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捨てられた日記帳

 ○月×日


 今日から日記を書こうと思う。

 理由は、合流した時、あの人にこんな事があったと証明する為だ。


 私は3日前、カクスの街で昔馴染みに拉致された。今は船の上。

 船の上で文章を書くのは難しいので、今日はこの辺で終わり。




 ○月△日


 昨日の続き。

 拉致した昔馴染みは貴族様に嫁いでいる。今向かっているのは、その別荘らしい。


 ずっと船に乗っているのは辛い。文章を書こうと下を向いていると、気持ち悪くなってくる。

 何で私は、日記を書こうなんて思ったのか。




 ×月○日


 別荘に着いて3日が経った。

 ふと思い出して開いた日記帳が真っ白で、自分の継続性の無さにちょっと泣きそうだった。


 そんな事はどうでも良い。

 とりあえず、何時彼が迎えに来ても抜け出せるように色々と準備をしなければ。




 ×月□日


 ドレスを作るからと採寸をされた。

 相変わらず全然ねぇ、と言ったあの子は一回殴っておくべきだろうか。




 ×月×日


 忘れてないか確認すると、ここ数日はひたすらダンスや礼儀の再教育を受けさせられた。

 どうせ暇だし、全然助けが来ないからそれはいいのだけれど、疲れて日記を書くのを忘れていた。


 決して、面倒だからさぼっていた訳ではない。




 ×月△日


 クシャーナ・ユーシアの領主任命式典に間に合う様、その1か月前にはここを出ると言われた。


 その時に私を元の場所へ戻す交渉もしているが、彼が良い人だと中々納得して貰えない。




 ×月○日


 式典には私も主席するのだと言われ、驚いた。

 もちろんただの侍女として、あの子の付添で行くのだが、クシャーナ様に見つかったら色々と面倒な事になりそうだ。




 ×月□日


 毎日毎日そう書く事もないので、日記を書くのは何かあった時だけにしようと思う。


 決して面倒になって来たし、全然迎えに来る気配もないから飽きて来たからではなく、紙を無駄にするのは良くないからだ。




 △月○日


 今日、カクスに戻って来たら彼はかなり前に王国に旅立ったと聞かされた。

 私の捜索よりあの子が大事って事ですか? なんか、待ち焦がれていた自分がみじめになって来ました。


 腹立たしいので、素直に帰ってなんてあげません。宿屋の御夫婦に頼んで、助けに来る様に仕向けようと思う。




 △月×日


 バイスの街でキャリー商会へ行った。目的はもちろん、彼の寄りそうな場所に私の足跡を残す為だ。

 アニーと言う人に伝言を頼んだが、少し不安だ。


 アニーさん、私と違って顔は良い方だったし、何より胸が私より大きかったし。

 私より小さな人の方が少ない気もするけど、恐らく何かの間違いであり、絶対に気のせいだ。




 △月□日


 無事、首都に着いて後は式典を待つばかり。




 △月×日


 彼が首都にやって来たと、あの子が教えてくれた。


 どうやら、女連れの様だ。しかも、首都に来て尋ねる先に居るのは女性ばかり。

 アニーさんの話を聞いたなら、一秒でも早く私のところに来るのが普通でしょ!




 △月○日


 彼が奴隷、しかも小さな子供を買ったらしい。

 そして、連れの子は胸が、胸が。


 一先ず、忘れられない様にトーラスくんに伝言を頼む。忙しいのにごめんね。




 △月△日


 購入した奴隷の子は、私と同じギフトを持っているらしい。

 このままでは私の存在意義が危うい。いえ、そんなものが無くとも彼は私のところに。




 △月□日


 そろそろ現実逃避は止めよう。

 恐らく彼は、もう私を必要としていない。その証拠に、助けに来てくれる気配がない。それどころか、代わりを探している。


 なれば、私は自分の未来を2つの選択肢によって決めなければならない。


 まず、あの子に頼んでここで働き、生活する事。もう1つは、なんとかして自分の有用さをあの人に売り込んで、彼の元へ帰る事。




 □月○日


 1日考えて、やっぱり彼の元へ戻りたいと決め、あの子に相談して見た。


 その結果、恩を売りつけるか、有用さを見せつけて無理にでも彼の隣を確保する事から始めようと言う事になった。




 □月×日


 何日も悩んでいる私に、あの子がある提案を持ってやって来た。

 どうやら彼は、とんでもなく大きな商売に手を出そうとしているようだ。




 □月△日


 交渉の席に介入出来る口実が出来たと、あの子が嬉しそうに報告してくれた。


 私も同席して、フレイに相応しい相手か確認するからね。


 そんな優しい言葉が、とても嬉しかった。




 □月□日


 久しぶりの日記。明日は大事な日で、今日までその準備に追われていた。


 どちらに転んでもこの日記の出番はないと思うので、今日の分を書いたら捨ててしまおうと思う。


 読み返してみると、彼に見せるには恥ずかし過ぎる内容だし。


 折角なので、最後に明日の交渉で大事な点を書いておこうと思う。


 出来るだけ大きな恩を売る為にも、なるべく彼には絶望して貰う。絶望から希望にひっぱり上げれば、評価は上がるに違いない。

 戻って来てと言わせたいなどと思わず、場合によっては素直になる。意地を張って捨てられたら、元も子もない。

 自分はさも彼の隣に居るのが当然と言う態度は崩さない。もちろん、反応次第では下手に出るつもりだけど、あんまりしたくない。


 そんなところだろうか。

 あと、使えそうな言質はとっておくべき、くらい。彼以外の言質でも、上手く使えば利用価値があるように見えるかもしれない。そうすれば、彼もそばに置いてくれるはず。


 戻るのも大事だけど、その後もずっと一緒に居られる様にしておかないとね。






 面白いモノを見つけたので、送ります。

 貴方の可愛い傍付きに見せれば、きっと愉快な事になりますよ?


 では、またわたくしの家にも遊びに来なさいと、彼女にもお伝えください。


                        メリル・ヤード

フレイさんの恥ずかしい日記が暴露されました。


ちなみに語られなかった事実として、フレイさんと優斗くんは、同じカクス行きの船に乗っていた言うモノがあります。途中で寄ったあそこで乗り込んだ訳ですね。

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