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うさぎとジャム

作者: 信濃

私の部屋にはうさぎが1匹いる。それはどこにもいそうなうさぎで、目はイチゴみたいに真っ赤で、身体はマシュマロのように白い。そしてよくしゃべる。

「この大岩井のジャムはあいかわらず最高だ。午後のアフタヌーンティーには特に、僕を優雅なひと時にいざなってくれる。君にはできないだろう。この僕を、ここまで至福に包んでくれるのは!」

相変わらず大げさなうさぎだ。

「いいかい、このストレスという魔物がはびこる現代社会において、こういったひと時こそが、生きる意味を与えてくれるのだよ。そして、意味は何より活力を与え、そして脆弱なるわが魂はいよいよ光り輝き、あの狭き門に入ることができるのだ。つまり・・・」

そして、こんなにも大きなことを、そこらへんにありそうなペット用の檻の中でのたまっているのだから、それはそれで見るものに活力を与えてくれるのかもしれない。例えば、女子高生とか。「カワイイー」とやたら甲高い声で言いそうだ。

「君はいつも覚めた目をしている。それはあまりいいこととはいえないよ。なぜなら、それは魂を閉じ込める行為だからだ。わかるかい?」

わからない。そもそも、なぜそこまで言われなければならないのかもわからない。世の中わからないことだらけだ。

「それよりベン、ベンジャミン。今日の大岩井のジャムはどこがそんなによかったんだい?」

私は聞いてみた。この不毛なご高説から少しでも解放されたかったからだ。このうさぎのベンジャミンはしゃべりだすと、とにかくしゃべる。普段は鳴きもしないくせに、自分の好物があるというだけで、どこまでも、それこそ私が昼を食べてから、夕食をとるまでしゃべり続ける。この前はそれで散々なめにあったのだ。

「君も教えを請うという、人間として必要なことに気づきはじめたようだね。」

いやその逆さ、ベン。

「今日の大岩井のジャムの素晴らしさ、それはマーマレードだということさ。君はジャムの中で何が好きかな?」

質問に質問で返された。しかも、ここまでの長い話がマーマレードだという、ただそれだけ。うさぎに答えを少なからず期待した自分が恨めしい。しかしここで答えなかったら、「君の舌は何のためにあるんだ!飾りなのかい!?」とうるさそうだ。うるさいのは苦手だし、何より面倒なので、

「りんご・・・かな。」

と答えておいた。

ベンの目がじっとこちらを見ている。なんだ、何を待っているんだろう。

「なぜだい?」

「なぜって・・・りんごのジャムってさ、なんかにおいがみずみずしいと思うんだ。それにしゃりしゃりとはいかなくても、ばらばらのりんごがそこにはあってさ。なんだか、それですごい得をした気分になれる。だからかな。」

なんで自分でもこんなことを言ったのかわからない。ただ、瞬間的にばあさんが農園をしていて、そこになっているりんごの香りとかみずみずしい赤、そのときの空の青さ、木々の緑、そういったものを一度に感じた。

世界に色が満ちて、弾けている。

それは一瞬のイメージだったけど、ベンは満足そうにマーマレードを口に運んでいる。

「君が今感じたことを、僕はマーマレードを口に運ぶたびに思い出すんだ。だから、僕にとって、これはなによりのご馳走なのさ。味覚だけでなく、視覚、嗅覚、聴覚、触覚の五感全てが喜びに満ちている。この世界に喜びがこんなにも満ちていることを感じられる。それはとても幸福なことさ。」

ベンはまたもや高尚なことを言いながら、今度は黙々とジャムを食べ始めた。


世界は色に満たされ、歓喜に満ちている。


そんなことを柄にもなく思った。

初めて書いてみました。もしお気づきの点がございましたら、お教えください。

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