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元女王様Vアバター(中身♂)の皇女、奈落で配信中。~視聴者は最新VR神ゲーだと思ってますが、投げ銭がないと死んでしまいます~  作者:


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23/23

第23話:英雄の遺骸(マリオネット)は『エンジンカッター』で両断し、魔女の詠唱は『路上ライブ』でジャックする

 第11層『凍てつく墓標』。

 80万ルーメンの暴力的な閃光が、まだ網膜に焼き付いている。

 4基の巨大投光器によって「真昼」以上に照らし出された雪原は、いまや一つの「ステージ」と化していた。


 だが、そのステージに立っているのは、アイドルでも聖女でもない。


 ブチ切れた魔女だ。


「……よくも。よくもボクのステージ(暗黒空間)を壊したね」


 リリィが、ゆらりと顔を上げる。

 先程まで浮かべていた、愛らしい少女の笑みは消え失せていた。

 そこにあるのは、無機質な殺意の器。

 彼女の背後から、漆黒の魔力が陽炎のように立ち昇り、周囲の雪を一瞬で黒い泥へと変えていく。


「オモチャはいらない。……殺して、ネロ。挽肉にして」


 その命令トリガーが、英雄を再起動させる。


 ゴオオオッ!!


 光で視覚が封じられているのネロが、迷いのない動作で地面を蹴った。

 速い。

 目が見えていないのではない。


「殺気」だけでガイルの位置を完全に捕捉しているのだ。


「させるかぁぁぁッ!!」


 ガイルも咆哮する。

 右腕の『紋章』が赤黒く発光し、筋肉が膨れ上がる。

 人間の限界を超えた速度で、迫りくるネロの剣を、二振りの双剣で受け止める。


 ガギィィィィンッ!!!!


 激しい金属音。

 衝撃波で周囲の雪が円形に吹き飛ぶ。


「くっ、ぐぅぅぅッ……!!」


 ガイルの足が、凍土に深くめり込む。

 力負けしているのではない。

「道具」が悲鳴を上げているのだ。


 バキッ、メキメキメキッ……!


 ガイルが持つ鋼鉄の双剣に、無数の亀裂が走る。


「ダメです、ガイルさん! 受けちゃダメェッ!!」


 リーナの悲鳴が響く。


「あれは……伝記にある『魔王殺し』の剣! アーティファクトです! ただの剣じゃ、物質としての概念強度レベルが違いすぎます!!」


 リーナは絶望的な格差を看破していたのだ。


「硬度が……違いすぎるッ! 俺の出力パワーに、武器が追いつかんッ!」


 ガイルの言う通りだ。

 例え紋章によって肉体を強化していても武器の硬度までは硬くならない。

 絶望的な物質強度の差。


 次の打ち合いで、ガイルの剣は粉砕され、そのまま彼自身も両断されるだろう。


(……硬度なら科学の力で覆せる!)


 投光器の陰で、俺はサングラス越しに舌打ちをした。

「伝説の剣」? 「折れない心」?

 精神論で物理法則をねじ曲げるな。


 硬いなら、それ以上に硬いもので削ればいい。


「……見てられないわね。いつまでそんな『ナマクラ』を使っているの、ガイル!」


 俺は叫ぶと同時に、足元のAmazoneウィンドウを勢いでタップした。

 選んだのは、剣でも槍でもない。

 人類が「破壊」と「創造」のために生み出した、解体現場の暴れ馬だ。


 購入確定。


 ドスンッ!  ガソリンの臭いと共に、武骨で巨大な機械塊がガイルの足元に出現する。


「レン様、これは……!?」


「剣じゃないわ。『切断機カッター』よ!」


 俺が投げ渡したのは、[DIY・工具 > 電動工具 > 切断工具] カテゴリ。


 『業務用・エンジンカッター(350mmダイヤモンドブレード搭載)』&『混合ガソリン缶(予備)』


 キャッチコピー:『鉄筋コンクリートもH鋼もバターのように! 圧倒的トルクで全てを噛み砕く、プロ仕様の破壊力!』


スターターを引いて! 刃を押し当てて、トリガーを握り潰しなさい!」


 ガイルは一瞬戸惑ったが、主の命令に迷いはない。

 彼は双剣を捨て、エンジンカッターのハンドルを掴んだ。


 ブルルッ……ドルルルルルルルルッ!!


 重低音が雪原に響く。

 エンジンの爆発的な振動が、ガイルの腕に伝わる。


「な、なんだこの猛獣は!? 剣が……唸っている!?」


「来るぞガイル! 正面だ!」


 ネロが、トドメの一撃を振りかぶっていた。

 回避は間に合わない。

 ガイルは覚悟を決め、咆哮と共に回転する円形の刃を突き出した。


「うおおおおおおッ!!」


 ギャギギギギギギギギッ!!!!


 剣戟の音ではない。

 工事現場の切断音が、戦場の空気を切り裂いた。


 回転するダイヤモンドブレードが、英雄の剣に食らいつく。

 凄まじい摩擦熱。

 シャワーのような火花スパークが噴き出し、雪原の夜を灼熱色に染め上げる。


 ガイルの力と、エンジンのトルク。

 二つの力が一点に集中し、異世界の金属を物理的に「磨耗」させていく。


「斬るんじゃない! 削り切る(グラインド)のよッ!!」


 俺は自然とガイルにアドバイスをしていた。

 ガイルがさらにアクセルを吹かす。


 ギュイイイイイイイイイッ!!


 乾いた音が響いた。

 赤熱した英雄の剣が、切断され、雪の上に落ちた。


「やったか……ッ!?」


 ガイルが叫ぶ。

 武器を失えば、いかに英雄といえど――。


 甘かった。

 相手は、魔王軍幹部の操り人形で英雄だ。


 バシィッ!!


「な……ッ!?」


 ネロは止まらなかった。

 剣を折られたその勢いのまま、高速回転するダイヤモンドブレードを、「素手」で掴んだのだ。


 ギャリガリガリガリッ……!!

 火花が散る。だが、切れない。

 エンジンの回転が強制的に止められ、駆動ベルトが焼き付く異臭が立ち込める。


 プスン……。


 エンジンカッターが黒煙を吹いて沈黙した。

 ガイルが戦慄する。

 鉄骨すら断つ文明の利器を、握力と魔力だけで止めたというのか。


(……マジかよ。化け物ってレベルじゃねーぞ)


 俺は背筋が凍るのを感じた。

 だが、絶望している暇はない。

 本当の地獄は、後ろ(・・・)から来る。


「……ネロが手間取ってるなら、ボクがまとめて消すよ」


 リリィだ。

 彼女は杖を天に掲げ、この世の終わりみたいな色をした魔力を練り上げていた。


「あ、あぁ……嘘、だ……」


 リーナが腰を抜かし、その場にへたり込む。

 魔導士である彼女には、理解できてしまったのだ。

 今、リリィが構築している術式のデタラメな規模が。


「あれは……詠唱魔法! それも、先程の『暗黒空間』なんて目じゃない……! 第13位広域殲滅魔法です!! この階層ごと、私たちを『無』に帰すつもりですッ!!」


「深淵の底より這い出でよ。嘆きの声、死者の怨嗟……」


 空気がビリビリと震える。


 (やばい。あれ撃たれたら死ぬ。防御不可避(ガード不可)の即死攻撃だ)


 ガイルはネロに抑え込まれて動けない。

 俺が止めるしかない。


 だが、どうやって?

 必要なのは――強烈に、彼女の詠唱を邪魔ハッキングする事だ。


 俺はニヤリと笑った。


 あるじゃないか。

 前世の俺が、喉を枯らした「アレ」が。


「あー、BGMが暗いのよ! クライマックスなら、もっと盛り上げなさい!」


 俺は、震える手で最後の切りカードを切った。


 購入確定。


 ドカァァン!  俺の左右に、巨大な黒いタワーが出現した。


 『業務用・野外イベント用ハイパワーカラオケシステム(3000Wウーファー搭載)』

 『ダイナミックマイク(有線)』


 キャッチコピー:『絶対に届く、あなたの歌声。脳に響く重低音で、オーディエンスの思考をジャック! きっとみんなは夢中!』


「聴きなさい、愚民ども! 今宵は特別よ!」


 俺はスピーカーに片足を乗せ、マイクを握りしめた。

 サングラスの奥で、かつての「クリムゾン・クイーン」の魂が燃え上がる。


「『女王様のゲリラライブ』開催だぁぁッ!!」


 スイッチ・オン。

 俺が選曲したのは、前世で擦り切れるほど聴いた、ロボットアニメの激熱オープニングテーマ(の替え歌)。

 イントロはない。いきなりサビから入る!


「♪~~~~~~~~ッッ!!!」


 爆音。

 そして――絶唱。


 腹の底から響くビブラート、完璧なピッチ、そして感情過多なシャウト。

 3000Wのスピーカーから放たれたその「音の暴力」は、雪原の空気を震わせ、リリィの鼓膜へとダイレクトに突き刺さる。


「……全てを無に帰す、終焉の――って、うるさぁぁぁぁぁぁいッ!?」


 リリィが絶叫した。

 だが、俺は止まらない。


「♪燃え上がれぇぇぇ! ソウルぃぃッ!  ♪切り裂け闇を! 鉄の腕でぇぇッ!」


 Amazoneのキャッチコピーは伊達ではなかった。

 『みんなは夢中(強制)』。

 その効果により、リリィの脳内では、詠唱の文言よりも俺の歌の歌詞が優先処理されてしまう。

 シリアスな呪文の途中に、熱苦しいアニソンのフレーズが割り込む地獄。


「ちがっ、違う! 頭の中で『燃え上がれ』って響くぅぅッ!」


 リリィが頭を抱えて悶絶する。

 魔法の光が明滅し、制御を失って暴れ始める。


『なにしてんのwww』

『歌うめぇぇぇ!』

『なんでライブ始まったし』

『リリィちゃん可哀想ww』

『これは精神攻撃』

『強制リスナー化』


 コメント欄がカオスに染まる。

 戦場はもはや、血なまぐさい殺し合いの場ではない。

 火花散る(ガイルVSネロ)をバックにした、狂乱の野外フェス会場だ。


「もういい! うるさい! 消えろぉぉッ!!」


 リリィの堪忍袋の緒が切れた。

 彼女は詠唱を放棄し、制御不能な魔力の塊を、そのまま俺たちに叩きつけようとする。


(……やべ、調子に乗って煽りすぎたか!?)


 俺も歌いながら冷や汗をかく。

 来る。あれは防げない。


 その時だった。


 ズウン……。


 戦場全体に、物理的な重力を超える、冷たく重い「圧力」が降ってきた。

 音ではない。


 脳の芯を直接握りつぶされるような、絶対的な畏怖。


 リリィの動きが、ピタリと止まる。

 暴走しかけていた魔力が、瞬時に霧散させられた。


『――リリィ。何をしている』


 空から声がしたわけではない。

 だが、その場の全員が理解した。


 これが、頂点。

 魔王の声だと。


「っ!? あ、魔王様!?」


 先程までの狂乱が嘘のように、リリィが直立不動になり、虚空に向かって慌てふためく。


「ち、違うの! 面白いオモチャを見つけたから、ちょっと壊して遊ぼうかなって……」


『……予定時刻だ。戻れ』


 有無を言わせぬ響き。


『「計画」に遅れるな。……戯れは終わりだ』


 それだけ言い残し、圧力は波が引くように消えた。

 残されたのは、静まり返った雪原と、青ざめたリリィ。

 そして、マイクを持ってポーズを決めたまま固まっている俺だけだ。


「……ちぇっ」


 リリィが、子供のように頬を膨らませて杖を下ろした。

 彼女は悔しそうに足元の雪を蹴り飛ばすと、俺をキッと睨みつけた。


「……魔王パパから帰れってさ。命拾いしたね、お姉さん」


 彼女が指を鳴らすと、ネロがガイルを解放し、リリィの背後へと戻る。

 その右腕には、エンジンカッターによる傷が深く刻まれているが、倒れる気配はない。


「今日は『お預け』にしてあげる」


 リリィの体が黒い霧に包まれていく。


「次はダンジョンのチジョウで会おうね。そこなら、パパに怒られないから……ボクも本気が出せるし」


 最後に、彼女は最高に邪悪な笑顔を残した。


「次は絶ッ対に、その喉笛噛みちぎってあげるからね。……バイバイ」


 フッ、と霧が晴れると、そこにはもう誰もいなかった。

 ただ、荒れ果てた雪原と、壊れたエンジンカッター、そして静寂だけが残された。


 勝利……ではない。

 ただの、時間切れだ。


「……はぁ、はぁ……」


 俺はマイクを持ったまま、へたり込みそうになる膝を必死で支えた。

 心臓が早鐘を打っている。

 あと数秒、魔王の介入が遅れていたら、確実に全員蒸発していた。


 だが、カメラはまだ回っている。

 俺は震える手でサングラスの位置を直し、精一杯の虚勢を張って、レンズの向こうのリスナーに言い放った。


「……ふん。親に呼ばれて帰るとは、所詮は子供ね」


 (あぶねぇぇぇぇぇ!! 死ぬかと思ったぁぁぁぁ!!)


 心の中で絶叫しながら、俺はそっとマイクのスイッチを切った。

 こうして、第11層の攻略――いや、魔王軍との初遭遇戦は、カオスと爆音の中で幕を閉じたのだった。

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