いと言った編集長の真意は、そちら――ごたごたの詳細――を断片的にでも構わないから調べて来いって意味だと分かるわけだよ。先輩の話を聞きながらそれに気づいた時、やっぱ私って記者に向いてるって確信した。うん、間違いない。


 おっと、話が逸れた。最後の1つ。これが今回、私が引き受ける事になった最大の原因な訳だけど。

 新領主様って、なってすぐに後宮を作ったの。それ自体はたまにある事なんだけど、問題はその顔ぶれ!

 領主を継げるって事は、今の領主様と前領主の関係は兄妹と言うことになるじゃない? 親にしては年が近いし、子はありえないから、間違いないはず。でもって後宮の顔ぶれは、その前領主の姉、もしくは義母だらけなの。

 それ以外にも、と言うか私にとってはこっちの方が重要なんだけど、最近規模を拡大している新進気鋭の某女性奴隷専門の商会からつるぺた娘を購入したとか、幼女を購入したとか言う噂があるんだって。


 なんでそれが関係あるのかって考えてたら、自然と服を縫う手を止めて、ついついそこに目がいっちゃった。

 そこにあるのは、まっ平らな胸。いやいや、私も文章を書く者の端くれとして、何より将来の敏腕記者として、正しく記録する義務があるはずよね。そこには山も谷も存在しなかった。どうせ私はナイチチだよコンチクショウ。


 こほん。

 以上の事から、血縁趣味で童女趣味と噂が新領主様にはあると言う事はご理解いただけたのではないでしょうか。

 そんな訳で、童女趣味な領主なら全身どこを見てもちっこいお前が適任だろと言った編集長を、私は許しません。


 そんなこんなと考えている内に、服が完成しましたよ。我ながら、中々の出来です。

 問題は、まだちょっと遅い成長期の来ていない私が、こんな服を着ていて目立たないかと言う事ですが、それはさすが童女趣味の領主様の屋敷です。侍女服を着たまだ年齢1ケタっぽい子とか、私と同い年くらいなのに騎士服を着た娘とかが居たの確認してるんで、大丈夫です。記者として、観察は基本中の基本!

 ちなみに2人は仲良さ気に話をしていました。通りがかっただけなので、騎士服の子は後姿しか見てませんけど。


 服を着替えた私は、適当な鞄に手帳とインク、ペンを放り込んでから、小銭を手に部屋出る。宿の主人に妙な顔をされた様な気がするけど気にしない。市場でそれっぽい物を買って鞄の中身が見えない様に覆い隠してから、堂々と屋敷の裏口へと向かう事になるんだけど。


 ここで大事なのは、さも当然ですと言わんばかりの態度と表情を心がける事。

 変に凝って、追われている振りをして中に駆け込むなんて、ありえない。だって、その場に拘束されずに逃げ出す体力と機転なんて、私にある訳ないし!

 だから気づかれて止められたら、素直にごめんなさいする。全力で謝って、逃げる。騒ぎになって連行されても、中に入れたから良しなんて考える先輩もいるらしいけど、絶対おかしいと思う。うら若き身で牢屋に閉じ込められるなんて、何をされるかわかったもんじゃないし。


 そんな事を考えているうちに、裏門まで10歩のところまで来ちゃいましたよ。

 自然に、自然にと自分に言い聞かせながら進んで行ったのに、見張りの人に声かけられちゃいました。何で!?


「なぁなぁ、よかったら今晩食事でもどう?」


 これは想定外でした。まさか、私が可愛すぎて引き止められるなんて。でも、納得の理由だね、これ。

 でも、偽物だってバレた訳じゃないみたいなんで、愛想笑いでお断りです。今晩は隣の同僚に慰められながら、寂しく男2人で過ごせばいいと思うの


 とりあえず屋敷への潜入は成功、っと。顔を見られた、そして取材を断った憎き帽子の男の子に会いませんようにと竜神様にお祈りしてから、移動開始です。


 まず向かうのは、もちろん後宮。側室様方に挨拶に行くよう命じられた新米侍女って設定なら、不自然なく色々聞けるはず。

 屋敷の見取り図がある訳じゃないので、たまに窓の外を確認しながら後宮になっているらしい建物を目指してずんずん進んでると、目の前のさっき見た若い女騎士さんの姿を発見。背中を向けてたんで顔は見られてないと思うけど、人とすれ違うのは避けるべきかなーっと思った私は、女騎士さんを遠目に見ながら、頭を軽く下げて別の通路へと進路を変えた。


 そのまま少し行ったところでまた外を確認して、目的の方向へ軌道修正。何でこういう屋敷って、周りに木を植えるんだろうね。目隠しなら普通に壁でいいと思う。あ、でも鳥がとまってるのはいいなぁ。


 って、別の道を進んだのになんでまたあの女騎士さんっぽい人が居るの?

 ん、待てよ。逆に言えば、さっきの道はもう素通り出来るって事だよね。さすが私、発想の転換が早い。


 そう考えて来た道を戻ったら、やっぱりそこには女騎士さんの姿が。もしかして、別人?


 ならば他の道をと挑んだ結果、またそっくりな女騎士さんが居た。もしかして、三つ子の女騎士とか? あ、実は全員次期領主様のそっくりさんで、影武者とか。って、クシャーナ様のお姿は絵で知ってるし、一回だけ遠目で見た事あるけど、似てないか。


 仕方ない、と私は人とすれ違う覚悟を決めた。でも嫌な予感もするし、一応戻って、最初の道へ向かって、その途中で2つ目の道へ走って向かった。そこまでしても女騎士さんはそこに居たので、やっぱり別人なんだなと進んで行ったら、声をかけられた。


「捕まえた」


 え、なんですか。やっぱりバレてたんですか? 薄々そんな気はしてたんだけど、まさかまさか。


「貴方、誰?」


 近づいて見て判ったんですが、この人、なんというか、すっごくおっきいです。いえ、身長の話じゃなく。

 そんな事より、今はこの状況をどうにかしないと。憎き、持つ者が相手だとかそんな事はちょっとしか考えていない私は、もちろん正直に話して全力で謝る。


 誤魔化したりしないのかって? 自分の罪状をこれ以上増やしてどうするんですか。


「……そう」


 私の謝りっぷりに困惑しているっぽい女騎士さん。よし、いい感じだ。そのまま、面倒だから外に放り出してしまおうと考えて! お願い。


「こっち」


 ですよねー。

 連行されると言う立場は辛いけど、仕方ない。相手が女の人なんでそっちの心配がないし。でも、出来れば牢屋だけは止めてほしーなー。


 それにしてもこの人、何もしゃべらないし、こっちを見もしないけど、私が逃げたらどうするつもりなんだろ。試しに止まってみたら、2、3歩歩いて女騎士さんも立ち止まりましたとさ。さすが騎士、気配とか感じてるんでしょうねー。


 歩いて歩いて、どこに向かっているのかなんてもちろん知らない訳だけど、遠い、暇い。そうだ、折角だから名前聞いちゃお。


「ヴィス」


 あっさり名乗ってくれた。この調子で、色々聞いて見ようかな。

 まずは領主様が噂通りに血縁趣味で童女趣味の変態なのか確認したいところだけど、ここはまずかるーく、女騎士さん自身の話題から。

 そうだなぁ。まず、領主様と床を共にした事が、いや、ちょっと遠まわしに、一緒の寝台で眠った事があるか聞いてみよっかな。


「ある」


 うわ、予想外の答えが。

 えっと、そうすると実は領主様って、単なる節操無の女好きなんじゃ?

 それはさておき、領主様のどんなところが好きか聞いて見よう。


「優しく撫でてくれる」


 え、撫でるって、何処を?

 これはもしかすると、すっごい記事のネタを手に入れたんじゃないのかな。愛人騎士を囲う新領主! とか。


 うわ、興奮してきた。

 じゃあじゃあ、次はベタに出会いがどんなだったか聞いてみよう。


「借金の形」


 なんですってー。

 騎士を、と言っても多分従騎士だと思うけど、そんな人の借金を肩代わりって、すごいお金持ちじゃない!

 元商人って聞いてたけど、領主にまで上り詰める様な人は、さすがだなぁ。


 って言うか、それ、実は領主様が背負わせた借金だったりしないよね? まさか、気にいったから手を回して自分のものにしたとかじゃ……。

 そうなるとこんなに可愛い私は貞操の危機なんじゃ!? 今って、領主様のところに向かってたりしないよね?


「次期領主様のところ」


 よかったぁ。そう言えば、クシャーナ様って審判のギフトをお持ちでしたよねー。私の身元確認にはぴったりな人選だけど、不審人物をそんな重要人物のとこ連れてって大丈夫なの?

 何もしないし、してもすぐに取り押さえられそうだけど、警備ってそう言う万が一も想定するのが仕事なんじゃ。


「クシャーナ、お客様」

「あ、ヴィスさん。どうぞ」


 わ、さすが領主の愛人騎士。次期領主様を呼び捨てるなんて、しかもさん付けで呼ばれてるなんて、普通の騎士ならやらない、って言うかやれないって。

 そんな事はさておき、やっぱり私の判断は正しかった。嘘を吐かなかったからこそ、ここで何を言っても問題ないもんね。潜入した時点で、って言う話は聞こえませんったら聞こえません。


「えっと、どちらさまですか?」


 リリィちゃん、洗いざらいしゃべっちゃうぞー。

 説明と懇願してたら、クシャーナ次期領主様、溜息吐き始めたよ? しかも、なんか呆れ顔なんだけど、私、やっちゃった?


「その、領主との面会を断った少年と言う人は、帽子を被っていて、よく日に焼けているみたいだった、んですね」


 そうそう、なんか公国人にしては肌に白さが足りないんで、顔色悪いですよ、って教えてあげたらそんな返事されたんだよね。帽子を目深に被ってるのに顔色を伺えるなんて、私の観察力はさすがだね。


「はぁ。実はリリィさん、その人がうちの領主なんです」


 え、今なんて?

 領主って言うと、ここで一番偉い人で、私が取材したい相手でもあるんだよ。まっさかー。

 え、本当に? クシャーナ様? あぁ、本当なんですね。えー、なんかなー。


「もう。新聞の影響力も知らないなんて、お兄ちゃんはホント、変なとこでモノを知らないんだから。

 あ、すいません。こちらの事です」


 なんか、呆れ顔なのにすっごく幸せそうで楽しそうな表情にも見える。それより、お兄ちゃんって。やっぱり兄妹だったんだ。それなのに、後宮はあれなんだ。

 でも、そんな変態には見えなかったけどなぁ。面会断られたけど。面会断られたけど!


「あの、リリィさん。よろしければ、取材をして行きませんか?」


 もちろん、お願いします。

 お咎めなしどころか取材の許可を貰えるなんて、さすが、わが社の名前は凄いね。そう思うとやっぱり、今の領主様は変た、じゃない、少し変わり者なのかな。


「ヴィスさん、すいませんけど案内をお願いします」

「了解」

「どこを見にいかれますか? 念の為、一筆書いてお渡ししますので」


 おぉ、予想以上の好待遇! 遠慮なく後宮へ渡る許可を貰っちゃおう。

 でも、出来ればこの局所的デカブツな女騎士さんじゃなく、格好いい騎士様に優しく案内して欲しいです。渋いおじさまでも、可。口にはしないけど、届け私の思い!


「では、先に後宮の取材をして貰って、戻って来たら領主の取材、と言う事で。既に不在かもしれませんので、その時は私が代理で」


 一筆書いて貰って、ヴィスさんと一緒に部屋を出る時に、1つ衝撃の事実を知った。

 まさか、領主様が取材から逃げた理由が、目立つのが嫌だからだとは思わなかった。だったらなんで領主なんて目立つモノになったの!? なんか人前に出る式典も逃げようとするらしいし、やっぱり変。


 ヴィスさんに連れられて行った後宮の取材は、思ったよりもつまらなかった。

 何せ、ほとんどの人が取材拒否。収穫と言えば、これも務めですから、と言って答えてくれた側室筆頭様が領主様に好意的っぽかった事くらいかな。近親相姦だー。ネタだー。記事にしちゃおー。


 ついでに、お付きの侍女が領主様が買った噂の幼女だったと判明。愉快なしゃべり方の子だったけど、きっとそのせいで変態領主に見初められちゃったんだね。私も気を付けないと。


「あれ、ヴィス。その人は?」

「新聞記者」


 後宮から出て来たところで会ったのは、ちっちゃな女性だった。そう、少女ではなく女性。私には判る。彼女は我が同士に違いない!


「そうでしたか。私は領主傍付きのフレイと申します」


 自己紹介を返すと、フレイさんはにっこり笑ってくれた。年齢を聞いたら、なんと同い年だった。やっぱり、私の目に狂いはなかった。

 あっち――フレイさんも同じ事を思ったのか、つい無言で握手を交わしてしまった。次の瞬間、2人でヴィスさんの豊かな女性の象徴を憎らしげに睨みつけたのは、まぁ、仕方のない事だよね。


「む、また側室候補でも来たのかい?」

「新聞記者」


 私が何か悪い事でもしたと言うのか! あ、そう言えばごく最近したような気も。

 それにしたって、この状況に更に立派な人を追加する事無いじゃないですか! 竜神様は私をお見捨てになったと言うのか!


「こんなところに居るなんて珍しいですね、シャーリーさん」

「ちょっと薬を届けに来ただけ」

「あの子ですか。呼びに行かなくても来るなんて、シャーリーさん、人嫌いが治って来ました?」


 よく判らないけど、フレイさんはなんか嫌味を言いたいみたい?

 これは、フレイさんとシャーリーって人も側室の座を狙っていて、次は私だと火花を散らしていると見た。あの嫌味は「領主様の前ではあんなに愛想が良い癖に」とかそんな裏の意味があるに違いない。たぶん。


「っとと、すいません、記者さん」

「リリィ」


 ヴィスさんのせい、と言うかおかげで自己紹介する手間が省けた私は、早速2人に取材を試みた。

 フレイさんとは後で個人的に飲んで苦労を語りたい気がするけど、今は仕事を優先しないとね。


「領主様ですか? 愛してますが、何か」

「面白いし、死ぬまでついてくつもり」


 うわー、うわー、どっちも熱烈な愛の表現だー。

 とりあえずこれで、年齢層から体型、性格まで一定しない後宮だって事が判明した、かな。どんどん領主様節操無し説が濃厚になって行くなぁ。


 あれ、それなら取材するの別に私じゃなくても良くない?


「その領主様ですけど、今日は工房に行くってさっき出て行きましたよ?」

「……護衛は?」


 フレイさんが首を振った。

 え、領主様が護衛も無しに出かけたんですか? それ、おかしいと言うか安全面からしてあり得ない事じゃ? あ、そう言えばユーシアは騎士の家系だったっけ。なら、問題もない、かな?


「……終わったら行く」

「それなら、取材は私が引き継いでも――」

「クシャーナに頼まれた」


 主命は絶対とかそんな感じの騎士道精神なのかな?

 そんな真面目な表情のヴィスさんを見ていると、愛人騎士なんて呼んでたのがちょっと申し訳なくなってくる。本当にそうなら、放り出してすぐ向こうに駆けつけそうだし。


 と言うか、そうで無くても駆けつけなきゃまずくない?


「大丈夫」


 私の疑問に、ヴィスさんはそう言って窓の外へと視線を向けた。

 なんだろうと同じ窓を見ると、鳥が飛び立つところだった。よく判らないけど、あんまり深くつっこむのも良くないし、止めとこう。取材に関係ないとこで不興を買う意味はないしね。


 早くクシャーナ様のところに戻りたそうなヴィスさんには申し訳ないけど、取材はさせて貰わないと。

 って、シャーリーって人がいつの間にかいない! 仕方ない、あっちは諦めてフレイさんに出会いでも聞いてみよっと。


「出会いですか? 拾われた、と言うか買われたと言うべき?」


 もう驚く事すら無いどころか、あぁやっぱりとか思っちゃいました。

 ヴィスさんも実質お金で身柄を取られてるし、ちっこい侍女の子も、目の前のフレイさんもご購入。って、フレイさんが捲った首元に首輪の跡が。もしかしなくても、噂の1人目、つるぺた奴隷ってフレイさんだったりします?


「……不本意ながら」


 血縁以外の女性は皆お金で縛り付けてるとか、領主様、実は人間不信だったり?

 いや、実は血縁の女性もお金で? 次期領主のクシャーナ様がお金で買われてたとかなれば、一面飾る記事になるのになー。さすがに後継者を買う様な真似は、公国法的にもありなえいよね。


 ん、でも領主の座も妙な継承だって色々疑いがかかっていたような。国すら賄賂で懐柔したとか、怖い想像が浮かんだけど、それもないなー。あったら今頃、領主じゃなくて公爵様だろうしね。


 おっと、あんまり時間をかけるとヴィスさんに申し訳ないし、最後にも1つ質問して終わりにしよっと。

 内容は、そうだなぁ。領主様に正室がいない理由とか、知らないかな。


「心に決めた方がいるから、だと思います」


 えー、っと、普通に考えれば良い話なんだけど、お金で大量の女性を侍らしてるのを聞いた後だと、不憫にしか思えないのが不思議だよね。

 それはさておき、そろそろクシャーナ様のところへ戻らないと。ねぇ、ヴィスさん。


「戻る」


 そんな訳でフレイさんと別れて、元の執務室に戻るとそこには相変わらずクシャーナ様が居た。

 部屋を見渡すと、ユーシア特産の絹で作られたらしい見慣れない意匠の洋服一式が準備されていた。ついでにお茶と、過剰なくらいのお茶菓子も。


「どうでした?」


 上々だったとお礼を言った私に、クシャーナ様が、それはよかったと微笑み返してくれた。

 まぁ、そんな間も私の目は洋服をちらちらを気にしてたんだけど、仕方ないよね。可愛らしい、私にあう大きさっぽい服があるんだから。私、花も恥じらう乙女なんだし。


「こちらは、ユーシアの特産にしようと思っている、甘~いお菓子です。どうぞ」


 服に後ろ髪惹かれながらも、勧められた私はまずソファーに座ってお菓子を1つ。

 うわ、なにこれすっごいあまい。


「砂糖、と言う異国の調味料を使ったお菓子です。ちなみにこれが砂糖。舐めて見てください」


 あっま~い。しあわせ~。

 はっ、危ない危ない。思わずがつがつ食べちゃったけど、ゆっくり食べなきゃ、味わわなきゃ。


 ん、はしたないって? そんなの、この甘さの前じゃどうでもいい。恥じらうのは花にまかせときゃいいんだって。


「気に入って頂けたようですね。

 いくつか包んでお渡ししますので、よろしければ、他の記者の方へのお土産にどうぞ」


 そう言わず全部食べたい。でも、記事にした時の信憑性、つまり編集長から掲載権をもぎ取るのには必要だから、ちょっとだけ残して後は食べる事にしよう。よし、帰り道に1日1個ずつ食べる事にけってー。


「そちらの洋服は、ご存じのとおり我がユーシアの特産である絹で作ったものです。値下がりを起している今だからこそ、購入の良い機会だと思うのですが、どうでしょうか?」


 つまり、ユーシアの布の宣伝をしてくれたらこれあげるよって事だよね。もちろん、書きます。べた褒めします。絹ってだけで、感動ものだしね。

 あれ、でも布地じゃなくて服の宣伝? 腕の良い職人でも雇ったのかな。それでも、ユーシアで服を作って使うくらいじゃ布として売る方が多いよね。そっちの宣伝を主にすべきなんじゃ?


「いえ、今回は色々と新しい意匠の服を準備したので、その宣伝をお願いしたいんです。

 どうせ布は、既に買い手が決まっていますので」


 残った布の有効活用法がこれ、と言うなのかな。もしかすると、買取料金が既に決まってるのかも。少し前にそう言う商売でルナールの市場が揺れた事くらい、新聞記者なら当然知ってるもんね。


「お互いに良い関係を築いて行きたいですね」


 そうですねー、特にこのお菓子とは仲良くしたい。

 おっと、忘れてた。もう1つ聞いておかないと。


「そうですね。お兄ちゃん、いえ、今の領主様の事は大好きです」


 意味深だなー、とその後も色々つついてみたけど、その辺りはさすがにはぐらかされてしまった。

 こんな感じで私のユーシア取材は終わり、ルナールに戻った私は甘~いお菓子と綺麗な絹の洋服を褒め称える記事を書いた。


 かなり、いや、ちょっぴり編集長や先輩方から手直しを指示されながら書き上げたそれは、無事に新聞に掲載され、1か月かけてルナール中へと配られ、それなりの反響を得る事が出来た。


 幸か不幸か、その記事が原因で私はユーシアの取材担当にされちゃいました。毎回振舞われるお菓子は嬉しいけど、周りから男っ気大幅に削減されましたよ。


 変態領主の慰み者になったとか誤解なのに! お土産話にちょっと脚色して領主様の事を話した事を、私はちょっぴり後悔してます。

外から見たユーシアのお話でした。


リリィは初登場にして最後の出番、になるんじゃないでしょうか。恐らく。

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