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未来で出会う為に

 録音を終えた携帯電話にアラームの詳細設定を入力し終えた由美は、ふうと溜息を1つ吐いて隣で眠る娘へと視線を向ける。


「これでよし、っと」


 彼女がこの世界に来てから1年以上の時間が経過している。

 もう戻れない世界に残して来た愛しい人を想いながら、由美は彼との娘であるユウの頭を撫でる。


 彼女が今しがた終えた行為。それを行った理由は、少し前に出会ったあるギフトを持つ女性の言葉にある。


 未来を高確率、何もしなければほぼ確実に言い当てる事が出来る、予知のギフトを持つと言う彼女と出会ったのは、由美がお世話になっているこの店に偶然彼女やって来たからだ。そして由美の出産を聞いた彼女は、由美と、その娘のユウにお祝いだと2つの予言を与えた。


 娘には勉学を修めれば良い出会いが待っているだろうと言うありがたいお言葉を、そして由美には、声を残す事で連れ合いに再会出来るかもしれないと言う驚きの言葉を。


 文明の利器など知るはずもない彼女が携帯電話の存在を知っているはずもなく、由美が驚く心を抑えてそんな道具があるのかと問えば、彼女は知らないと答えた。


「あ、電池切れた」


 この方法が正しいのか、由美には確信がない。しかし、この予言が正しいと言う前提で未来を予想するなら、想い人がこちらに来る可能性は高いと、彼女は考えていた。

 故に由美は、それ以外にも手紙を書いたり、娘が大きくなったら彼への伝言を伝えたりもするつもりでいる。


 更に由美はこう考えている。

 再会した時に自慢できるよう、娘をしっかりと育てよう。あの人だけを、想いながら。


「あー、でもあっちが浮気する可能性もあるか」


 由美のそんな予想は半分正解ではあったが、今の彼女がそれを知る由もなく。

 ならば、その時はどうするべきかも考えておかないと、と嬉しそうに、そして嗜虐的に笑いながら、独り言を続行する。


「優位に立って一方的に、が理想だから、私が潔白を貫くのは当然として」


 そんな理由がなくともそのつもりだけど、と思いつつ由美はにこにことしながら呟き続ける。

 それを一途と取るか病的依存と取るかはさておき、抱いている愛情は本物だ。


「何もなくても、1人で子供を産んで育てた事には文句言ってもいいよねー」


 まだ育ててないけど、と由美は小さく舌を出す。

 そもそも相手は妊娠していた事すら知らないはずなのだが、それはそれである。


「認知しないとか言ったら、と言うか俺の子かとか疑ったら、とりあえず張り倒しちゃる」


 想い人をぶん殴る。そんな行為を思い浮べて恍惚の表情を浮かべる彼女は、まごう事無く加虐主義者だった。だからと言って、彼女の連れ合いが被虐主義者であると言う訳ではないが。


 楽しそうに夢想する由美だが、実際にそうなる事は微塵も望んでいなかった。優位に立って、殴り倒して色々するのは楽しそうだと思ってはいたが、彼の想いが自分から離れていたらと思えば、寂しく感じてしまうのも事実なのだ。


「他に女作ってた時は、まぁ、相手の子次第か、な?」


 由美は、自分が居なくなって悲しんでいる彼を慰めてくれる娘が居たのならば、それはそれで良い事だと考え、その娘を責めるかどうかは相手を直接見た結果とその場のノリで決めようと考えながら、唇の端を釣り上げる。そしてその相手候補その1を思い浮べると、由美は思わず苦笑していた。


「先生、先生って慕ってくれた子を責めるのは、ねぇ」


 由美を先生、その想い人である彼を先輩と呼んでいた、可愛い後輩。彼女が今、彼をどう思っているのかは知らない由美だが、初恋なんですと相談を受けた事は今もその衝撃と共に覚えている。おかげで2人は幼馴染から恋人関係になれたのだと言う事も含め、由美は後輩に感謝と、少しの負い目を感じていた。


 もっとも、本人はその後もそんなお二人と一緒に居るのも楽しいんですと色々なところまで付いてきたし、それでもなお由美を先生と呼んで慕っていた。


「まぁ、とりあえずあれだ。再会したら」


 再び、にんまりと嗜虐的な笑みを浮かべながら、由美は慌て、焦り、言い訳する想い人を思い浮べる。そこに何でと迫る自分の姿を追加しながら、うん、そうしようと決めると、もう電源のつかない携帯電話をベッドに放り投げた。


「その場で押し倒して、キスしてやろっと。うんとでぃ~ぷなの」


 それで相手の女が退けば良し、そうで無いなら直接対決あるのみ。予想以上にダメな状況なら、何時ものアレで精神的にヤっちゃえばいい。主に精神面を。

 そんな風に考えては、くすくすと声を出して笑う。


「うー、あー」

「っとと、どうしたの、ユウ」


 泣き出した赤ん坊をあやしながら、由美はこんな状況にも関わらず、幸福を感じていた。

 愛する人と間に出来た、愛する娘を抱きながら迎えを待つなんて、新婚さんにでもなったみたいでちょっといいな、と。

短編の最初を飾るのは、ようやく物語に出張る事の出来たあのお方です。


さて、次は誰の出番となるのでしょうか。

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