1話目 国立創見高校
穏やかな陽気と桜の舞う季節、春。やはりこの季節に最もふさわしいのは寝ることだ、とここに居る少年は思う。
今、少年は親友と共に朝のゆったりとした時間を中庭の木の下で過ごしている。
少年の名前は海馬 巧。黒い髪と黒い眼の普通の少年。身長も体重も極々、一般的な普通に居るような高校生、だ。
しかし、この少年、海馬 巧は、入学2週間目で早くもこの学校の苦しさに気づいてしまっていた……。「はぁ。全く、天は人の上に人を作らずとは、よく言ったものだよな 」
苦しさの一番の理由はこの学校が実力で確実な上下社会を構築しているから。
特に、隣の親友を見ると痛感しちまう。
隣に居る少年も、一般的に居そうな少年だが、普通ではない。
背は普通、どちらも大差ない。 体型も、どちらも痩せ型のため、同じ位だ。
なら、何故差が生まれてるのか。それは――――
「ん? どうかした?」
「どうもしねーよ」
「そう? ……何か、泣きそうな顔してるね」
「……そりゃそうだろだってお前が……」
――――この少年が紛れも無い、
「天才で、超絶イケメンなんだからああぁぁ!!」
という、悲しみに沈む少年の叫びが聞こえるが、その通りで、ここに居るもう一人の少年。海馬 巧の親友の名前は、神代 護。
説明が及んでいなかったが、恐ろしく整った顔立ちと眼鏡を掛けていながらもはっきりと分かるような茶色がかかった眼(眼鏡が格好良さを更に際立てさせてる様な気もするが)。
そして、茶色の髪は、前髪は、眼の直上辺り眼で伸ばし、後ろは、首の半分ほど、という髪型にしているのだが、これも……結果は分かっていると思う……。
そして、巧の言うとおり、この少年は、天才である。
「良いよな……。そんなに顔が良いのに、頭も良いなんて……」
「コウだって頭良いじゃん」
「はははは……、それを俺に言うか……
入試最低点数の俺と、最高点数のお前、どっちが頭良い!?」
「でも、コウは―――」
「マモルの方が頭良いに決まってんじゃねーかよ!!」
悲しみを露にして、巧は叫んでいた。
「まぁまぁ、落ち着いてよルックスはコウだって良いんだから」
いきなり話題を変えてきた護に巧は色々と突っ込みたかったが、あえて言わないで、相槌を合わせる事にした。
「……そう……だな」
「そうだよ」
キーンコーンカーンコーンという、古風な音が聞こえてきた。勿論、朝の始まりを告げる音である。
さっきから、ゆったりとしているのだが、朝にのんびりしてただけなのである。
したがって、この二人は急がないといけない。
この学校は、有名な学校である為に、とても広い。しかし、生徒数もそれ相応に多い………今は。
「ほらさっさと行くよ」
「ちょっと待てよ」
そうして二人は学び舎(教室)へと向かっていった。――――
余談だが、先程使われたチャイムは、音こそ古いが、新しい技術や、数々の計算がされていて、校舎の何所に居ても確実に聞こえるという造りになっている。
……はぁ、何でこう、うちの学校は無駄に広いのかねぇ、と巧が適当に考えながら走っているので、この学校の説明をしとこうと思う。
ここは国立の創見高校、国内レベルの超エリート高校だ。そこには、数々の最新設備が整っていて、学力もとても高い。全国模試では、上位など当たり前。
更に、スポーツ関連の設備も整っていて、全国に名を轟かしている。
正に、文武両道の高校で名が知られている………のだが。
この高校は……いや、ここと同じレベルの高校は、他に五つあり、東京とは、創見高校だけだ。そういう高校は、始めに、勉強選科と体育選科に分ける。それによって、どっちかに特化して人材を育てるのだ。
その為、まさにこの国の教育機関の中心、重要機関だ。誰が名づけたかは知らないがIEI【Important(重要)an Educational Institution(教育)】機関と言われている。そのIEI機関の学校にある。
先程述べた制度は、創見高校から始まっているので、IEI機関の始りと呼ばれる。
そうこうしている間に、巧は、教室についた。
「おっ、やっと着いたな。マモ……ル……??」
「えっ!? 何でいない?」
やっと行き着いた先には教室があったが先ほどまでいたマモルの姿は無い………?
「はいっ!? もう時間じゃねーかよ!!」
ガラガラと、古風な音と共に明らかに嫌味な顔をして、スーツに身を包んだ細身の人物が出てきた。
「何です?騒々しい!」
ちっ、出やがったコイツは担任の先公だ。そして俺の一番嫌いな先生・・・、と巧は、心の中で悪態をつく。
だが、この少年、海馬巧は、そもそも、この学校の先生(知っている限り)が嫌いだった。
(こんな風に、実力・能力優先主義な所がイラつくんだよな……)
もちろんこの担任も例外でなく……嫌いだ。
「は~、またあなたですか。そんなに遅刻を繰り返していると間違いなく篩い落とされますよ
特に落ちこぼれは」
殴り掛かろうとして、前のめりになる巧だったが、頑張って抑える。
「はい。すみませんでした」
と言っておくが、巧はそんな事少しも思っていない。
「まあ困るのはどうせ遅刻を繰り返す落ちこぼれでしょうし……」
そんな事を言われるのもすっかり慣れてしまった巧。
原因の八割が自業自得だというのを気付かないところこそが、こう言う風に言われる原因なのだろう。
そもそも、本当に落ちこぼれていて、入試時の合格者の点数で、最も悪かったのは巧なのだから。
そして、この少年はそんな些細なことにも気付かず、今日の授業もまともに聞いていない。
「――――よしっ。今日はここまでだ」
やっと終わったー、と巧は心の中で叫んだが、周りの空気は真面目で、授業が終わって帰るだけだというのに、机に噛り付いている。
幾ら有名校だからって全生徒がそこまでするか? と言う疑問が湧くだろう。最もだ。
明らかに、入学したばかりの学生とは思えない。
「帰ってから勉強しとけよ。来週には『適正・選考試験』、別名『センス』だからな、この学校は自分の所に適さないとみたら即刻切り離すからなー」
その理由がこれなのだ。
ゴクッ、と多くの生徒が生唾を飲んだが、巧は、澄ました顔で適当に見ている。
(ふーん、そんなに緊張するもんかねぇ。
まっ、それもそっか、ある意味これからの人生にダイレクトに関わっちまうからな……)
その理由は、試験の名前から分かるようにこの学校では受験をしたにも関わらず、適正及び選考の試験が行われる。適正は、選考と思われがちだが、教育選科と、体育選科に分ける。因みに、そのように分けられている生徒は、全体の1~2割だ。
しかし、この学校は、教育と体育に分けたからって、勉強内容に変わりがある訳ではない。元々、体育選科の奴なんかは、何かしらの部活に入るのだから(入学してから約一ヶ月の間、一年は部活に入れない
)。
だったら何故、こんな制度があるか。
それは、この、大きい学校に色々な生徒が入ることに起因しているのだが、この学校には時々、特別と呼ばれるものや、十年に一人の逸材と呼ばれるようなものが入ってくる。
そういう生徒を調べると、他の人とは違う『能力』を持っていることがあった。
結局、IEI機関とは、そういう『能力』を持った生徒を調べる国家プロジェクトだ。
しかし、能力と言っても、格闘漫画のように、戦える超能力ではない。ただ、その生徒の優れすぎた長所を調べるだけだ。
そんなことを生徒や保護者に伝えるはずは無いので、表向きは、学校の生徒にふさわしいかを調べる試験として、もう一つの入試としているが(実際に、3~4割が落とされる)実体はその生徒がある程度の『能力』を持っているか、『能力』がどの程度で職員から見てどれくらい期待できるかを調べて段階(ラ
ンク)分けするための選別である……。
「だからこの試験、『適正・選考試験』が、入試よりも難しいんだよねー」
「どわっ!!? いきなりなんだよ!!」
「なんか、コウが色々考えてたからね。それよりも」
いきなり声を掛けてきたのは、神代護。
本来の目的は巧に『さっさと帰ろう』と言うつもりだったのだが。
そして巧は、一応話を聞きたいので、何? と続きを促す。
「それよりも、その『適正・選考試験』に関連することなんだけど、この学校は、3~4割程度の生徒を落とすじゃん? そういう生徒とは逆に、落とされるんじゃなくて、更に上にも選ぶらしいよ!」
「何かと思ったら、結局実力主義の学校様がやりそうなこった。エリートの学校の中の更なるエリートを選ぶってことだろ?」
「まあそういうこと。そういう生徒が時々出されるらしいよ。ものすごい数から厳選されてるけど……」
「あぁ。去年は三人だっけ? この学校もイカレてんだろ。殆どマンモス校だろ。いくら子供の数がまた急激に増え始めてるからって、入試で取りあえず1000人入れて、その中から五月に一気に落とすって……。それでも、一学年700人ぐらいになんだろ?」
「しかも、一年、二年、三年で、校舎も別れてるし、全部1000人許容できるくらいに設計されてるから二、三年は校舎が余ってるらしいよ」
「で。そんな中から選ぶ難関の道ってか? てゆーか知ってんだけどその話!!」
「でも、その中から選ばれる人たちの総称を知らないよね?」
ふふふ、と意味ありげに笑った後、護は続けていく。
「その名も」
【天才達の会合】
そう護が言った。
多くの生徒には聞えなかったらしいが、近くに居る生徒は身を硬くしている。
何故だろう? 巧は端的にそう思った。
そして、その記憶を脳に刻み込んでいく。
「まあ、そんな話はいいからさっさと帰ろうよ」
いきなり話を変えたが、元はこれが目的だったからしょうがない。
巧はそう判断して、帰ろうとしたが、
「あっ! 神代護だろ?」
いきなり護に話しかけて来る男が居た。
中々良い体つきをしていて、身長は180くらいだ。
「そうだけど……何?」
「いや、あのなッ……。若干言いづらいんだけど」
何やねん、と巧は心の中で呟く。
「勉強教えて下さい!」
「……いいよ。だったら今日、家においでよ。教えてあげるから」
「いいんだッ!? 意外とアッサリ!」
「うっるせーな! 耳元で何時までもしゃべんじゃねー!!」
「なんだよー! オレが喋っちゃわりぃか?」
「うっせーからボリューム下げろ、つってんだよ!」
「はッ!? てかお前誰だよ?」
「このタイミングで聞くとは。馬鹿の極み!!」
「黙れ!」
「けっ! 他人に勉強教えてとか言ってるだけで既に馬鹿なんだよ、てめーは!」
「てめー、じゃねーよ!! オレには天原隼十ッつー名前があんだよ!」
「タイミングおかしいって言ってんだろ! 『馬鹿の極み』!!」
「名前みたいにいってんじゃねーよ―――」
「…………………………………………………………(黙れ)」
微かな声で、笑顔で言っただけなのに、巧と隼十は硬直する。
「うるさいのは二人ともだし、だから仲良くすること!」
「「なん―――」」
で、とあと少しの所で、凄まれた二人はまた硬直する。
「すること!」
「「はい……」」
「じゃ、二人とも、うちに来てね!」
とぼとぼと、護に引っ張られながら歩いている二人は同じ事を考えている。
{強くなろう}と。
「―――一話目、地味じゃない?」
「そうだな……」
「え? それって、どういう―――」
「「知らなくていい!!」
道路の真ん中で、三人は、騒ぎ立てながら帰っていく。
これからは、こんな馬鹿騒ぎが続く。それが物語の始まり。
―――これは、一風変わった高校と不思議な『能力』。
そんな因果と歴史に巻き込まれていく、少年少女の物語である―――。
主人公2人の名前は、『海馬 巧』
『神代 護』です。
あともう一人主人公を出す予定です。さらに、今回野郎だけでサムかったので、女の子を出すつもりです。お楽しみに~