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いもむし

「Liveには来るなよ!」


いつもこうだ。今日こそ行こうと思ってたのに。。。先制攻撃だ。


あたしが彼女って事が恥ずかしいんだ。



セイはあたしが高校生の時から追っかけしてたバンドのギタリスト。




Liveを聴きに行った時、まだ売れてない新人のバンドがタイバンでいくつか出てたんだけどその中で いかにもヴィジュアル系バリバリのバンドに魂持ってかれた。


歌詞はあんまり良くないけど メロディラインとボーカルの声がいい。


そのバンドのギターやってるセイがかっこ良くて猛烈にアタックした。


作曲もセイだって事わかったら余計好きになった。


かなりのプレゼントをしてお金を使ったし、かなりのきわどい奉仕もした。


あたし体とテクニックには自信あるんだ。



彼が喜んでくれる事なら どんな事でも頑張って出来ちゃう。


お金だって援助するし。




卒業と同時に家を飛び出して 彼の為に風俗で働いてる事も全然苦じゃない。



あたしのマンションにセイが住むようになって3ヶ月になるけど まだバンメンに紹介してくれない。

仕事とプライバシーはきっぱり分けるんだって。



あたしはみんなでわいわい鍋をつついたり 遊びに出掛けたりするのが夢なんだけどな。



セイはバンドのミーティングと称して飲み会にしょっちゅう出掛け帰って来ない時もあるらしいけど、あたしはどうせ仕事だから気にしない。


朝か昼過ぎに帰ってきてくれて 同じベッドで眠れたらそれでいい。




セイがいてくれるだけであたしは幸せ。




ただセイはあたしと連れ立って歩く事をしてくれないのが寂しい。



「お前、化粧しないで歩くのやめろよ。」




そう、あたし化粧嫌いなの。 なんか1枚多く着込んでるみたいで 顔が重くて。


「化粧しないといもむしみたいだな。お前。」



ひどいよ!セイ!  でも確かにつるんとした顔に 小さい目だからなあ。。。


でも肌はいいんだよ。きめっていうの?それが整っていて色白だし、シミなんてどこにもないんだから。



美人じゃないから一緒に歩いてくれないし 紹介もしてくれないのかなぁ。。。



そこであたしは決意した。  



整形して美人になるんだ!!


そうしたらセイはもっとあたしのこと見直してくれるかな。




ホットペッパーで病院を探す事にした。








セイが一緒に歩いてくれるかわいい女になりたくて


整形手術してくれるところを探した。


ホットペッパーには載っていないんだ、エステは載ってるのに。


仕方ないからインターネットで近い所で良さそうなところを探した。




その中で雰囲気が良さそうなところがあったから早速電話で予約を入れた。


電話の応対も感じ良くて 期待度が上がった。



病院はビルの5階にあった。



あんまり人の出入りがないのは 完全予約制だからかな。



入ってみると ピンクを基調にした暖かい雰囲気で 問診表に名前を書いた。


次に個室みたいな狭い部屋に通されて テーブルを挟んで看護婦師さんとまずカウンセリング。


何をしたいのか希望を聞かれた。


あたしはまずこの小さな目を素敵な大きい目にしたいと答えた。


例えば?と聞かれ 綾瀬はるかさんの目と答えた。


それと鼻を高くしたいと言った。


看護婦さんは小さく頷き お待ちくださいと言ってドアから出てった。


あたしはそこにあった整形前後のモニターの写真をパラパラとめくって見ていた。


そこには小さく音楽が流れていて、あたしには何の曲かさっぱり解らなかったけど たしかヴァイオリンの曲だったと思う。




しばらくしてから 名前を呼ばれて 診察室へ入った。


中年の先生が椅子に座り カルテを見ている。


「二重の手術ですね。」


あたしが頷くと 「埋没法と部分切開法と目頭切開があります。」


さらに先生は続けて 「パンダ目形成もありますよ、たれ目になるように。」と付け加えた。


さっきの看護師さんちゃんと伝えてくれたんだ。



あたしの顔を見ながら 先生は シュミレーションしてくれる。


そして 目頭切開で目を大きく ミニ切開法で二重にする事にした。



パンダ目は まず一度二重になってから考える事にした。


鼻も 二重が完成してから考える事にした。


まずは目だ。大きな目。あたしの憧れ。。。




来週手術の予約をして家に帰った。




セイには内緒で手術をして びっくりさせてやるんだ。




両方の手術をして52万円。



もっと頑張って仕事しなくちゃ。








セイがツアーに行ってる間に目の手術をした。




すごい!自分じゃないみたい!!


大きな目になった。


直後は少し腫れて違和感があったけど思ったよりも目立たないかな。


それでも仕事は抜糸まで1週間休んだけど。



傷はまだ少し赤味があるけど 化粧で隠れるから全然気にならない。


人の印象って目力で随分変わるって事が今更ながらわかった。


前は整形する事に抵抗あったけど 受けてみたら 化粧と同じ感覚だった。


この間迄ぐりぐり目の周りをアイラインで描かなきゃ目が大きくならなかったけど、もう今は描かなくても良くなったからお肌にとってはむしろいいかも。



なんだか目の前がぱぁーっと明るくなった感じ。


視界も広がったのかなぁ。



あと1週間でセイが帰って来るけど、びっくりするだろうな。





だんだん自分の大きな目に慣れてきて 魅力的に見せるための化粧も上達した。



そしたら昨日 駅でスカウトされちゃった。ニュークラブのホステスだって。


最初はアルバイトだから気楽に働いていい、って言われたから行ってみようと思う。


風俗よりきれいな仕事だし。



でもあたしおしゃべりは苦手だけど大丈夫かなぁ。






次の日そのお店に行った。


お店は綺麗にライトアップされてて大人っぽい雰囲気。


さっそくスタッフの一人に仕事の流れを説明してもらい、先輩のホステスさんと一緒にテーブルについた。



おしゃべりしなくてもいいから 灰皿替えたりテーブルの上の事だけしてて。と言われた。



あたし自慢じゃないけど 片付けたり補充したりするの得意なんだ。


テーブルを拭いたり 灰皿替えたり グラス片付けたりしてるうち その日は終わった。


疲れたけど なんとかやっていけそうかな。


日給18000円貰った。ふ〜〜ぅ。



さらに1週間あたしはそこでヘルプとして働いた。






セイが夜中にツアーから帰って来た。


予定よりも3日遅れた。



玄関で迎えると まじまじとあたしを見ている。


『ふふっ。いつもと違うでしょ。』声に出さずに笑った。



「お前なんか雰囲気変わったな、化粧したのか?」



まったく、セイは観察力がないんだから。整形したとは思ってないみたい。



「そうだよ。化粧に目覚めたんだよ。」と知らんふりして言った。



ツアー帰りにしては荷物が少ないな、身軽だな。と思っていると、ごはんを食べた後 セイが


「今度またツアーに出るんだけど 20万用意してくれるかな?」と言った。


「いいよ。明日用意しておく。」


その晩 あたしは久しぶりに抱かれた。


セイは疲れてるのかあたしから離れると すぐに鼾をかいて寝てしまった。


帰って来るの楽しみにしてたのに。。。




でもあたしも仕事で疲れててすぐに眠っちゃった。


明日銀行行かなくちゃ。整形でお金使ったから貯金も少なくなってきたし しっかり仕事覚えて稼がなくちゃ。








まだセイが寝ているうちに銀行へ行った。


今迄も何度かお金を用立てているけど 今回1度に20万円というのは初めて。


でもツアーってお金かかるでしょ、きっと。他のバンメンも普段は何かしらのバイトして生活は大変みたいだし。。。



うちに帰るとまだセイは眠ってたから 簡単な食事を作っておいて あたしは途中のコンビニで買って来た新聞を開く。



お店では会話はまだ殆どしないけど お客さんとの会話に付いてくのにいろんな事を知ってないと相づちも打てないし。




昼過ぎにやっと目が覚めたセイは あたしの用意したお金を片手に持ち、もう片方の手であたしを抱いて耳元で「愛してるよ、サンキュー!」と言った。


「ごはん 暖め直すね。」と言ったけど、セイは「これからミーティング。」と言ってまた出てった。









お洗濯したり お掃除したりしてるうちにもう夕方。


お店に行く支度しなくちゃ。


お店には専属の美容師さんがいるけど あたしみたいな新人はちょっとまだ遠慮しちゃう。


だから美容室に行って簡単にセットしてもらわなきゃならない。


ドレスも気を使わなくちゃならないし、思ってたよりも自分の身の回りにお金がかかる。


ドレスはレンタルもあるらしいけど 毎回高いし、同じ黒のミニドレスを2着買った。


それを交互に着回して制服のようにした。


化粧はどんどん上達して かなりナチュラルに綺麗に見える様になった。


お店ではまだヘルプだけどだんだん周りの事も見えて来て、お姐さんたちに派閥があることもわかった。


あたしは関係ないけど、足の引っ張り合い、客の奪い合いもあったりして、怖いよ〜、女の世界。



それから2ヶ月。


セイからはなんの連絡もないまま過ぎていた。


最初はあたし、メール何通も出したり、電話もかけてたけど音沙汰ないからもうやめた。


だんだん自分が虚しくなって来るから。


今迄のメールの履歴も全部消した。もう昔のメールを見て感慨にふけるのは止めよう。


お金の事もセイの事も もう考えない様にした。用事があれば向こうから連絡して来る筈だから。




あたしは今の仕事がだんだん面白くなってきていた。


あたし人の顔と名前覚えるの得意だって事にびっくり。


一度来店してお話した人の事は殆ど覚えてる。


だから次に来店した時に お名前で話しかけると大抵感心されたり驚かれたりする。


その時お話してた内容も 家に帰ってからノートにつけておくと頭の中が整理されてすごくいい。




男の人って、みんな感心したり褒めてもらうのが好きみたい。


あたしは他の事何にも知らないし出来ないから ただホントにお客さんのお話の内容に感心してるだけなんだけど。。。


ただ 驚いたり、頷いて聞いてるだけなんだけどな。




だんだんあたしを指名してくれるお客さんが増えて行った。


それと同時にあたしに嫌がらせして来る女も出て来た。



この前は客の前であたしのドレスがいつも同じだとけなされた。


「この子、入店してからずっとこのドレスなの。相当男に貢いでるからお金ないのよねぇ。」


時にはわざとドレスにお酒をこぼされたりした。


でもそんな時同じドレスだとクリーニングに出してももう片方あるから便利。


同じドレスをいつも着てるとお客さんもすぐ覚えてくれてるから一石二鳥だし。




あたしは瞬く間に売り上げトップのホステスになった。





ある日同伴で食事してた時 ふと店の外に目を遣るとセイがいた。



知らない女の腰に手を回して仲良さそうに歩いている。



昔のあたしならきっと店からセイの所迄駆け出して行って泣いただろうけど、今のあたしは 『ああ、やっぱりね。』って納得してしまう。


もうあの男に未練なんてすっかり無い事に逆に驚くよ。




あんなに好きな男だったのに。


好きになる気持ちって変わるんだね。自分が変わったからかな。。。




目の前の同伴のお客の方に向き直ったあたしは にっこりと微笑んだ。







ある日 指名されたテーブルに着くとそこには初めてのお客さんがゆったりとソファーに座っていた。


「キミの評判を聞いて 来たんだよ。」


彼はここの常連さんからあたしの事を聞いて興味本位にお店に来たらしい。


歳の頃は40歳位の身なりの上品な男だった。


話し方もゆったりと 優しかった。



しばらくお話してお互いに情報を聞き出している様に感じながらも 話は弾んだ。



そして彼はとんでもない事を言い出した。



「実は私はあるクラブのスカウトマンなんだよ。


こうして敵地に乗り込んでのスカウトはタブーなんだけど どうしてもキミの様子をこの目で見たかったんだ。


キミさえ良ければ 今度うちの店に来てみないか?キミならトップホステスにすぐなれるさ。」



こんなこと店の中ではっきり言うなんて この人どうかしてる。


もしスタッフに知れたら大変な事になるのに。。。



あたしは この人に危害が加わらないうちにお帰ししようと思って 「わかりました。伺いますから、きょうはお帰りください。」と小声で答えた。


彼は電話番号を書いたメモを渡しながら あたしの手を握って 


「待ってるよ、絶対に今より悪い様にしない。ママに自信持って紹介出来る人だ。きっと気に入ってくれる筈だよ。」






それから3ヶ月 あたしはかなり有名なクラブで働いている。


洋服も派手派手じゃなく 地味だけど上品になった。


化粧もナチュラルでしかも凛としたものになり かなりあたしは変わった。



勉強もしている。今は英会話も得意になって お客様の接待する外国人の方ともお話が弾む様になった。


お客様の望んでいる事が何かを的確に捉えて さりげなくサービスし、その場に合った楽しい会話をして 同時によい聞き手でもあるよう節度を守る。



通信大学で経営学も勉強している。



夢はあたしのお店を持つ事。




あたしだけの城。




夢を夢で終わらせない様更に努力と勉強が必要だけど あたしはきっとやり遂げる。



あたしの人生はこれからだ。



もう誰にもいもむしなんて言わせない、 あたしは蝶になるのだから。





  終わり



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