ネジとおがくず
あの日をよく覚えています。
僕は疎開先で自分の家の方を眺めていました。
空が真っ赤になってしまっていたんです。
僕の家と疎開先がどれくらい離れているか分かりませんでしたけれど。
それでも家の方に爆弾が落ちているのだけは分かりました。
泣いている子も居たと思います。
だけど、あんまり記憶にありません。
多分ですが、僕自身が空を見るのに夢中だったんだからだと思うんです。
子供心にですね。
自分の家は大丈夫だろうか、とか。
父や母は無事だろうか、とか。
そんなことばかり考えていました。
まぁ、考えていても仕方ないのですけれど。
それでも考えてしまうんですね。
子供ですから。
赤い空の方ばかり見て。
数日後。
疎開先に父がやってきたんです。
はい。
生きておりました。
運が良く。
父は家どころか住んでいるところ全部が焼け野原になっちゃったと教えてくれました。
それでも、父も母も無事だったんですよ。
本当に良かったと思います。
でも何にもなくなっちゃったって言うんもんで、実際に父は長い棒しか持ってきていなかったんです。
そう。
長い棒。
先っぽにバケツを括り付けて。
はい。
バケツです。
何が入っていたと思いますか。
実はですね。
僕の家の隣が飴を作っておりましてね。
まぁ、そこも空襲でダメになっちゃったんですが。
でも、そのせいで飴が全部溶け出してですね。
大きな一つの塊になっちゃっていたんです。
父はその塊の一つをバケツにいれて持ってきたんですよ。
父はね。
僕や弟。他の子供達にバケツの中を見せて言ったんです。
これ。どうすればいいと思う?
って。
バケツの中の飴は酷いもんでした。
なにせ、崩れた建物から拾ってきたもんだから、飴の中にはおがくずやらネジやらとにかく色々と入っていたんですよ。
おまけに固まっちゃっているもんだから取り除くことも出来ない。
これ。どうすればいいと思う?
父はそればかり聞くんです。
そこで僕は考えに考えて言ったんです。
お父さん。これを溶かしてみよう。
って。
するとね。
父はニッコリ笑ってバケツの中身を溶かしてくれたんです。
飴がだんだんと軟らかくなってくるとね。
ネジは重いからバケツの底に落ちていって、おがくずは軽いから反対に上へ浮いてくるんです。
おまけに軟らかいものだから僕達はそれをすくうことも出来る。
僕はね。
あの時に食べた飴の甘さをよく覚えていますよ。
こんなに甘いものがあったんだ。って。
今でもよく思い出せますから。
子供ながらによく思いついたなって。
落ちていくネジと浮いていくおがくず。
あの瞬間を今でも――。




