8話目 適正・選考試験週間【最後の日】
結構滅茶苦茶です。
(結局何も分からないまま、最終日になってしまった・・・・・・
このままじゃ事件の解決なんて出来ねーだろ)
というのが『絶対記憶能力』を持っている少年、海馬巧の適正・選考試験週間の最終日の朝に感じ取った事である。因みに、この事件に関するアドバイスが先日、会長直々にメールが送られていて、そこには『この事件の目的は、「適正・選考試験」だ!』と簡単な内容が記されていた。
(それにしても、今回の事件・・・目的が全く掴めねぇ・・・
いや、全くって訳じゃねーんだが・・・・・・)そう思いながら、巧は、先程のメールを思い出していた。
そもそもこんな事(携帯電話の混線)をする理由が少しも分からないのだ。
護によると、『この事件の目的がセンスだって言うのは結構、当たってると思うから、今週中に動きがあるはず』との事らしい。
だが、巧には、それが今回の事件とどう関係しているか全く見当がつかなかった。
それでも、彼は、記憶の渦―――図書館―――に向かっていった。
彼にとって『思い出す』とは、本棚から本を抜き出すようなものだ。読むように、深く思い出せばそれだけ多大な情報が出てくる、じっくりと思い出せば、細かい情報が出てくる。
そこに書いてある事は、いつまでも変わらない『絶対』に。それが彼の『能力』なのだから。
しかし、『入れる』のは簡単でも『抜き出す』のは容易ではない。探すべき情報がキチンと種類別に分けて、整理されてるならともかく、いつまでも情報を覚え続けている彼の本棚はどうでもいい本でぐちゃぐちゃになってしまう。それ故思い出すのにも時折、時間がかかる。
とはいえ、情報を『覚えていない』のと、『覚えている』とでは、絶対的な差が生まれる。
コレが、彼の他人より圧倒的に、絶対的に勝っている点だった。
そんな彼の脳が至る所まで思い出すときは、常に情報が飛び回っている。
そして、そのせいで整理が難しかった彼に・・・彼の脳に、制御法を教えた少年こそが、護だった―――。
しかし、彼にはそんな時間は無い。中途半端に思い出しかけた記憶を奥にそっと閉まって、海馬巧は思い出し続けた・・・・・・適正・選考試験週間のみならず、今までの高校生活での会話、見た情報、どれか一つでも手がかりを見つけられるように、思い出し続けた―――――。
「それで! 何か手掛かりは見つかったのかよ!?」
場所、時刻は変わり今俺は教室の机にいる。
ついでに今までの一連の件にマモル、隼十、アリスは興味津々だ。
いま喋ったのは隼十だったが、後の二人も同様の質問を持っている顔だった。
そして、少し間を空けて、巧が口を開いた。
「手がかりなんて、まるで分かんなかった☆」
その瞬間、他の三人は吉報を期待してたのが・・・・・・突如、がっかり感に包まれた。
当然その怒りは巧に向かうので、
三人は、当然のように巧の頭を殴った。
「痛ってー!! 本気で殴りやがった!」
「ったく、当然だろ! 何でそんないらねー結果を間を空けて説明すんだよ!」
「別にいいだろ! そうした方が面白そうだったんだから!」
「面白いからって、他人を騙さないでよ!」
「別に騙してねーだろ!」
巧は、隼十、アリスと続いた言葉に律儀に答えた。
「でも・・・・・・。もし、僕達がコウの『頭の図書館』に入ることが出来たら、効率も変わるんだろう
けどね・・・・・・」
「そんな事出来たら感嘆に脳を弄られちまうじゃねーかよ」
「まあね」
「あ~あ・・・ そんな能力が在ったらそれこそ最強無敵なのにな」
「何言ってんのよ! そんなの有り得ないって」
「ははは・・・、まぁな・・・・・・。
もしかして・・・・・・度重なる勉強の苦痛で、頭がおかしく―――」
「元からおかしいだろうが」
「そもそもそんなに勉強して無いでしょうが」
「―――うぐっ・・・・・・
そんな言い方すんなよ・・・・・・」
「はいはい・・・・・・マモル。何か分かったのかよ?」
護以外の3人が他愛も無い会話をしている時、護の思考はある所まで辿り着いていた。
「もしかしたら、犯人の狙いって・・・・・・」
「「「えっ!?」」」
巧達は、驚きの声を高らかに上げた。
「でも、まだ説明は出来ないね。
条件が少ないからまだ殆ど空想の物語だよ・・・」
それでもいいから、という言葉を隼十が発していたがそれを巧が制した。
分かっている、という顔を二人に向けて。
「隼十。気持ちは分かるけど、今知っちまったら先入観が入っちまうだろ?
マモルは俺達に客観的な推理を求めているんだよ」
そうだろ。マモル、という言葉を目で伝えながら巧は静かに言った。
「そう。今 仮に僕が今考えたことを教えたとするよ?
仮に犯人が簡単に分かったと伝えたとするよ?
そしたら、もう隼十はどう言われようと、どう自分で思おうと、結局その人のことを疑うよね?
それだけは駄目なんだ。」
分かってくれ、その言葉を、護は隼十―――だけでなくアリスも―――に続けて言おうとしたが止めた。
もう分かったからだ。
隼十がしっかりと聞いて、分かったという事が。
そして、隼十とアリスの目は護の事を『絶対的』に信じているということが―――。
ふっ、と護は軽く微笑むと、告げた。
「二人はもう関わらなくても良いよ。
試験に集中してて。」
「え、でも・・・・・・」
「いいさ。これは俺達の問題。って言いたいんだろ?」
護はコクンと頷き
「そう。これは僕達の問題。
生徒会からの頼みなんだ・・・・・・」
「おいおい。じゃあオレ達の事はもう良いってのか?」
「・・・・・・逆に聞くけど・・・
隼十君は試験のことはもう良いの?
違うよね・・・
だから・・・」
そこまでで護の言葉はとまった。
まるで、最後の一言を巧に渡すように―――。
「俺達に任せろって!
お前等にも大事な試験が有るんだから」
二人は、そう言うと、教室を出て行った。
だが、隼十とアリスは何処に言ったかは分かっていた。
分かっているからこそ、追う事は諦めていた。
しかし、隼十とアリスは気付いていなかった。
護の先入観の話は隼十が推理をするというのを前提で考えられている事を・・・・・・
それが表す事は――――
因みに、巧は護の事をマモルと呼んで、護はコウと呼んでいます。
ついでに海馬とは、脳の記憶を司る部位で巧の名字もそこからきてます