色
大切な人を得るということ。大切な人を失うということ。それの意味がわかればと思います。実話を元に比喩的表現で書きました。
昔々、とても活発でスポーツが大好きな塗り絵の男の子がいました。塗り絵は、たくさんの人達に出逢い、いろんな色をつけてもらいました。その色鮮やかな色をみんなに見せるかのように自信を持って生きていました。しかし、塗り絵が16歳になった時にその色は、全く真っ白なただの紙切れになってしまいました。
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塗り絵は、16歳で恋をしました。恋の相手は、同い年のカラフルな色を持った色鉛筆の女の子でした。その色鉛筆は、塗り絵にたくさんの色をつけてあげました。そのおかげで塗り絵は、さらに鮮やかさを増し、毎日がよりたくさんの色で見えるようになりました。もう、その色鉛筆なしで生きて行く事は、考えられないようになっていきました。
ある日2人は、ピクニックに行き、帰宅の長い道を歩いていました。ちょうど桜が満開で地面をピンクのカーペットが敷いてあるような道でした。塗り絵は、色鉛筆の鮮やかな色と桜のピンクが入り混じってなんとも言えない色を胸の中に塗っていきました。その時でした…激しいブレーキが真後ろで鳴ったと思った時には、すでに2人は、空中に飛ばされていました。2人は、酔っ払いの運転する自動車にはね飛ばされ病院に運ばれてしまいました。
塗り絵が意識を取り戻したのは、病院のベットの上でした。目を開けると両親が心配そうな顔で僕を見つめていました。僕は、かすり傷程度の軽傷で済みました。息つく暇もなく、両親に塗り絵の安否を確認しました。両親は、軽く微笑み
「塗り絵ちゃんも脚を擦りむいただけの軽傷よ。」
と温かい声で語り掛けてくれました。その内容と温かい声に安心したのか深い眠りに落ちていきました。次に目が覚めたのは、翌日の朝でした。僕は、すぐに起き上がり塗り絵の元に急ぎました。
「コンコンッ。」
病室のドアをノックすると、中から
「はぁーい。」
と心地よい大好きな色鉛筆の声が返ってきました。僕は、待ちきれんばかりとドアを開けました。するとニコッと笑い、
「あなたの無事は、聞いていたわ。本当によかった。もう逢えなくなるんじゃないかと思って心配したの。」
色鉛筆の目には、キラキラ光るものが浮かんで見えました。この時、僕はこの世にこんなにもキレイなものがあることを学んだのを覚えています。
その後、僕は、順調に回復に向かっていたが、色鉛筆は、一向に良くなりませんでした。むしろ、体調がどんどん悪くなっていくように見えました。僕は、心配でたまりませんでした。色鉛筆に聞いても、
「大丈夫よ、私は、すぐに良くなるから。また、桜の並木道を歩きましょう。」
っと言うばかりでした。事故から1ヶ月ほどで僕は、退院を迎えました。それでも色鉛筆は、良くはなりませんでした。毎日、病院に通い続けました。雨の日も風の日もです。いつの間にか、一年の歳月が流れていました。僕は、色鉛筆の容態を調べる事にしました。しかし、誰に聞いても
「すぐに退院できるから、心配いらないよ。」
という答えだけが返ってきました。この時の僕は、若すぎました。まだ、本当の悲しい色を知りませんでした。
ある日でした。僕は、いつものように病院を訪れました。ただ違うのは、手に桜の枝を持っていた事という事だけでした。病室の前に立ちいつものようにノックをしました。しかし、いつものような色鉛筆の声は、しませんでした。僕は、ゆっくりドアを開けるとそこには、何もありませんでした。病室を間違えたと思ったのですが、部屋の番号は、合っていました。ちょうどその時、後ろから僕を呼ぶ声がありました。振り向くと色鉛筆がいました。あの時の僕は、何も感じませんでした。ただ色鉛筆が元気になってくれたんだと思いました。
「今日は、あなたに話しがあるの。よく聞いてね。」
なんだか変な気分でした。
「私は、あなたにたくさんの色を付けてきたわ。あなたの人生が少しでも輝いてくれるのを願って。そして、そんな輝いているあなたを見てるのが好きだった。あなたは、私の太陽になっていたの。あなたの人生は、これからも進み続けていくわ。私がいなくても。私は、輝き続けているあなたがいればそれでいい。」
何の話しをしているのかが全くわかりませんでした。理解できないのか理解しようとしないのかがわかりませんでした。
「何も迷わないで。あなたは、真っ直ぐに生きればいいの。私は、あなたを見守り続ける。お別れよ。愛してるわ。」そう言い終わる瞬間にドアがゆっくり開いて、色鉛筆のお母さんが現れました。
「今、逝ったわ。最後まであの子は、生きる事を諦めなかった。ただ、最後にあなたに逢えない事を悔やんでいたわ。あの子は、末期のガンだったの。事故で病院に運ばれて検索した時に発見されたの。あの子は、すべてを知っていたわ。もう二度と戻れないと。」
大粒の涙が流れていました…。
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桜が散っていました。ピンクの鮮やかな色は、ありません。でも、そこは桜で満開でした。しかし、塗り絵には、もう色がないのです。そう、すべてが白黒でした。心の涙がすべての色を落としてしまったのです。塗り絵は、すべてを失いました。そして手には、桜の枝が寂しく握られているだけでした。
どうでしたか?この後の彼がどうなったのか…実は、僕自身の体験談です。今でもその呪縛が解き放たれていません。是非、ご感想をお願い致します。