2.プロローグ『わらうウサギとくるったアリス』
父親には嫌われていた。
物心ついたときには、もう目も合わしてくれなかった。
そして当時六歳の時、オレは捨てられた。
「まって」とか「どこいくの?」とか、母親がいなくて妹と父親しかいなかったオレは誰かに縋って生きるしかなかった。台風が来たらすぐに吹っ飛びそうなボロの一軒家の玄関で、俺は冷や汗を流しながら父に問い詰めた。妹は元から病弱で、寝たっきりだった。オレが父を引きとめている間も、布団の中で眠っている。
置いていくわけがない。捨てるわけがないだろう。
子供だけで置いては行かないだろう。そうだ、仕事だ。
内心心臓はバクバクなって、『心臓が出そうになる』というのはこう言うことか?とか思っていた。嫌われているのは知っている。まぁ、何度か言われたから。
「何だその目は。まさか“俺たちを置いていかない”とでも思っているのか」
「かえってくるよね?だってユキもいるじゃないか…。オレだって、まだこども…」
手を伸ばして訴える。必死に父親の服を握り、縋った。離すまいと、置いて行かれるまいと。
しかし、その手は呆気なく父の手によって叩かれた。乾いた音が、何もない空間に無残に響き渡る。一瞬の沈黙が空間を支配する。叩かれた右の手のひらが、じんじんと痛む。その痛みは手の神経を伝い、体中に響き渡る。
「汚らわしい。薄汚い小僧が、俺に触るな」
ケガラワシイ
ウスギタナイ
サワルナ
じゃぁ、オレがこうやって生きているのはどうしてなんだよ。なんで今まで育ててきたんだよ。必要とされないなら、殺してしまえばいいんじゃないのか―――――――――
「お前のような薄汚い小僧、生まれてこなければよかったんだ」
その言葉の後に部屋に響く扉が閉まる音。扉が閉まって数分経ってから、オレの頭は一つの事実を告げる。
捨てられた。
あの父親は、オレとユキを置いて行きやがった。必要がないから、邪魔だから、と捨てやがった。
「あ…ぁあ、…うわぁ゛あ゛ぁああああああああああああああああああああッ!!」
泣き叫んだ。心が壊れそうだった。
まだ殴られた方がましだった。悪態をつかれた方がよかった。いてくれれば。この家に一緒にいてくれれば。―――――必要としてくれさえいれば、それでよかったのに。
有一の肉親に必要とされないオレは、どうすればいい?
※(まだ途中です。お許しください。今日中に続き書きます)